異変の正体
突然カイルがやって来て、パトリシアがおかしいから急いで来てくれと言われた。
フローレス邸に着くと、応接室に通されてセシルとアリシア、カイルと話した。
「パトリシアがおかしいって、何があったの?」
俺が話を切り出すと、セシルが口を開いた。
「姉さんは、昨日熱が出てずっと休んでいたのですが、今朝部屋に行ったときには…」
「でも、つれないお姉様も素敵でした。いつもの優しくてあたたかい笑顔も良いんですが、ツンツンとした冷たい表情も可愛らしくて」
アリシアがうっとりとした表情で語る。
パトリシアが冷たい?あのパトリシアが?
「確かに可愛かったけど…」
セシルがカイルに、憐れむような視線を向けている。
「…パトリシアに嫌われた、何故」
カイルは頭を抱えブツブツとうわ言を言っている。
「とりあえず、俺もパトリシアに会いに行ってもいい?」
俺達は応接室から出て、パトリシアの部屋へ向かった。
「姉さん、エリオット様がいらっしゃったよ」
セシルが扉を叩いてそう言うと、少しだけ扉が開いた。
「エリオットだけ入って」
俺の知っているパトリシアの声とは違い、冷たかった。
俺だけ部屋に入ると、パトリシアはソファに座った。俺も向かい側に座る。
いつもとまとった雰囲気が違う。何だろうこの違和感…
「君は…もしかして、アリシアのこと嫌い?」
「ふふ、貴方面白いことを言うわね」
パトリシアは冷たく笑った。
「あの子に何を聞いたのか知らないけど、貴方には教えてあげる」
やっぱり、このパトリシアは…
「君は誰なんだ?」
「私はパトリシア=フローレスよ。でも、貴方の知っているパトリシアではない」
俺の知っているパトリシアではないということは、前に聞いた夢の話と関係しているのでは
「本物のパトリシアは?」
「偽物も本物もないは、あの子は眠っているだけよ、消えたわけじゃないわ」
それを聞いてホッとした。
「信じてもらわなくて良いけど、私は一度死んだの」
「え?」
「私は貴方が言ったように、アリシアが大嫌いだった。だから、刺客を送ったのよ。すぐに見つかってしまったけど」
パトリシアに聞いた夢の話と一緒だ…最後は詳しくは教えてくれなかった。
「私は、カイル殿下の手で拷問を受けたわ。指を折られ、目を抉られた」
…だから、カイルを避けたのか。でも、今のカイルからは想像も…いや、そうでもないか
「ふふ、信じられないでしょう。でもね、カイル殿下はそれだけアリシアのことを愛していたのよ」
「私は、全てを失ったのよ。フローレス家を継ぐのは私だったのに、セシルに奪われた。カイル殿下との婚約も本当は嫌だった、それでも自分の居場所ができると信じて…信じていたのに、カイル殿下はアリシアを好きになった」
俺は、ただ黙って聞いている。
「アリシアのこと、異母姉妹だと思っていたの。だから、お父様のことをずっとお母様を裏切っていたんだって…そう思っていて、お父様にも酷いことを言ってしまった。でも、本当は血は繋がっていなかった。不思議よねあの子は知っていたの。だから、一度目の私よりも上手くやっているわ」
あの子…俺の知っているパトリシアと今話している彼女は別の存在なのだろうか?
「君は、いつから…」
「私は稀代の悪女なんて呼ばれて、処刑された。でも、目を覚ますと八歳の私がいて…私はただ、あの子の行動を見ていることしかできなかった」
そんな前からずっと、でも今までこんなことはなかった。
「私はあの子が眠っているときだけ動けるの。あの子は私の存在は知らないわ」
心を読まれたのか、彼女は笑った。
「夜だけ自由に動けるの、だから一度目ではできなかったことを沢山しようと思って、そのせいであの子は昼間、眠気に襲われているのだけど」
一つの身体を二人が使って、負担とかはないのだろうか…
「そういえば、今は夜じゃないけどどうして動けるの?」
「熱で苦しいのに動きたくないじゃない、それにたまには日光を浴びたかったし。まぁアリシア達が来ることは予測してなかったけど」
眠っている間しか動けないのも大変だな。
「俺に何かできることはある?」
「こんな突飛な話を信じるのね。できることね…なくはないけど、そんなことより、私はもう少ししたら眠るから、アリシア達へ適当に誤魔化しておいて欲しいわ」
そんなことって、それに適当にって…まぁ良いけど
「あの子が貴方だけに話した理由が分かった気がするわ」
彼女は立ち上がり、俺の隣座った。
「私、貴方のこと好きよ」
襟を掴まれて引き寄せられた。彼女の顔が近づき、頬に柔らかな感触が
「…え、は?」
柔らかな感触の正体が、唇だったことに気づき、顔が熱くなる。
「ふふ、初心ね、あの子にプロポーズしたくせに」
「は?なっ、何で知って」
「私は、あの子が眠っているときだけ動けるって言ったでしょ」
…知っていたら、絶対に言わなかったのに
「次はあの子が起きているときにしなさい」
そう言って楽しげに笑った彼女は間違いなく稀代の悪女だ。




