姉さんの異変
姉さんは、夜会でナイセル伯爵令嬢に水をかけられたせいで風邪を引いた。昨日、アリシアと様子を見に行ったときは高熱とまではいかないが、まだ少し熱かった。
偶然、姉さんの部屋の近くまで来ていたし、体調の確認だけでもしておこう。偶然来ただけ、無意識で姉さんの部屋まで来ていたわけじゃない…はず
扉が少し開いている。誰かが来て閉め忘れたのか?勝手に入るのは気が引けるが、何か言われたら扉が開いていたから気になったと言おう。
「姉さん?」
姉さんの部屋へ入ると、呆然と立ち尽くしているアリシアと、ベッドの上で上半身を起こして頭を抱えている姉さんがいた。
「姉さんどうしたの?アリシア何があった?」
アリシアの肩を揺するも反応がない。
「はぁ…揃いも揃って朝っぱらからうるさいわね」
「え?」
今誰が…姉さん?いや、姉さんはそんなことを言わない。でも、間違いなく姉さんの声だった。
「アリシア、こっちへ来なさい」
いつもの優しげな口調ではなく、命令するような口調で姉さんの声がアリシアを呼ぶ。
立ち尽くしていたアリシアは、ハッとしてベッドの近くへ行った。
姉さんはアリシアの両頬を片手で掴む
「ふーん……ねぇアリシア、私の事好き?」
アリシアの顔が一気に真っ赤になった。それにしても、彼女は本当に姉さんなんだろうか?姉さんで間違いないんだけど、何かおかしい。
「…はわわ、も、もちろんお慕いしております」
アリシアがおかしいのは元々だけど…
「…姉さん、具合は?熱は下がったの?」
「ふふ、平気よ。そんなことより、セシル貴方もこっちへ来なさい」
昨日と比べて顔色も良いし、嘘をついているわけではなさそうだ。僕が近づくと、姉さんは毛布をはいでベッドに座る。
「私、庭園に行きたいのだけど、運んでくれない?」
「……え?」
運ぶ…何を?……姉さんを…僕が?
「ふふ、嫌なら良いのよ。ダリルにでも頼もうかしら」
「い、嫌じゃない」
「お兄様ずるいです。私もお姉様を抱っこしたいです」
僕は姉さんを抱きかかえて、庭園へ向かっている。アリシアは不機嫌そうに隣を歩いている。
「そんな小さい身体で私を抱き上げたいなんて、笑わせないでちょうだい」
「私、お姉様を片手で持ち上げられるように鍛えます」
アリシアの発言は置いておいて、姉さんのアリシアに対する態度が少し冷たく感じる。
姉さんの部屋を出て階段を下りると、エントランスから見覚えのある人がこちらに向かって歩いている。
「パトリシア、風邪を引いたと聞いていたけど、もう大丈夫なのかな?」
カイル様が花束を持ってやって来た。
「…降ろして」
姉さんはカイル様を見るなり険しい顔をして、そう言った。姉さんをそっと降ろすと、姉さんは僕とアリシアの後ろに隠れた。
姉さんが僕の服を掴んでいる。
「セシル…パトリシアは何故、私を見るなり隠れてしまったのかな?」
カイル様が引きつった笑顔で僕に問いかける。
僕も分からないけど、カイル様に八つ当たりされるのも面倒だ。
「姉さん、どうかした?」
「お姉様、大丈夫ですか?すぐにカイル様を追い返します?」
アリシアは怖いもの知らずが過ぎる。けど、僕もできるならそうしたい。
「…平気よ。ただ、着替えていなかったから、隠れただけよ」
姉さんは少し俯いてそう言った。そういえば、姉さんは寝間着のままだった。確かに、カイル様に姉さんの寝間着姿を見せるわけにはいかない。
「パトリシアはどんな格好でも可愛いから大丈夫だよ」
聞こえていたのか、カイル様が会話に参加してきた。
「ところで、セシルは何でパトリシアを抱きかかえていたのかな?」
やっぱり聞いてきた。そもそも連絡なしで来たのはカイル様なのに不機嫌になられても困る。
「姉さんに頼まれたので」
「パトリシア、私が部屋まで運んであげるよ」
カイル様が隠れていた姉さんの手を取る。
「結構です」
姉さんが手を払いのけて、顔をそむける。可愛いけど、カイル様はショックだろうな。
「……」
カイル様は固まってしまった。
「…可愛い。お姉様、今のもう一回やってください」
アリシアがキラキラした顔で姉さんを見つめている。
「何よ、絶対嫌よ」
そう言って姉さんまた顔をそむけた。本人は無意識だろうけど、結果的にもう一回している。
「きゃあ、可愛いです。お姉様もう一回、もう一回お願いします」
アリシアが姉さんに抱きつこうとしたが
「私は部屋に戻るわ」
と姉さんはムッとした顔して、階段を上っていった。
追いかけようとしたが、落ち込んでいるであろうカイル様をどうにかしないと




