正直者のパトリシア
久しぶりにフローレス邸に招待された。着いてすぐにエリーゼはアリシアの部屋へ向かった、俺はパトリシアが温室にいると聞いて、慣れた足取りで温室へ向かう。
「エリオット、早かったわね」
カイルとミシェルはまだついていなかったようだ、良かった。
早く来たのは、セシルに頼まれたのもあったが…
「ハーブティーを淹れていたの。良かったら一緒に飲まない?」
パトリシアは穏やかな笑みを浮かべ、お茶の用意をしている。
少しだけでも、パトリシアと二人になれるのは俺にとっては嬉しいことだから
「ありがとう、一杯いただこうかな」
パトリシアは公爵家の令嬢なのに、お菓子作りだけでなく、お茶も淹れられるのか…
温室は前に来たときよりも、薬草が増えていると思っていたが、ハーブも育てていたとは
「はい、どうぞ」
パトリシアが淹れてくれたハーブティーを飲んでいると、いつもは綺麗に片付いていた作業台が目についた。薬を作っていたのか、作業台には乾燥した薬草と開いたままの本が置いてあった。
「何の薬を作ってたの?」
「じ、自白剤なんて作ってないよ」
パトリシアはビクッと肩を揺らしたあと、目を泳がせながらそう言った。
俺は開いたままの本を取った。案の定、自白剤の作り方が書いてあった。
「何で自白剤なんて…」
「何かあったときに、役に立つかもしれないでしょ」
「へぇ、やっぱり自白剤を作ってたんだ」
パトリシアはバッと手を口にあてて、目を逸らした。
パトリシアの言う何かというのは、この先起こってしまう可能性がある何かだろう。
「作るのは良いけど、間違っても自分に試そうなんてことはしないでね」
「…の、飲みました」
バツが悪い顔をしている。もしかしたらと思ったが、飲んでいたのか…
「まあ、飲んでしまったものは仕方ない…けど、危ないからもうやめなよ」
「……」
返事をする気がないのか、明後日の方向を見ている。これはやめるつもりないな、ちゃんと叱らないと、俺はパトリシアの両頬を掴み、顔をこちらに向けさせる。
「やめるって言わないなら…」
「エリオット、もう来ていたん…パトリシアに何をしているのかな?」
「トリシャちゃん、こっちにおいで」
パトリシアはミシェルに腕を引かれて、後ろに隠されている。俺はカイルにものすごい顔で睨まれている。
「誤解だ。俺はパトリシアを叱っていただけで」
やめるって言わないなら、フローレス公爵に伝えてやめさせるよう言ってもらおうとしていた。
「パトリシア、エリオットに叱られるようなことをしたの?」
「…自白剤を作って、飲んだことを叱られました」
パトリシアはしまったという顔をして口を手で隠した。
「自白剤?何でそんな物を?」
これは答えてしまったらまずい、俺はすぐさまパトリシアの口を塞いだ。パトリシアはモゴモゴしているが、何とか聞かれずにすんだ。
「ふーん、エリオットは知ってるんだ」
「トリシャちゃん、具合は悪くなってない?」
ミシェルはパトリシアの顔色や体温、脈拍の確認をしている。流石が医者の息子。
「平気よ、それにしても自白剤ってこんなに効果があるものなのね」
ミシェルの心配もよそに、当の本人は呑気なことを言っている。全く反省の色が見えない。
「反省してないでしょ」
「…心配をかけて申し訳ないって気持ちあるのよ。でも、ちゃんと効果があると分かって嬉しくて」
まあ、気持ちは分からなくはないけど、心配だからやめて欲しい。
「そっか、今日のパトリシアは素直で可愛いね」
カイルは満面の笑みで、パトリシアの頭を撫でている。
俺がセシルに早めに来てほしいと言われたのは、カイルとパトリシアを二人きりにさせないためだ。詳しい話は聞いてないが、セシルが怒るようなことを、カイルがパトリシアにしてしまったのだろう。
セシルは俺がパトリシアに膝枕をしてもらったときから、俺のことも警戒していたのに、最近はパトリシアの保護者のような扱いを受けている。そっちの方が都合が良いといえば良いけど
「ねぇねぇ、自白剤って脳を麻痺させて嘘をつきにくくする効果があるんだけど、ここまで効果あるのはおかしい気がするんだよね」
いつの間にか隣にいたミシェルが、耳打ちしてきた。俺は実際の効果を知らないが、ミシェルが言うならおかしいのだろう。
「パトリシアは大丈夫なの?」
「トリシャちゃんも言っていたけど、体調は問題なさそうだから大丈夫だよ」
体調に問題がないなら良かったと安心した反面、脳を麻痺させる薬を飲むのは危険過ぎる。
「トリシャちゃん、僕の事好き?」
「…ええ、好きよ。でも、恥ずかしいからそういうことは事聞かないでほしい」
可愛い、パトリシアは赤く染まった頬を両手で隠して、恥ずかしそうにしている。
ミシェルは体調に問題がないのを良いことに、この状況を楽しもうとしている。
「トリシャちゃん可愛い。じゃあ別のことを聞くね。セシルから聞いたんだけど、ここ最近食欲がないみたいだけど、何かあった?」
「最近、少し太ったから減量を…」
パトリシアは慌てて口に手をあてた。少しずつ顔が赤くなっている。
特に太ったようには見えない、むしろもう少し食べた方が良い気がする。
「全然太ってないよ。どうしてそう思ったの?」
「…半年前まで着られていたドレスがきつくなって」
余程恥ずかしかったのか、顔を隠すようにしゃがみ込んでしまった。
「最後に着たのが半年前なら、ドレスが縮んだだか、背が伸びただけかもしれないよ」
フォローをした俺が言うのもあれだけど、多分…背は伸びていない。
パトリシアもそういう悩みを抱えているのか、可愛いな。
「パトリシアは、太ってないよ…」
カイルの言葉を聞いて、パトリシアが少し顔を上げると、パトリシアがふわっと浮いた。
「こんなに簡単に抱き上げられるから」
パトリシアはカイルに抱き上げられている。
「このまま、フローレス邸の周りを歩き回ってあげようね」
「それはやめてください」
パトリシアはカイルの肩を掴みながら、背中を仰け反らせている。嫌がっている猫みたいで、少し面白い。
「とにかく、パトリシアは太ってないから大丈夫だよ」
カイルは満足したのか、パトリシアを降ろして頭を撫でている。
「…余計なことを言わないように、舌でも噛んでようかな」
パトリシアがぼそっと、危ない事を言ったため、カイルは一瞬で真顔になり、パトリシアを頬を掴んでいる。
「それは危ないからやめようね」
俺が薬の件で叱ったときは、返事もしなかったのにパトリシアはこくこくと頷いた。
「そうだ、トリシャちゃんにお土産があったんだ。はい、これチョコレート」
「ありがとう、ミシェル」
パトリシアの表情が明るくなった。好物を前に喜ぶところが可愛らしい。
「沢山口に含んでいたら、余計なことを言わなくて済むんじゃない?」
「でも、そんなに食べたら…むぐっ」
「ほら、美味しいよ」
パトリシアが何かを言いかけていたが、ミシェルにチョコレートを口に入れられている。
パトリシアもこれに懲りたら、作った薬を自分に試そうなんてことはしないだろう。




