ダリルと小さな侵入者
稽古が終わり、パトリシア様にお会いできたら…なんてことを考えながら屋敷の庭を散歩していると
「ダリル、ちょうどいい所に」
パトリシア様にお会いできた。こちらに向かって手を振っている。嬉しくて顔が緩みそうになるのを抑えて、パトリシア様の所へ向かう。
「どうかされました?」
「子猫が木に登って降りれなくなったみたいで」
パトリシア様が指を指す方を見ると、黒い子猫がキョロキョロとしていた。パトリシア様は子猫を助けようとしていたのか…本当に優しい方だな。
「俺が…」
俺が捕まえてきます。と言おうとしたが、パトリシアは
「私が木に登るから、この子が落ちそうになったら受け止めてほしいの」
と言って、腕まくりをしてスカートの裾をたくし上げている。
「パトリシア様、俺が登りますから」
貴族のご令嬢ってみんなこうなのか?アリシア様も前に木に登っていた。
「でも…」
パトリシア様は、少し申し訳なさそうな顔をしている。
「木登りは子供の頃からやってたんで大丈夫ですよ」
俺がそう言うと
「…ダリルありがとう」
パトリシア様の表情が和らいだ。
俺は木の割れ目に足をかけ、慎重に登る。枝が揺れたことで、子猫は驚いたのかさらに上に登ってしまった。俺も負けじと上に登ると、子猫は葉に隠れてプルプルとしている。そっと手を伸ばすと後退してしまったが、幹にぶつかったところを捕まえた。ミャーミャーと何かを訴えながら俺の指を噛んでくる。
俺はゆっくりと木から降り、パトリシア様に子猫を見せる。
「可愛い…私にも抱っこさせて」
パトリシア様がキラキラとした瞳でこちらを見上げている。可愛い…でも、子猫とはいえ野生の獣を触らせてもいいものなのか…まあ、大丈夫だろう。
「さっき噛んできたので、気をつけてくださいね」
俺は子猫をパトリシア様に渡す。
「可愛い…お腹減ってるのかな?」
パトリシア様に抱っこされた子猫は、ミャーミャーと鳴いてはいるものの、俺が持っていたときとは違って暴れる様子はない。
「猫って、何を食べるんですかね」
村にいた猫がネズミや、虫を捕まえているのを見たことはあるが、こんな子猫に狩りなんてできないだろう
「うーん、魚とか鶏肉とかかしら」
猫って、結構良いものを食べるんだな。
「その前に、お父様に飼っても良いか聞いてみないと」
公爵様なら聞かなくとも許可を出してくれそうだけど、パトリシア様は律儀だな。
「許可を頂けたら、名前はどうするんですか?」
「…ダリル」
パトリシア様が俺の名前を呟いた。
「何ですか?」
「この子はダリルって名付けようかなって」
パトリシア様は子猫の喉を撫でながらニコニコと笑っている。同じの名をつけられた子猫に少し妬いてしまいそうだ。
「綺麗な黒色の毛がダリルにそっくりだから、それに瞳の色は違うけど、優しそうな顔をしているところもそっくり」
優しそうな顔…パトリシア様は俺の顔をそんなふうに思ってくれていたなんて。
「ダメかな?」
パトリシア様が小首を傾げてこちらを見ている。
「…ダメじゃないです」
この顔に、髪色に生まれて良かった。
その後、無事に公爵様の許可が下りたようで、赤いリボンを首に巻いてもらった子猫のダリルは、屋敷を警備して回っている。そして、羨ましいぐらいにパトリシア様に大変可愛がられている。
名前を聞いて不服そうにしていた、アリシア様とセシル様もなんだかんだ可愛がっているようだ。
俺はと言うと、パトリシア様が子猫を呼ぶ度に反応してしまうという弊害を負ってしまった。




