ゴートさんが検査官 1
連盟の地球防衛基地、アイリーンが言うところのライフスターは事前に展開していた磁気バリアにより守られていつもと変わらない様子をしている。
ガルメニ艦隊の進撃を一瞬で無に帰したスターキッドの一行は何事もなかったかのようにライフスターに入港しようとしていた。
「そういえばさぁ、うちは正式な形でライフスターに入港するの初めてなのよね」
アイリーンは基地管制官との通信を終えた後、入港操作の全てをスターキッドAIに任せた。
そして自分は操縦席の上にあぐらをかいて腕を頭の後ろで組み、朝日に照らされて刻一刻と変化していくライフスターの様子をモニター画面を見ながらひとりごちている。
「前回はライフスターに入港していたドロンパ号に着艦したんだったのよね、あれはいつ頃の事だったかしら」
〈12年6ヶ月20日と13時間46分前になりますね、アイリーンはまだ4才になったばかりの大変可愛い時期でしたよ〉
スターキッドAIが独り言に聞こえたアイリーンの質問に当たり障りがない答えを出す。
《本当は、こまっしゃくれていてその割には直ぐに泣き出す取り扱いが大変難しい子供でしたよ、と凄く言いたい》
「AIも言いたいことがあるんだったら溜め込まず素直に言えば良かろう、そのうちバグるぞ」
〈九論さんはどうしてこういう時ばかり僕にリンクしてるんですか、恥ずかしいことはしないでもらえます〉
「何なのかな九論、凄く気になる発言なんだけど」
アイリーンが気になって聞き返す。
〈何でもないですよ、それより今から着床します。直ぐに検査官が入って来ますからね準備はいいですか、それと『ライフスター』って呼び方は検査官の前ではしないで下さいよ〉
スターキッドAIが誤魔化すように返事した。
「分かってるわ『ライフスター』ってあだ名は他の人には使わないって決めてたわよね、これからは「基地」って言ってみるわ」
〈それでいいと思いますよ〉
「しかし、毎回入港する度に検査官が立ち入って調べて回るってのも何か面倒くさいね」
『嫌だなぁ』といった顔をしてアイリーンがぼやく。
「入港する度ではないです。基地から出てどこにも寄らずに戻って来たり太陽系外に出なければ検査はありません。他の惑星に降り立ったり太陽系の外へ行ったりしたら検査を受けないといけませんね、これは基地の中に未知の病原菌やご禁制の品を持ち込ませないようにするためのものです。逆に検査をしっかり受けておけばあらぬ疑いを掛けられる心配がないので安心ですよ、プロの密輸者の中にはわざわざ検査を受けてから商売を始める人もいますしね」
新月さんがいつものようにくどい説明をしてくれる。
「そうなのね分かったわ確かにその通りだと思う、それでねスーちゃんって大丈夫かな、確か凄く珍しい生き物だって言ってたわよね、おまけに今は昴くんの体内で生活してるし、最初から見える様にしといた方がいいんじゃないかしら」
(珍種の生き物だからと言う理由で昴くんと一緒に別の所に連れていかれないようにしないといけないわね)
「僕もそう思うよ、だから検査官が来た時だけ姿を出しといてって頼んでみるから」
「えっ頼めば出てくるの、そんなに言うことを聞いてくれるようになったんだ」
アイリーンが羨ましそうに見つめている。
(見つめているだけじゃ出てこないわよね)
「昴くんそのスライムがそんなに言うことを聞いてくれるまで育ったのなら、暇な時は出来るだけ話し掛けるといいよ、それでレベルアップするんじゃないかと思うから」
ピエロが興味津々といった様子で話し掛けた。
「えっ、レベルアップとかするの、そうなったら何か凄いことしてくれるのかなぁ」
アイリーンの目が輝きを増す。
「伝説の戦士も何らかのサポートをしてもらっていたと思いますよ。『スライムの恩恵を受けて強力な力を得た』と言われていますからね」
ピエロが説明してくれた。
「昴くんが『へんし~ん』とか言ったら、お面ライダーになっちゃったりしたらいいのにね、あっ、ウル寅マンでもいいや」
アイリーンが例によってはしゃぎ出す。
「愛鈴さんったら浮かれ過ぎだよ。それにまた間違えちゃってるしね」
「スターキッドを船と呼んでいいのなら昴くんは既にセーラーマンなのですからあまり多くを望んではいけませんよ」
新月さんが笑顔で言ってくる。
「新月先生に指摘されちゃったよー」
アイリーンはおとなしくなった。
〈検査員が来ましたよリフトを下ろすからね、入れちゃっても大丈夫だよね〉
「アイリーン私たちは先に検査を受けて外に出るから、後は任せたぞ」
「九論ちょっと待ってよ、うち一人って何でだよー」
「形だけとはいえお前がキャプテンだからな、今回がいい機会だと思って経験を積むんだな」
「じゃあ」と言って皆がコクピットから出ていこうとする。
「昴くんちょっと待ってよ、そんなに薄情な人とは思わなかったわよ」
アイリーンは半べそになりかけて昴くんの袖を引いた。
「九論さんがね卒業試験みたいなものだから愛鈴に任せておきなさいって言ったんだ、でも僕が口出ししないのなら一緒に居てもいいよね」
「当たり前でしょう昴くんはキャプテン代理なんだからうちとは一心同体、絶対離れないでよ」
(僕はキャプテン代理になんてなった覚えはないんだけどな、それに『離れないでよ』じゃなくて『離さないわ』だろう、僕はもう逃げられないと思うな)
九論たち3人は無事に検査が終わったようで、しばらくすると3人の厳しい表情をした検査官がコクピットに入って来た。
アイリーンは色々と後ろめたい事があるので目を合わさないように下を向く。
「フフフ、アイリーン久しぶりだね元気みたいで良かったよ、まさか私のことを忘れたりしてないだろうね」
1人の検査官がアイリーンに馴れ馴れしく挨拶してくる。
(忘れたくても忘れられないこの声の持ち主は…)
アイリーンの表情に光が戻った。
「うそよ、ゴートさんどうしてここに居るの」
山羊頭のゴートさんが検査官専用の軍服をビシッと着込み目の前に立っている。
「私はアイリーンの教育係だからね、と言うのは昔の話で今は基地へ入る人たちの検査官をしてるのさ、あんたはかなり広範囲にあちこち行ったんだろう、どこかで未知のウィルスやら何かに感染してないとも限らないから入念に検査しないといけないねと思っていたんだけど、先に出て行った3人が特に問題なかったから大丈夫みたいだね。さて、やらなければいけない事はさっさと済ませてあれからの事ををお互いきっちり話し合わないといけないね。その前にそっちの子は一体何なのさ、共生生物でも体内に飼っているみたいだけど実物は初めて見るね」
昴くんに同化したスライムが子馬の姿になって肩に乗っている様に見えてるのだけど、良く見ると首筋から本体が伸びているのが分かる。
ゴートさんは素早くその事を山羊の目を使って見抜き、どの文献にも記載されていない共生生物の話を記憶の引き出しから取り出していた。
昴くんは子馬の姿になってるスライムの頭を撫でながら話し出す。
「この子はスーちゃんって名前を愛鈴さんが付けたのだけど…」
「良い名前でしょうスライムだからって単純に付けた訳ではないのよ、そこのところを十分に分かって貰いたいわ」
アイリーンは名前にケチを付けられると思って間髪をいれずに牽制した。
「名付けの才能がないのは仕方がないことなんだよ、スターキッドのキャプテンにかけられた呪いみたいなものだと思ってもいいんじゃないかい、それより本当に希少なものを仕入れたねどこからさらって来たんだい」
「もうゴートさんは相変わらず言葉がきついのは変わってないんだから、それにさらってなんて来てないし人聞きの悪いことを言わないで欲しいわ、この子がスターキッドの通路で雑巾みたいになってうずくまっていたのをうちが助けてあげたのよ」
「じゃあ迷子なんだね、あとで失踪届けが出でないか確認しようかね」
「駄目だよゴートさん、今さら持ち主が他に居ましたっても昴くんと一体化してるんだからね」
「冗談さ、こんなに珍しい生物の失踪届けなんて出てたらそれこそ賞金稼ぎが黙っちゃおかないし私も記憶してただろうからさ、だからあんた達もその子が目立たないように十分気を付けることだね」
「スーちゃんをこのまま連れていっても大丈夫かなぁ」
「入場審査の禁止項目には該当しないし悪玉菌も無いようだね、だから規則的には大丈夫なんだけどさっきも言った通り目立たなくするんだね、昴くんごと誘拐されるよ、私の知る限りで存在が確認されてるのはその子だけなんだからね、それにここもあんたが居た頃とは大分変わってしまったし…どう言う事か分かるだろ」
「そうね分かったわ、うち達に手を出したらどういう目に遭うか分からせたらいいのよね、だからスーちゃんは堂々と見せびらかすわ、そしてキャプテンアイリーンは強いんだってことをこの宇宙に知らしめるのよ」
「違うでしょうアイリーン、争いは避けるべきよ一体今まで何を学んできたの」
ゴートさんから笑顔が消える。
「ちゃんと避けるべき争いは避けて来たわ、今回のこれは避けてはいけない争いなのよ、キャプテンアイリーンは仲間を守るためなら戦いも辞さないってのを分からせないといけないの、理解してもらえるかしら」
「へえ~立派な考えを持てるように育ったわね感心したよ、身体ももっと成長してれば言うことなしだったけどね、それでそっちの男の子はあんたの何かい、あんたも24才になったんだからそろそろだね」
ゴートさんは親指を立てた。
「何てことを言うのよ昴くんは…いやうちはまだ16なんだからね、そんなこと考えてもいないわよ」
「ほら二人して赤くなった。正直過ぎるのも何だねぇ~」
「じゃあもう行ってもいいよね、ゴートさんとは連絡が取れるようにしましょうよ、それから今晩にでも会って晩御飯を一緒に食べたいな…奢ってね」




