80 悪役令嬢は義弟と踊る。
今日はセシルの社交界デビューの日だ。セシルの礼服に合わせて私もドレスを新調した。沢山あるからと断ろうともしたが、結局流されてしまった。
セシルの礼服は深緑色に金色の刺繍が施されたものだ。
「姉さん、変じゃないかな?」
セシルが袖口を直しながら、少し照れくさそうにやって来た。
「ふふっ、格好良いけどタイが曲がっているわよ」
相変わらず、タイを結ぶのが苦手なようだ。
「ありがとう。姉さんもそのドレス似合っているよ」
私は深緑のシックなドレスを着ている。胸元はレースで縁取られていて、今まで着たことのない形のものだ。
「行きましょうか」
私はセシルの手を取り、エントランスに向かう。
エントランスには、お父様と母上、そして少し不機嫌そうなアリシアがいた。
「セシルもパトリシアも素敵ね」
母上は優しく笑う。母上は夫人会に出かけることはあっても、夜会に行くことはない。騎士や従者達がいても、子供を残して行くわけにはいかないからという理由だ。本当に慈愛に満ちた人だ。
「お姉様…私も一緒に行きたいです」
今にも泣きそうな顔で、アリシアが抱きついてきた。
「ごめんなさい。アリシア、代わりと言ってはなんだけど、明日は一日一緒にいてあげるからね」
「絶対ですよ」
アリシアは嬉しそうにニコッと笑った。アリシアの社交界デビューまであと二年、早く連れて行ってあげたいな。
私とセシルの向かいにお父様が座るかたちで馬車に乗る。
「いいかい、セシル。知らない人にはついて行ってはダメだよ、それから具合が悪くなったらすぐに言ってね。後、嫌なことを言われたりされたときは、家名を必ず聞いておきなさい。そうしたら僕が何とかするからね」
お父様は私にも言っていた事を、セシルにも言っている。
「はい、気をつけます」
セシルはしっかりしているから大丈夫だと思うんだけど
「お父様は心配性ね」
「パトリシアのことも心配しているんだよ」
「そうだよ。姉さんも気をつけるんだよ」
二人が真剣な顔で私を見てきた。
「…はい」
御者の「着きました」という声が聞こえ、降りる準備を始める。
「行こうか」
お父様とセシルの手を借りて、馬車を降りた。
約束通り、セシルにエスコートをしてもらいながら、会場に入ると友人たちを見つける。
先に、国王陛下とカイルへの挨拶をする。
「パトリシア、息災だったか?」
「はい、お久しぶりにお目にかかれて嬉しいです」
「セシルも元気そうだな」
「国王陛下、カイル殿下。お会いできて光栄です」
国王陛下はセシルに会ったことがあるような口ぶりだったが、セシルはそういった様子はない。私の気のせいだったのかな。
「セシル、パトリシアと踊ったら、紹介したい人達がいるから僕の所に来て欲しい」
お父様は、私とセシルの肩をポンッと叩くと
「行っておいで」
と言った。
「姉さん、僕と一曲踊ってくれますか?」
セシルが私に手を差し出す。
「もちろん」
と言って、その手を取った。
セシルとのダンスは今まで踊ってきた人達よりも、踊りやすい。ずっと一緒に練習してきただけあって、一番息が合う。
「姉さんはこのあと誰かと踊るの?」
「今日はもう踊るつもりはないわ」
誘われたら踊らないといけないだろうけど…
「良かった…」
セシルはホッとした表情をしている。
私が他の人と踊るのが不都合なのかな?もしかして、自分では気づいてないだけで下手だったのかな。申し訳なくて、セシルの顔を見ていると
「あんまり見つめられると、困るんだけど」
と目を逸らされてしまった。
ダンスの練習、もう少し頑張らないとな…




