カイル殿下は思い悩む。
気がついたら、自室にいた。
「あれ?カイル殿下、パトリシア嬢に会いに行かれたのでは?」
そうだ、私はアルフレッド宰相から聞いて、セシルとアリシアが不在なことを確認した上で、パトリシアに会いに行って…膝枕をしてもらって、それから、それから…パトリシアと口づけを…
ハッ、私はキスをして逃げてしまったのか、私はなんて不誠実なことを…でも、あれは事故だったし、パトリシアは気にしていないかもしれない。いや、それはそれで傷つくけど
はぁ、唇へのキスはちゃんとパトリシアと思いが通じ合ってからと決めていたのに
それにしても、一瞬だったけどパトリシアの唇…
「…柔らかかったな」
夕食と入浴を済ませ、ベッドに横になる。
そういえば、コーデリア侯爵邸に行った日の帰り際、エレノアに
「カイル様には、これからパトリシア様がおつけになる香水もお贈り致しますね。寝具にかけるとパトリシア様と一緒にいる気分になれそうではありませんか?」
なんて言われたな。
パトリシアは香水をつけていなかったけど、つけていなくても甘い香りがした。
私も少し前まではアリシアと同じで、パトリシアは香水をつけているものだと思っていた。けど、あれはパトリシア自身の匂いだったのか
香水の匂いを移して、意識してもらうつもりだったのに違う問題が発生してしまった。
「おはようございます。カイル殿下」
私は従者のガイにカーテンを開けられ、起こされる。
「いつもは僕が来る前に身支度を済ませていらっしゃるのに、珍しいですね」
全然眠れなかった。
「そういえば、カイル殿下に頼まれていた本をご用意致しました」
パトリシアがアリシアから借りたという小説のことだ。
ガイは本を置いて部屋を出ていった。
家族との朝食を済ませ、自室へ戻り、私はさっそく小説を読む。
タイトルからなんとなく分かっていたが、ロマンス小説だった。
先日のお茶会の話は少し聞いていたが、パトリシアと護衛騎士が親密そうだったとか、この小説に出てくる登場人物に似ていると言う話をしていたと
確かに、容姿だけなら、ダリルは暗黒騎士に似ているが、暗黒騎士が一匹狼なら、ダリルは忠犬だ。性格は全く似ていない。
でも、『青いバラの乙女』と呼ばれる姫の特徴はパトリシアと一致していた。美しい金髪に、吸い込まれそうな青い瞳。心優しく、芯の強い姫。パトリシアのことを知っている人間が書いたのかと思うぐらい。
この小説は騎士と姫が結ばれて、二人は幸せになったが、姫と婚約していた王子が可哀想だった。愛を囁いても、姫は騎士との思い出と重ねてしまい、切ない表情を浮かべる。
私は、王子に共感してしまっているのだろう。
パトリシアの周りには、パトリシアを想っている人が沢山いる。
パトリシアはまだ、その中の誰かに恋愛感情を抱いているわけではなさそうだけど、もしそうなったときに、私との婚約が彼女を苦しめるのも嫌だ。
そんなことにはならないように、私はパトリシアを絶対に誰にも渡さない。
ただ、昨日の件もあって次に会うときに、どんな顔をすれば良いのかが分からない。事故とはいえ、変に意識せず普段通りに振る舞って、なかったことになるのも辛い。
セシルとアリシアの妨害を考えると、王宮に呼ぶの方が良いんだろうけど、今回ばかりはそうはいかない。
今日は公務があるから明日にでも伺おう。




