77 悪役令嬢は社交シーズンを終える。
「パトリシア様、兄から手紙が返ってくるようになりました」
モーリスは嬉しそうにしている。
「良かったですね。モーリスさんのお気持ちが伝わったんですね」
クランプトン伯爵家の舞踏会以降、夜会等に参加する度にモーリスは近況を報告してくれるようになった。
前回の夜会のときは、3通は書いたのに返事が来ないと嘆いていた。
「手紙の内容は言えませんが、兄は僕のことを嫌ってはいないみたいで安心しました」
それが分かればもう大丈夫だろう。あとは少しずつ顔を合わせる機会を作ったりできれば良いんだけど。
「パトリシア様は、ご弟妹とはどのように過ごされているのですか?」
少しでも仲良くなるためにアドバイスが欲しいのかな?
「そうですね、妹とは一緒に刺繍をしたりお昼寝をしたり…弟とは植物のお世話を手伝ってもらったり、お昼寝をしてますね」
「お昼寝ですか、本当に仲がよろしいのですね」
しまった、全然アドバイスになっていないことを言ってしまった。
「ごめんなさい。アドバイスになるようなことを
言えなくて」
「いいえ、僕が気になって聞いただけなので。もう少し聞かせてくださ…」
「私も聞きたいな」
この声は…
「パトリシア、良いよね?」
やっぱりカイルだ。モーリスと話していると必ずこうやって話に入ってこようとする。私がモーリスを見ると
「僕は構いませんよ」
と言ってくれた。
「何の話をしていたのかな?」
「アリシアとセシルの話を」
「それなら私も詳しいよ」
絶対に私の方が詳しいはずだが、カイルは一体何を話すつもりだろう。
「アリシアは面白い子だよ。私が少しでもパトリシアに近づこうとすると嫌悪感丸出しの顔をするんだ。セシルは聡明な子だよ。剣の稽古を理由に私とパトリシアの時間を邪魔してくるけど」
アリシアの嫌悪感丸出しの顔?見たことない、絶対可愛いでしょ、見てみたいな。セシルは私に嫉妬するぐらいカイルに懐いていたなんて…
「…カイル殿下も仲がよろしいんですね」
「二人とも私の可愛い義弟と義妹だからね」
モーリスとカイルは和やかな雰囲気で話している。
まずい、このままだと私のアリシアとセシルがカイルに取られてしまう。もう少し二人と過ごす時間を増やさないと
「そろそろ失礼しますね」
モーリスは軽く会釈をして去っていった。
「パトリシア、どうしたの?」
カイルに顔を覗き込まれた。
「…カイル様が、アリシアとセシルの話をするから…」
私の弟妹なのに…あれ?もしかして声に出ていた。
「パトリシア、嫉妬してくれたの?」
嫉妬…私が?そうか、一緒に過ごしてきた時間が長かった私の知らない一面を、カイルが知っていることに嫉妬してしまったのか。
「そうです、嫉妬です」
私がそう言うと、カイルの顔が眩しいぐらい笑顔になった。
「そっか、パトリシアが嫉妬を…」
カイルがブツブツと何かを言っていると、エリオットとミシェルがやって来た。
「カイルはどうしたの?」
エリオットはカイルを横目に不思議そうにしている。
「私にもよく分からなくて」
「トリシャちゃん、カイル様はほっといて何か食べに行こう」
本当にカイルを置いたまま、フードスペースに来てしまった。
「パトリシアも何か食べに来たの?そういえば、チョコレート好きだったよね。これ美味しかったよ」
ステラがチョコレートをお皿に乗せて持ってきてくれた。ステラの後ろでは、ステラの婚約者がお肉を美味しそうに食べていた。
「ありがとうステラ」
二人の邪魔をするわけにはいかないから、少し離れた所で食べよう。
「トリシャちゃん、それ一つ貰っても良い?」
ミシェルがお皿を指差す。
「ええ、良いわよ」
私がミシェルにお皿を差し出す。
「前みたいに食べさせて欲しいな」
そういえば、ミシェルって末っ子だったな。やっぱりみんな甘えん坊なのかな?アリシアもよく食べさせてって言ってくる。アリシアも他の人にやってたりするのかな?
私はチョコレートを一粒取って、ミシェルに食べさせようとした。すると、突然腕を掴まれる。
「パトリシア、私を置いてミシェルと何をしているのかな?」
カイルがムスッとした顔で私を見下ろす。
「カイル様がボーッとしていたのが悪いんでしょ」
「パトリシアは私の婚約者だ」
ミシェルとカイルが揉め始めた、こういうときはエリオットが仲裁してくれるはず
「エリオット、二人が…」
エリオットを見ると美味しそうに何かを食べている。
「…何食べてるの?」
「胡桃のケーキ」
エリオットは胡桃が好きだったな。揉めている二人に目もくれず黙々と食べている。
「食べる?」
「良いの?」
私は持っていたお皿をどうしようかと考えていると口元に一口サイズのケーキが運ばれてきた。
「美味しい」
胡桃とドライフルーツかな?スパイスが効いてて美味しい。甘すぎないから何個でも食べられそう。
「エリオット!!」
カイルがエリオットを睨みながら、私の口をハンカチで拭いてきた。
「どうしたの?」
私もだが、エリオットも状況を飲み込めずキョトンとしている。
「それ…そのフォーク先程までエリオットが使っていたものを、パトリシアに…」
「え?…あぁ、それは…その、ごめん」
エリオットは顔隠して狼狽えている。フォーク?なるほどそういうことか、エリオットが使用したフォークで私も食べたから間接キスってことね。そんな事で赤くなるなんて可愛いな。
「大丈夫よ、私は気にしてないから」
「パトリシアが気にしていなくても、私は気にする」
「カイル様がうるさいから、僕がトリシャちゃん食べさせてあげるね」
ミシェルがチョコレートを口に持ってきたので口を開ける。私の唇にセシルの指が当たった。
「美味しい」
「本当美味しいね」
チョコレートが指についたのか、ミシェルが指先を舐めてそう言った。
「ミシェル!!」
「パトリシアの周りは賑やかね」
ステラがころころと笑っている。
こうして、社交シーズンは終わった。




