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76 悪役令嬢は相談される。

カイルの近くにいると、ダンスは申し込まれないものの、カイルの婚約者ということで話しかけられる。値踏みするような視線、私に取り入るために媚びへつらう人達。子供のときから知ってはいるが、あのときとは比べものにはならないぐらい疲れる。言葉を少しでも間違えたら命取りだ。


ようやく落ち着き、思わず一息つく。

「パトリシアお疲れ様。飲み物を貰ってくるよ」

カイルが飲み物を取りに行っている隙に、ステラと話したいところだけど、クランプトン家のパーティーのため、ステラも人に囲まれている。エリオットとミシェルは令嬢に囲まれている。まあ、顔が良い高位貴族の後継者なんて条件が良いものね。


「フローレス公女様、先日は災難でしたね」

ベージュの髪に茶色の瞳の青年が声をかけてきた。これはどっちだろう。私を侮辱するために声をかけたのか、それとも本当に同情しているのか…

「突然すみません。僕はミルトン男爵家のモーリス=ミルトンです」

「パトリシア=フローレスです」

知っているとは思うが私も名乗る。

「お声がけさせていただいたのは、ご相談したいことがありまして…」

この流れはよく知っている。公爵家あるいは王家に取り入ろうとしているのだろう。聞くだけ聞いて断ろう。

「僕には異母兄がいるのですが、子供の頃から折り合いが悪くて…フローレス公女様は家族仲が良いと噂でしたのでそれで…」

頬を掻きながら苦笑いをしている。兄弟仲の相談?いやまだ分からない。

「フローレス公女様は、やはりご弟妹とも仲がよろしいのですか?」

この人は本当に兄弟仲の相談っぽいな。

「仲が良い方だと思うのですが…」

アリシアもセシルも私のことを慕ってくれている…よね?今更ながら不安になってきた。二人とも優しいから実は無理をさせているかもしれない。嫌われていたらどうしよう、絶対立ち直れない。

「どうかしました?」

「いえ、私があの子達に無理をさせていないか少し不安で…」

初対面の人に話すようなことではないけど、まあお互い様か

「大丈夫、パトリシアは弟妹に好かれているよ。私が嫉妬してしまうぐらい」

いつの間にか背後に立っていたカイルに後ろから抱きしめられる。

「カイル様」

カイルは、私がアリシアとセシルに好かれて嫉妬をしているのか、でもアリシアはともかくセシルには懐かれているよね。

「セシルには好かれているじゃないですか」

「嫉妬しているのはそっちじゃないんだけど…」

やっぱり、アリシアに好かれたいのか?

「で、ミルトン男爵令息は私の婚約者に何の用で?」

カイルは私の事を抱きしめたまま話している。

「カイル殿下、フローレス公女様には相談に乗っていただいただけで」

モーリスがカイルの圧に怯えている。

「パトリシア、相談という名目で同情を誘って、善意につけ入ろうとする人間もいるんだよ」

カイルが耳元で囁いてきた。モーリスには聞こえてはいないようで、キョトンとしている。

「その話、私も一緒に聞いても良いかな?」

モーリスが同情を誘おうとしているようには見えないけど、あんなことがあった後だから心配してくれているのかな?

「はい、ご迷惑でなければ」


「僕には腹違いの兄がいるのですが、兄は非嫡出子でして。僕が八歳のとき、兄の産みの母が亡くなって父が家に連れてきました」

「パトリシア、アリシアとセシルが来たのは、パトリシアが八歳になる年のことだったよね?」

「はい」

それとモーリスの話と関係あるのかな?

「パトリシアはアリシアとセシルとはどうやって仲良くなったの?」

「一緒にお茶をしたり、お散歩したりですかね」

あの頃の二人は可愛かったな、今も可愛いんだけど。

「だって」

「それは幼い子供のときだからできたことで…」

それに二人が年下だったから良かったけど、年上だったら私もどうもできなかったかもしれない。

カイルは相談に乗るつもりはないのか、面倒くさそうにしている。

「僕も子供のときそうしてれば良かったんですね」

モーリスは眉を下げて笑う。

「それで、今日はお兄様は?」

「兄は非嫡出子な事を気にしてか、社交界には顔を出さないんです。ずっと自室に籠もっていて顔もろくに見ていません」

非嫡出子なんて少なくないだろうけど、噂好きの貴族達の餌食になるのは間違いないからね。

「でも、何故今になって仲良くなりたがっているの?」

「僕もそろそろ婚約の話が出てきているのですが、このまま婚約の話が進み別世帯になったら、兄の身に何かあっても気づけない。だから、今のうちに何でも相談し合える仲になって、いざというときに力になれるようにしたいんです」

優しい人だな、私が同じ立場だったとしても多分そんな事を考えたりはしないだろう。

社交界にも出ず、部屋に籠もっている人とコミュニケーションを取るのって難しいよね、うーん…そうだ

「手紙を書いてみたらどうですか?面と向かって話すのが難しいようですし」

一番は顔を見て話したほうが良いんだろうけど…

「手紙ですか…試してみます。フローレス公女様ありがとうございます」

モーリスは深々とお辞儀をして去っていった。

大したアドバイスはできてないけど…大丈夫かな?

「やっと終わったね。飲み物を貰いに行ってくるよ」

あれ?カイルって飲み物を貰いに行ったんだよね。

「先程貰いに行ったのでは?」

「貰いに行く途中で、君が声をかけられているのが見えて心配で戻ったんだよ」

カイルが私の両頬を包む。私もちゃんと警戒はしていたから心配しなくても大丈夫なのに

「…ありがとうございます。でも、近くにいろって言ったのに離れていったのはカイル様ですよ」

思わず余計な一言を言ってしまったが、私はカイルが飲み物を取りに行っている間一歩も動いていない。

「……ごめんね。飲み物は一緒に貰いに行こっか」

カイルは今まで見たことないぐらい嬉しそうな顔をしている。そんなに喉が渇いていたのか、私のせいで戻らせて悪いことをしたな。



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