79 悪役令嬢は偽る。
遅い…遅すぎる。セシルが飲み物を買いに行ってから二十分は経っている。
迷ったのかな?それとも誘拐!?探しに行かないと、私はセシルが走って行った辺りを探す。
ドリンクを売っているお店の辺りには、それらしい人は見当たらない。一体どこに…
「……シル」
今どこかでセシルって聞こえたような、私は声がした方へ向かう。
たどり着いた先は路地裏で、ブロンドロングヘアの女性がセシルに抱きついていた。これは助けた方が良いのかと悩んでいると、セシルの手が震えているのが見えた。
「私のセシルから離れなさい!!」
私がセシルに駆け寄ると、セシルは女性を押し退けた。
「きゃぁ」
女性は少しよろめきつつも、体制を持ち直しこちらを睨んでいる。私は女性とセシルの間に立つ。
「あなた、セシルの知り合い?」
私が問いかけると、女性は私の顔から足先までをじっくりと見たあと鼻で笑った。
「そうよ、セシルと私は楽しい夜を過ごした仲よ」
女性は腕を組んで胸を強調している。スタイル良いな…ってそんなことは置いておいて、楽しい夜って何だろう…セシルは家族と出かけることはあっても、一人で出かけることはない。そっか、この人は私をセシルの恋人と勘違いしてマウントを取っているのか。
「は?何を言って…」
「ふふっ、私達は朝から夜まで一緒なのに、そんな時間があったのかしら?ねぇセシル」
セシルの言葉を遮ってしまったが、私は恋人と勘違いされていることを逆手に取って、この場をどうにか収めたい。私はセシルにアイコンタクトを送ろうとしたが、女性に迫られた恐怖からか硬直している。
「…こんな貧相な体の女で満足?」
貧相って…そりゃあ、あなたからしてみたら貧相かもしれないけど…ないことはないし、今日はコルセットをつけてないだけだし…
「ねぇセシル…私じゃだめ?」
女性はめげずにセシルに触れようとしている。
「だめ、あなたにはあげない」
私はセシルの腕に抱き着く。とにかく早くこの人から距離をおかないと
女性はセシルに触れるのを諦めたようで、ホッとしていたがすぐに私の顔に手が伸びてきた。私は腕で顔を隠す……あれ?痛くない
「痛っ」
セシルが片手で女性の手首を掴んでいた。唖然としていると、私が抱きついていた方の手で目を塞がれた。
「僕の大切な人を傷つけようなんて…タダで済むと思うな」
セシルの怒気の含んだ声と、女性のひっと言う声が聞こえた後、バタバタというその場を去っていく足音が聞こえた。
「ごめんね。姉さんを巻き込むつもりはなかったんだ」
塞がれていた視界が戻り、セシルの顔を見ると申し訳なさそうに眉を下げていた。
「大丈夫よ。ところでさっきの人は?」
頭を撫でてあげたいところだけど、届かないため頬を撫でる。
「あの女はスージー…僕の従姉だよ。僕がフローレス家に来る前に一緒に住んでいた…」
セシルが頬を撫でていた私の手を握る。
「あいつが言っていた、楽しい夜ってのも僕をいじめに来ていただけだから…変な意味じゃないから」
今にも泣きそうな、不安そうな顔をしている。
「ふふっ、分かっているわ」
セシルの手を繋ぎ、路地裏を抜ける。せっかくのお出かけだったのに、嫌な思いをすることになって……セシルの顔を見ると何故か嬉しそうにしていた。
迎えの馬車が来て、乗り込む。セシルはやっぱり私の隣に座る。
「姉さん、お願いがあるんだけど」
「ええ、何でも言って」
「抱きしめても良い?」
「え?」
「スージーに抱きつかれたのが気持ちが悪くて…」
「良いわよ、おいで」
私はセシルの背中を撫でる。自分のことをいじめていた人間に突然抱きしめられたら怖いよね。
「よしよし、大丈夫よ」
頭を撫でながら背中をポンポンと叩くと、セシルは私から離れた。
「子供扱いしない欲しいんだけど」
少しムッとしている様子がいつも通りで安心した。でも、今日は甘えたい日だと思ったんだけど違ったのかな?
「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」
「分かってるよ。それと…姉さん、あの女が言ってたことだけど気にしなくて良いからね」
セシルが私から目を逸らしながらそう言った。
私が気にするようなことなんて言ってたっけ?
「何のこと?」
セシルの顔が一気に真っ赤になった。
「僕は……貧相だとは思ってないから」
貧相…もしかしてスージーに言われたことを、気にしていると思って…まあ気にしていないわけではないけど、弟にフォローされるとは
初めて街へのお出かけだったのに、セシルは楽しめなかったよね。誕生日当日は何かプレゼントをあげないと…そうだ




