嫉妬と苛立ち
姉さんの様子がおかしい。
領地の視察を終えて、帰ってきた。アリシアがいないから、姉さんを独り占めできると思い、姉さんの部屋へ向かった。
アンナから姉さんの具合が悪いと聞き、心配していたが、出迎えてくれた姉さんはどこかぼんやりとしていたが、熱がある様子でもなかった。
「姉さん、具合が悪いって聞いたけど大丈夫?」
「え?具合…悪くはないわよ」
姉さんは不思議そうに首を傾げた。嘘をついているようには見えない。けど、様子がおかしいのは明らかだ。
何だろう、嫌な予感がする。
「もしかして、カイル様が来てた?」
「な、何で分かったの?」
やっぱりそうか、僕とアリシアが不在なのを良いことに…
でも、いつもならこんな反応なんてしないのに
「カイル様と何かあった?」
僕がそう問いかけると、姉さんの顔がみるみる紅潮していく。
「あ、あれは事故だから…何もないわ」
まさか、本当にカイル様が姉さんに…
「事故ね、事故なら何があったのか教えて欲しいんだけど」
「で、でも」
「僕では頼りにならない?」
姉さんはアリシアと僕には甘い、少し悲しげな表情をするだけで…
「そんなことないわ!!」
僕の手をぎゅっと握ってくれた。
「なら話せるよね。話してくれないと、僕は頼りにならないんだって傷つきそう」
「分かったわ、だからそんな顔しないで」
「あのね…今日ね、カイル様がいらっしゃったんだけど」
姉さんは俯き加減で、ぽつりぽつりと話し始めた。
「それで…」
唇を指で触り、頬を赤く染めた様子が艶っぽくて、思わず見惚れてしまった。
違う、見惚れている場合じゃない。これって…そういうこと
「…カイル様とキスしたの?」
姉さんはコクリと頷いた。まさか、カイル様がここまで手が早い人だとは思わなかった。そもそも、連絡もなしに来るのもどうなんだ。王族はみんなそうなのか?
「事故で、一瞬唇が触れただけで」
「…本当に事故なの?」
「え?」
「カイル様と二人きりだったんでしょ?姉さんが事故だと思っているだけで、カイル様は違うんじゃない?」
姉さんが悪いわけじゃないのはわかっているのに、責めるような口調で言ってしまった。
「男と二人きりになるのは危険だって分からない?」
勝手に来たのはカイル様で、侍女達も相手は姉さんの婚約者となれば姉さんの部屋に通すのは仕方ない。それでも、腹が立つ。
「セシル?」
僕は姉さんの肩を掴んで後ろに倒し、両腕を押さえつける。
「こんなふうに、簡単に押し倒されるかもしれないんだよ」
こんなことをするつもりはなかったけど、どうしても怒りが収まらない。姉さんを怖がらせてしまったかもしれない。
「…ごめんなさい。手を離して」
姉さんは真っ赤な顔で涙目になって震えている。
「痛かったよね、ごめんね」
「そうじゃなくて、恥ずかしいから…顔を隠したいの」
僕が掴んでいた手を離すと、姉さんは手で顔を隠してしまった。怖がってはいないみたいだけど、僕は姉さんになんてことを
「僕、ちょっと頭を冷やしてくる」
姉さんの上から降りて、扉へ向かう…向かおうとしたが…
「私の方が恥ずかしい思いをしたのに、逃げるの?」
姉さんに腕を引っ張られて、ソファに座り直させられた。
「…姉さん?」
「カイル様も、ぶつかってきたのはあちらなのに、逃げるように帰ったのよ」
ぶつかってきた?本当に事故だったってこと?それにしても、カイル様が逃げるように帰った?あのカイル様が!?
「セシルは事故でも、女性にキスをしてしまったら逃げては駄目よ」
姉さんは腕を組んで、ムスッとした顔をしている。
「分かったよ、姉さん」
僕は姉さんの頬に触れ、前髪を除けて額に口を付ける。
「へ?」
「姉さんも、逃げちゃダメだよ」
まあ、ここは姉さんの部屋だから、逃げようはないけど
額を抑えて、口をはくはくとしている姉さんを見て、苛立ちは少し収まったけど、カイル様への怒りは増していく。どうにか出入禁止にできないものか。
アリシアが帰ってきたら、話し合わないと…事故だろうと関係ない。カイル様のことは許さない。




