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95 悪役令嬢とエイベル子爵令息

バンッと激しい音を立てながら扉を開いた。流石のエイベル子爵も、音に反応し慌てた様子で走ってきた。

「何だ、貴様らは」

寝起きなのか、くたびれたシャツを着た少しお酒の匂いがする小太りのおじさん。彼こそが、リックの父親だ。

「急な訪問で申し訳ありません。セシル=フローレスと申します。本日は、フローレス公爵代理として伺わせていただきました」

「フローレス…公爵家、何故」

分かりやすく動揺している。お父様とは話していないから、本当は代理とかではないんだけどね。

「あなたとはお話しておきたいことが沢山ありますから、是非部屋に通していただけないでしょうか」

「…は、はぁ、分かりました。応接室へご案内します」

ものすごく目が泳いでいる。断りたいけど、ここで断って困るのは自分達だということは分かっているようだ。

「では、お願いします。もちろん、そちらいるあなたも一緒に」

セシルの発言で気がついた。エイベル子爵の後ろ、少し離れた所でこちらの様子を伺っている二十代後半ぐらいの男性がいることに…


「騎士と侍女達は外で待たせます」

とセシルが言ってくれたため、私達は応接室の前にいる。セシルが時間を稼いでくれている間に、急いで探さないと

「では、手分けして探しましょうか」

レーネとダリルがコクリと頷いた。

使用人がいないおかげで、見つかる心配なく探すことができる。

「私はあちらを探してきますが、何かあったらすぐに戻ってきてくださいね」

私はレーネと分かれ、片っ端から部屋の扉を開けて中を確認する。少し罪悪があるが、致し方ない。

次はここの部屋…

「おや、随分と可愛らしいネズミが侵入したようだね」

誰だ!?エイベル子爵と令息は、今はセシルと…振り返るとセシル達と一緒に応接室に入った男性とは違う、二十代前半ぐらいの男性が立っていた。

一体誰?それに今の状況はまずい。どうやって誤魔化したら

「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。子猫ちゃん」

私の髪…と言ってもウィッグを手に取り、キスをしてきた。

「…その、お手洗いをお借りしようとしたら迷ってしま…」

「嘘は良くないな。でも、俺は優しいから、少し遊んでくれたら見逃してあげるよ」

所謂、壁ドンというやつをされてしまった。

「あなたは…」

「俺はジェイク、ジェイク=エイベル。それなりに有名だと思っていたんだけどなぁ」

エイベル…ってことはこの人が本物のエイベル子爵の息子。じゃあ、今応接室にいるのは誰?

「君、可愛いね。侍女にしておくのがもったいないな」

顎を持ち上げられ、顔をまじまじと見られている。

私が覚えていないだけで、夜会で会っている可能性がある。私がパトリシアだとバレるわけにはいかない。

目を逸らしていると、突然顔が迫ってきた。急いで避けるも頬にジェイクの唇が触れた。

「ふふ、可愛い。こういうのは初めてかな?」

アリシアやカイルにもされたことはあったが、恥ずかしさはあれど、こんな不快感はなかった。

とりあえず、適当にいなして早く逃げよう。

「…その、恥ずかしい…です」

どうだ、多分こういう男はこういうが反応好きだろ。知らないけど

「初心な感じが堪らないな。でも、次はその小鳥のような唇を奪っちゃおうかな」

ジェイクが私の唇に人差し指を当ててきた。やっぱり好印象、それにしてもネズミに子猫、そして小鳥か…一貫しろよ。小動物に例えればいいってものじゃないでしょ。

「はぁ、顔も身体も俺好みだな」

腰に触れてきたジェイクの手を退かそうとすると、ニタニタとした笑みを浮かべてきた。

背中がゾッとする感覚で身をよじると、何を勘違いしたのか、ジェイクは両手で私の襟を掴み、引っ張った。ボタンが飛んで、床に転がっていった。

マリーから借りたものなのに…ってそんなことより、流石にこれはまずい。

「嫌っ、やめてください」

怖いし気持ち悪い。首から胸にかけてをジェイクが、人差し指でなぞってきた。

「おっと、手が滑った」

ジェイクの手が私の太腿を撫でる。ダメだこれ以上は耐えられない。

私はジェイクを押して、距離を取る。

「照れちゃって、本当にかわ…ふぐっ」

私は回れ右をするようなかたちで、勢いよく回し蹴りをした。

「足が滑っちゃった」

私の蹴りはいい感じに顔に入り、ジェイクは軽く飛んで壁にぶつかった。

動かない…嘘、死んじゃった!?

「どうかされ…ました」

「違うの、これは正当防衛というか」

物音に気づいたのか、レーネが駆けつけきた。

「大丈夫ですか?」

「ええ、一応脈はあるから…」

すぐに手首を掴んで確認したところ、気絶しているだけのようで死んではいなかった。

「それの心配ではなくて、お嬢様は大丈夫ですか?」

「なんとか大丈夫」

ボタン回収しないと、あとジェイクをどこかに運んで…

「お嬢様、その格好…外套は、置いてきてしまった」

「大丈夫だから、気にしないで」

「大丈夫ではありません。とりあえず、これの身ぐるみ剥がしましょう」

レーネはジェイクのことこ(・)れ(・)って呼んで、今はジャケットを脱がせようとしている。

「これって」

ジェイクのジャケットの内ポケットから何かが出てきた。

「鍵…」

ジェイクが持っているってことは、リック達が隠されている部屋の鍵かもしれない。

「ダリルに報告に行きましょう」

私は気絶しているジェイクに、自白剤を飲ませてその場を後にした。



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