84 悪役令嬢は風邪を引く。
夜会から一夜明け、私は案の定風邪を引いた。
「お嬢様大丈夫ですか?」
「うーん…大丈夫」
頭が重いし、身体が熱い。アンナが何度も濡れタオルを替えてくれるが、熱が下がってきている感じはない。
今まで風邪なんて引いたことなかったのにな…
昨日の帰宅中、私は馬車でセシルとカイルに心配された。
「姉さん、寒くない?」
「平気よ」
「私の上着も使って」
「いえ、そんなに寒くないですから」
本当はめちゃくちゃ寒かった。ドレスどころか、下着まで濡れた。着替えなんて持ってきているわけもなく、セシルから借りた上着を羽織っていたけど、ドレスが乾いたわけでもないから身体は冷えていた。
帰宅してからすぐにお風呂に入って身体を温めたんだけどな。
「お嬢様、私はこれで失礼します。何かありましたらすぐにお呼びください」
アンナは私の手が届くところに、水とベルを置いて部屋を出ていった。
眠るに眠れなくて、ボーッと天井を見ていると、ノックの音がしたその後レーネが入ってきた。
「お嬢様、お加減はいかがですか?」
「心配してくれてありがとう。大丈夫よ」
レーネがベッドの横に来て、濡れタオルをどかして私のおでこに触れる。レーネの手が冷たくて気持ちいい。
「全然大丈夫ではなさそうですけど」
ため息交じりにそういう言って、タオルを替えてくれた。
「昨日の夜会で、何があったのですか?」
レーネがもう一枚タオルを濡らして、私の汗を拭きながら聞いてきた。
「えーと…ちょっと不注意で水をかぶってしまって」
別に誤魔化す必要もないけど、ただでさえ風邪を引いて心配をかけさせてるのに、余計なことを言うべきではないだろう。
「誰かにかけられたのですか?男性ですか?女性ですか?」
レーネが声を荒らげた、初めて見る表情だ。
「いや、その女の子だけど…」
驚きのあまり、「誰かにかけられた」という質問に普通に答えてしまった。
「はぁ、やはり王子の婚約者だからですか?それで嫌がらせを…」
「違うの、今回はそういうんじゃなくて」
「今回は?」
また余計なことを言ってしまった。
「前にも何かあったのですね。詳しいお話しは治ってから聞かせてもらいます。お嬢様はご自分を大切にしてください」
レーネは優しく私の頭を撫でた後、部屋を出ていった。
そういえば、レーネはベルを鳴らしたわけでもないのに、来てくれたんだな。口調は淡々としているけど、優しいな。
いつの間にか眠りについてしまい、目を覚ますと窓の外は朱色に染まっていた。
熱も少し下がったのか、頭の重みもさっきより良くなった。
身体を起こすと、おでこに乗っていたタオルが落ちてきた。まだ冷たいということは、寝ている間もタオルを替えに来てくれていたのかな。
アンナなのかレーネなのかは分からないけど、治ったらちゃんとお礼を言わないとそんなことを考えていると扉を叩かれる。
私は「どうぞ」と返事をすると、扉がゆっくり開いた。
「お姉様、具合は大丈夫ですか」
アリシアとセシルがやって来た。
「アンナがもう少ししたら、パン粥を持ってきてくれるよ」
「ありがとう、二人の顔を見たら元気になったわ」
アリシアはぱぁっと明るい笑顔になったが、セシルは訝しげな顔でこちらに近づいてきて、おでこに手を当ててきた。
「まだ少し熱いけど?無理せずに横になりなよ」
セシルは怒っているというより、少し呆れたような声で言った。
「お姉様…風邪は移したら治ると聞いた事があります」
私は横になると、アリシアもベッドに近づいてきた。
「是非、私に移してください」
「アリシアの具合が悪くなるのは嫌よ。そもそも、どうやって移すの?」
少し同じ部屋にいても、免疫力が弱っていない限りはそう簡単に移らないだろう。
「それは…」
アリシアが私の顔を一瞬見たあと、両手で真っ赤になった顔を隠している。まさか、もう移ったの?
「アリシア?顔が赤いけど大丈夫?」
「姉さん、アリシア大丈夫だから。ゆっくり休んで」
セシルがアリシアの腕を掴んで、部屋を出ていった。
その後、セシルが言っていた通り、アンナがパン粥を持ってきてくれた。パン粥を食べたあと、薬を飲んで少しすると沢山寝ていたにも関わらず、急激な眠気が襲ってきた。




