記念日
衣装部屋に着くと、イーサンが扉を叩く。
「カイル殿下達を連れてきたよ。そろそろ入っても大丈夫?」
「お兄様、大丈夫ですわ」
扉の向こうから、エレノアの声が聞こえてきた。
「さあ、入りましょう」
扉が開いて、真っ先にパトリシアが目に入った。パトリシアは黒色のドレスを着ている、レースやフリル等の装飾が沢山ついているのに、大人っぽいデザインだ。黒色が彼女の白い肌と綺麗なハニーブロンドを際立たせている。触れたら壊れてしまそう、表情も相まって人形っぽい。
「へぇ、可愛いドレスだね」
「エリーゼ、汚さないように気をつけろよ」
「アリシアも気をつけなよ」
私が部屋に入るより先に、セシル達が入っていった。
「パトリシア嬢、カイル殿下がお聞きしたいことがあるみたいだよ」
そうだ、パトリシアが婚約した日を覚えているかを確認するんだ。
「カイル様、何でしょう?」
パトリシアが、私のことを見ている。
「パトリシアは…11月20日が何の日か分かる?」
「……カイル様と婚約した日?」
パトリシアが首を傾げる。覚えていてくれた。それが嬉しくて抱きしめてしまいたい…ところだが、それは難しいだろう。セシルとミシェルは露骨に不服そうな顔をしている。
「そうだよ。覚えていてくれたんだ…」
「お姉様、4月24日が何の日か分かりますか?」
私が話しているのに押し退けるように、アリシアが私の前に出た。
「ふふっ、アリシアが私の妹になった日ね」
「はい、お姉様が私のお姉様になった日です。今でも昨日のことのように思い出せます」
アリシアに話を奪われてしまった。
それから、アリシアはパトリシアとひとしきり話したあと、満足したのかパトリシアから離れて、エリーゼと話している。
私はパトリシアに近づく、一つだけ気になることがあった。
「パトリシアは、毎年私が花を贈ると不思議そうにしていたから、覚えていないのかと思ったよ」
「私の中では記念日って、なんとなく結婚した日という感覚だったので」
そうか、だから不思議そうにしていたのか。パトリシアから結婚という言葉が出てくるとは思わなかった。
「パトリシアと婚約できた特別な日だから、結婚するまではお祝いするつもりだよ」
「そう…ですか」
そういえば、パトリシアにドレスの感想をまだ伝えていなかった。
「パトリシア、そのドレスも似合っているよ。可愛い」
「ありがとうございます。でも、私が着ると悪女っぽくないですか?」
困ったようにはにかんだ。こんなに可愛い悪女がいるわけがない。
「そんなことないよ。本当に何を着ても可愛いね」
「褒めても何も出ませんよ」
パトリシアは照れているのか、頬が少し赤くなった。
そういえば、エレノアとアリシアは、リボンとレースが沢山の白いドレスを着ている。あちらのドレスもパトリシアに似合いそう。
「パトリシアは、アリシアが着ているみたいな白いドレスは着ないの?」
黒色のドレスももちろん似合っていた。でも、淡い色のドレスは私が前に贈ったドレス以外で、着ているところを見たことがない。
「このドレスはコーデリア侯爵夫人が選んでくださったんです。アリシアの着ているドレスも可愛いですよね」
パトリシアは、アリシアを見て柔らかく微笑んだ。
「…カイル様は、どちらのドレスがお好みですか?」
これは、私が好きだと言った方を着てくれるのでは?せっかくだから、白いドレスを着ているところも見てみたい。
「白いドレスかな」
「分かりました。伝えておきます」
伝える?誰に…そうか、ドレスを用意したコーデリア侯爵夫人に伝えるのか。パトリシアはあのような可愛らしいデザインも似合うだろう。着ているところを見るのが楽しみだ。そんなことを考えていると、先程まで正面にいたパトリシアが私の隣に来て、袖をキュッと掴んだ。可愛い…どうしたんだろう?
パトリシアはキョロキョロと周囲を見たあと
「カイル様少しお耳をお借りしても?」
と言った。パトリシアからこんなことをされるのは初めてだ、みんなに聞かれたくないなんて、何を話してくれるんだろう
「このドレスなんですが、今はカイル様が着られるサイズはないみたいです。でも、そのうち大きめのサイズのものも展開するそうですよ」
…私が着られるサイズ?いや、流石にドレスのことではないだろう……このドレスって言っていたな。
「ごめんね。何のことかな?」
「カイル様も着たかったのでしょう?」
ん?パトリシアは私がドレスを着たがっていると思っているのか?何故……もしかして、前にエリオット達と女装したときのことを言っているのか?
「パトリシア、何か勘違いをしているみたいだけど、私に女装の趣味はないよ」
「でもさっき、白いドレスが着たいと…」
「それは、パトリシアに着てもらいたくて」
「…そうだったんですね」
なんとか誤解は解けたようだ。それにしても、パトリシアは私に女装趣味があった方が良かったのだろうか?
「カイル殿下、良かったですね。パトリシア嬢はちゃんと覚えていましたね」
パトリシア達が着替えるため、私は元々いた部屋へ戻ってきた。
「毎年同じ日に、花を贈られるから気づいただけでは?」
仮にそうだったとしても、別に構わない。
「トリシャちゃん、僕と初めて会った日も覚えていてくれたよ」
「そういえば、俺と出会った日も覚えていたよ」
「姉さんは、カイル様との記念日とかは関係なく記憶力が良かっただけですね」
いつの間に、パトリシアとそんな話を…どうせなら私も、初めて会った日のことを聞けばよかった。




