君に触れる意味
今日はパトリシアと二人でお茶をする…はずだったのに…
「パトリシア、それたべたい」
「フィナンシェですね。今取りますね」
私の向かいに座るパトリシアの膝の上には、シャルルがいる。
「シャルル、お菓子なら部屋に持っていかせるから、部屋に戻ろうか」
なるべく優しく言ったつもりだったが、シャルルは
「やだ、まだパトリシアといっしょにいるの」
と言って、パトリシアの膝の上でジタバタし始めた。
「シャルル様、こっちも美味しいですよ」
パトリシアはシャルルが落ちないように、左手でシャルルを抑えながら、あやしている。
「おいしい」
シャルルは落ち着いたようで、嬉しそうにお菓子を頬張っている。
せっかく、二人きりになれると思ったのに…
この前はエレノアが気を利かせてくれたけど、セシルがすぐに戻ってきてしまって、結局あまり話せなかった。
ここなら、邪魔は入らないと思ったんだけど思わぬ敵が現れた。
まあ、パトリシアが義弟となるシャルルと仲が良いのは悪いことではないけど、パトリシアはシャルルとしか話していないし、まったく目が合わない。
「ねぇねぇ、パトリシアはおにいさまとけっこん
するんでしょ?」
シャルルの発言で、ようやくパトリシアと目が合ったが、すぐに逸らされてしまった。
「…えっと、そうですね」
婚約の解消に、結婚しないと宣言していたパトリシアが…嬉しい。シャルルにはあとで何かご褒美をあげよう。
「じゃあさ、パトリシアもいっしょにおしろにすむんでしょ」
「そうなるんですかね?」
パトリシアが首を傾げながら、私を見る。
「そうなるね」
前にパトリシアが泊まった部屋は、客間ではなく結婚したときにパトリシアに使ってもらうために用意した部屋だ。もちろん、隣は私の部屋。
でも、結婚する前に妃教育を受けてもらう必要もあるし、城に住むなら早いほうが良いのだけど…
「やったー。そしたらまいにちいっしょにおかしたべたりできるね」
パトリシアは私と結婚するわけだから、シャルルに使う時間なんて取らせないし、仮にそんな時間があったとしたら絶対に私も同伴する。私がそんなことを教えているとパトリシアは
「シャルル様は可愛らしいですね」
と言って、シャルルをぎゅっと抱きしめている。
このままだと、結婚後も私よりもシャルルを優先されてしまう。現に今もそうだ。
シャルルは自分を甘やかしてくれる存在に、懐いているだけということは理解している。それにパトリシアも弟妹への態度からして、子供好きなだけということも分かっている。それでも嫉妬してしまう自分がいる。そろそろ、シャルルを追い出すか
「シャルル…」
「おにいさまはエレノアともけっこんするの?」
シャルルに言葉を遮られた挙句、あらぬ疑いまでかけられてしまった。流石に、パトリシアは信じてないだろうけど
「シャルル様それはどういうことですか?」
パトリシアが食いついてしまった。
「おにいさまね、パトリシアとおなじようにエレノアともいっしょにおかしたべて、おしゃべりしてるから」
要するに婚約者であるパトリシアと同じように一緒にお茶をしていたから、そう思ったのだろう。
「エレノアとは結婚しないよ。シャルル、お昼寝の時間だから部屋に戻ろうか」
これ以上余計なことを言われては困る。
パトリシアの膝に座っている、シャルルを抱き上げるもシャルルは、ジタバタと手足を動かして暴れている。
「まだ、ねむくない」
「沢山寝ないと大きくなれないけど良いのかな?」
そう言って両頬を片手で掴むと、大人しくなった。
「おひるねする。おにいさまよりおおきくなるんだもん」
「はいはい、パトリシア少し待ってて」
私が部屋を出ると、ちょうどシャルルを迎えに来たであろう侍女に、シャルルを引き渡した。
「パトリシア、シャルルの話していたことだけど…」
部屋へ戻り、話を切り出そうとパトリシアに声をかけると、パトリシアは難しい顔をしていた。
「パトリシア?」
「あ、すみません。ボーッとしていました」
ボーッとしている顔ではなかったけど…
「前にも話したけど、エレノアはコーデリア侯爵の付き添い兼、私の話し相手として来ているだけだよ」
私はパトリシアの隣に座り、手を握る。
「そうですよね。…でも、友人とはいえ男女が二人きりでお茶をしていると、そう思われても仕方ありませんよ」
パトリシアは諭すようにそう言ったが、表情は柔らかな笑みを浮かべた。
今後はエレノアへの相談はやめることにしよう。
「誤解を招くようなことをしてしまって、ごめんね」
パトリシアの頬を撫でると、パトリシアに手を掴まれて、頬から離される。
「あの…ずっと聞きたかったんですが、何で頬を触ってくるんですか?」
何で…と言われてもほぼ無意識だったから…
「…嫌だった?」
「いえ、そういうわけではないんですけど、シャルル様のと違って、触っても楽しいものではないので」
「触って楽しいとかではなくて、君に触れたくて気づいたら頬を触ってしまうんだ」
可愛らしくて、思わず手が伸びてしまうんだ。
「…そうだったんですね」
パトリシアは顔を逸らしてしまったが、頬を赤く染めたその様子が愛おしくて、また手を伸ばしてしまう。
「今は触らないでください」
と手を払われてしまった。
本当は話したいことが沢山あったけど、今この瞬間、そんなことを忘れてしまうぐらい幸せな時間を過ごせた気がする。




