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カイルとダリル

フローレス邸に来るのは久しぶりだ。パトリシアに会いに来たものの、どんな顔で会えばいいのだろうか…

フローレス家の従者達に出迎えられて、屋敷に入るとアリシアがいた。

「珍しいね。出迎えに来てくれたのかい?」

「あっカイル様、お出迎え?何故私がそんな事を」

アリシアは心底不快そうな顔でそう言った。冗談のつもりだったんだけどな

「お姉様のお膝でお昼寝をする予定が狂ってしまったんです。まあ、これからお母様とお出かけなんですけど」

「ふーん…で、パトリシアは?」

「お姉様はお部屋にいます。でも、ダリルがお姉様のお膝で寝ているので構ってもらえませんよ」

ダリルが…パトリシアの膝で?

「アリシア、今の話は?」

「ダリルが来てから、私はお姉様のお膝で寝れなくなったんです。ダリルなんて、夜もお姉様と一緒に寝ているのに」

夜も!?護衛騎士の意味を履き違えていないか?

「では、私はこれで失礼します」

パトリシア…私というものがありながら、ダリルに膝枕なんて、私もされたことがないのに…

「パトリシア」

「カイル様!?どうかされました」

私は我を忘れて、パトリシアの部屋をノックもなしに入ってしまった。

ダリルの気配はない、一体どこへ?ソファに座るパトリシアの膝の上に目をやると黒猫が丸くなっていた。

「パトリシア、その猫は?」

「この子はダリルです」

ダリル…そうか、そういう事だったのか。

「何だ…猫のことか」

「何の話ですか?」

パトリシアは猫を撫でながら、首を傾げている。

「それにしても、何故ダリル?」

「この子、ダリルに似てませんか?」

私にはただの黒猫にしか見えないが、パトリシアが似ていると言うのなら似ているのだろう。

「抱っこしてみます?」

私がパトリシアの隣に腰をかけると、パトリシアは子猫を抱き上げる。

「……」

子猫を受け取るも、唸り声をあげながら前足を伸ばして拒絶されている。

「人見知りしているのかもしれませんね」

ジタバタした挙句、パトリシアの膝に戻っていった。

「顎とか頭を撫でてあげると喜びますよ」

私は別に猫が好きというわけではないが、パトリシアが楽しそうだから、パトリシアに言われた通り優しく頭を撫でる。するとゴロゴロと喉を鳴らし始めた。少し可愛いかも…でも、名前のせいでダリルの顔が過る。

そういえば、アリシアはよくパトリシアに膝枕をされている。私も頼んだらしてくれるのだろうか

「…パトリシア、私も膝枕して欲しいのだけど」

「成人されている方にはするものではないと、セシルが…」

セシル…余計なことを、こうなったら

「年齢は関係ないよ、それに膝枕って恋人や夫婦でするものだから…妹や弟にするほうが珍しいと思うよ」

「なるほど?そうなんですね」

パトリシアは不思議そうな顔をしている。もしかすると、たまにはパトリシアも膝枕してもらいたいのでは

「やっぱり、私がパトリシアを膝枕してあげる」

「いえ、大丈夫です。王子様にそんな事をさせるわけにはいきませんので」

頬にキスはよくて、膝枕はダメなのか…

「私は君の婚約者だよ、だから…もう少し甘えて欲しいな」

「…少しだけでしたら」

パトリシアは猫をクッションに移動させた後、私の膝に頭を乗せた。

可愛い…パトリシアは、少し恥ずかしそうにしている。する側も良いものだな。


「あの、カイル様は本日はどのようなご用で?」

パトリシアは少し眠たそうな声でそう言った。ダリルの件ですっかり忘れていた。

「パトリシア…今度舞踏会があるのだけれど、私にエスコートをさせて欲しい」

パトリシアの婚約者であることを明かしたのだから、堂々とエスコートできるし、ダンスだって

「…私で良いんですか?」

「パトリシアじゃないとダメだよ」

パトリシア意外と踊るなんてありえない、現に社交界の場で私は一度も踊っていない。

「…分かりました」

「そうと決まればドレスを贈らないとね、髪飾りやアクセサリーも」

「いえ、それは流石に…この前頂いたので結構です」

この前贈ったのはドレス一着に髪飾り、ネックレスと靴だけ。今度の舞踏会はパートナーとして出るのだから、ドレスと礼服のデザインをちゃんと合わせたい。デザインが無理なら色だけでも

「それなら、パトリシアの着るドレスが決まったら教えて、それに合わせて礼服を仕立てさせるから」

「…はい」

パトリシアはふわふわと返事をした。眠たいのだろう、先程からゆっくりと瞬きを繰り返している。髪をそっと撫でると、そのまま目を瞑って眠りについてしまった。

本当に無防備だ、この前だってエリオットの肩に頭を乗せて眠っていた。あれがエリオットではなく、ミシェルだったら確実に何かしていたはずだ。まったく、無防備なのは私の前だけにして欲しいな。


唇…柔らかそうだな、この前はこの唇が頬に…指でそっと唇をなぞる。すると、クッションで寝ていた猫のダリルが威嚇をしてきた。シャーと鳴きながら毛を逆立てている。

名前が名前だけあって、この子もパトリシアの騎士のようだ。

パトリシアに触れていた手を上にあげると、威嚇をやめ、クッションへと戻っていった。


ドレスの件、パトリシアが忘れているといけないから、あとでフローレス家の侍女にも伝えておかないと…それから、セシルともたっぷり話さないといけないことがある。


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