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78 悪役令嬢は義弟を祝う。

社交シーズンも終わり、数ヶ月経った。今日は十月一日、二週間後の十五日でセシルも成人だ。

今年は盛大にお祝いしないと。毎年、誕生日プレゼントに何が欲しいか聞いてはいるんだけど…

「姉さんがくれるものは何でも嬉しいから」

と言われて困っていた。

ちなみにアリシアは

「お姉様とお揃いで…」

と毎年欲しいものをしっかり教えてくれる。


去年は緑の石のついたループタイをプレゼントした。タイを結ぶのが苦手なセシルにぴったりだと思ったのだけど、セシルは受け取ってくれたものの、何とも言えない顔をしていた。

でも、今年も一応聞いておこう。


「セシル、今年の誕生日は何が欲しい?」

「何でも良いの?」

セシルが珍しく目を輝かせる。今年は欲しい物が決まっているのかな?

「私にプレゼントできるものなら」

「それなら、姉さんの時間が欲しい」

時間…どういうことだろう。

「…姉さんと一緒に出かけたいってこと」

「そんな事で良いの?」

「うん」

そっか、私はよく街に出かけたりしていたけど、セシルは行ったことないものね。

「分かったわ、どこか行きたい所はある?」

「行き先とかは僕が決めるから、日程とか決まったら教えるね」

セシルへのプレゼントなのに、セシルが決めるんじゃ意味がないような…でも、セシルがかつてないほどに楽しそうな顔をしているから良いのかな?


誕生日の三日前、私はセシルが用意してくれた服に着替えさせてもらう。髪型はギブソンタックで、ヘッドスカーフを被せられた。準備も整い、部屋を出ようとしたら、扉を叩かれた。

「姉さん、準備できた?」

扉を開けると、白いシャツに簡素なベスト、裾をロールアップしたズボン。そして私がプレゼントしたループタイをつけたセシルが立っていた。

「セシルは何を着ても似合うわね。格好良い」

「…それは姉さんも」

セシルは手に持っていたキャスケットを深々と被った。

「お父様にバレたらまずいから早く行きましょう」

私が街へ行くときは、バレないようにこっそり行っていた。それなのに廊下で堂々とこんな格好でいるのはかなりまずい。

「大丈夫、ちゃんと許可を取ってあるから」

「そっか…」

私も今度からちゃんと許可を取ってから行こう。


馬車に乗ると、セシルは隣に座ってきた。カイルもそうだったけど、何で隣に座るんだろう。

「今日はどこへ行くの?」

「元バーリス領だよ」

バーリスって、セシルがうちに来る前の…今は領地は分配されているため、一部はフローレス領になっている。何もなければ、セシルがバーリス家の侯爵になって、領地を治めていたんだよね。なんて考えていると、セシルの手が伸びてきて髪を耳にかけられる。

「今日はイヤリングつけてないんだ」

「ええ、今日はこの格好だから」

平民のような格好でダイヤのイヤリングなんてつけていたら、貴族の変装だと丸分かりだ。

「セシル…そのループタイは、外したほうが良いと思うのだけど」

プレゼントをしたのは私だけど、ものすごく高価なものではないにしても、分かる人には分かる。

「ループタイなら平民でもつけるでしょ。これは絶対外さない」

セシルがループタイをキュッと握りしめる。渡したときは何とも言えない顔をしていたのに、気に入ってくれたのかな?


セシルと他愛のない話をしていると、目的地に着いたようで馬車が停車した。

「行こう」

セシルの手を取って馬車を降りるも、セシルは一向に手を離してくれない。

「どうしたの?セシル」

「手…繋ぎたいんだけど、だめ?」

可愛い…もう少しで大人の仲間入りだものね。甘えられるうちに沢山甘えてもらおう。

「ふふっ、繋ぎましょう」

…繋ぎましょうとは言ったけど、これって恋人繋ぎでは?

「姉さん、実名で呼ぶのは危険だから、今から呼び方を変えよう」

呼び方、私は街に出かけたとき何も考えずにアンナ達の名前を呼んでいた。セシルはちゃんと危険性を考えていたなんて。姉として不甲斐ないな。

「リアって呼ぶから、僕のことはシルって呼んで」

「分かったわ、シル」

あれ?セシルはともかく、私の呼び方を変える必要ないんじゃ…


綺麗な街だな…石畳もひび割れもなく、しっかり舗装されている。

「リア、下ばかり見てると危ないよ」

「わぁ」

セシルの忠告通り、躓いてしまった。

「手を繋いでおいて正解だったね」

「ありがとう」

せっかく一緒に街に来たのに、石畳ばかり見てるのも失礼だよね。


一通り街並みを見て歩いた後、今は広場の噴水で休んでいる。

「何か見たいものはある?」

セシルの問いかけに、私は少し食い気味に答える。

「あそこのパン屋さんに行きたい。バターの良い香りがして気になっていたの…」

お腹が減っていたため、近くを通るたびにお腹が鳴りそうだった。

「良いよ、行こう」


「うわぁ~美味しそう」

クロワッサンにサンドイッチ、ベーグル。それにコルネパン…

「エレノア元気にしているかな?」

「ぷっ、今コルネパンを見て言ったでしょ」

心の声が漏れていたのか、セシルがカラカラと笑っている。

「シルはどれにする?」

「じゃあ、コルネパンで」

「すみません、コルネパンとクロワッサンを一つお願いします」

パンを買った後、ベンチに座って食べ始めた。

「美味しい」

バターが濃厚でサクサクしてるのに中はモッチリしている。

ふと視線を感じ、セシルを見ると目が合った。

「シルも食べる?」

「……食べる」

今日はやけに素直に甘えてくれるな。

「ふふっ、はい」

クロワッサンを差し出すと、セシルは何故か受け取らずにそのまま一口食べた。

「美味しい…姉さ、じゃなくて…リア」

セシルは言い間違えたのが恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしている。やっぱり私のことはいつも通り、姉さんって呼んでいいのに…

それにしても、少し喉が渇いてきたな。

「飲み物買ってくるわね」

「僕が買ってくるよ、だからリアは待ってて」

セシルは勢いよく立ち上がり走って行ってしまった。セシルも喉が渇いていたんだ。


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