91.ゴートさんが検査官 2
「そうだねスターキッドAIに伝えとくよ、もうあんた達は出掛けていいよ私は記録に目を通さないといけないからね、アイリーンからも誤魔化さないように命令を出しといておくれよ」
(ゴートさんがしたたかなのも変わってないわね一筋縄じゃいかない、でも聞かれて困る事なんかなかったわよね)
「Aちゃんそう言う訳だから後は任せたわ正直に話しなさいねこれは命令だから、それとお人形は連れて行くからね」
「アイリーンったらお人形なんか持ち歩いてるのかい赤ちゃん返りしたんじゃないだろうね、まああんたの趣味にケチを付ける気はないけどさ」
(へへ、ゴートさんでも気付かなかったみたいねAちゃんは真意をくみ取ってくれたよね)
「じゃあ行って来るから」
スターキッドの昇降口からタラップを使って下りると先に出た3人がアイリーンと昴くんを見上げている。
「わざわざタラップを出したのか」
九論が不思議そうに言ってくる。
「たまには使わないと錆びるでしょ、それに検査官の人たちも帰りはタラップの方が使い易いんじゃないかと思ったのよ」
「空き巣に入られても知らないからな」
「ここはルナ・ターミナルじゃないから大丈夫なんじゃない、でも後で畳んでもらうようAちゃんにお願いするわ」
アイリーンは肩から下げていたバックの中からAIロボットを取り出して肩に乗せた。
「Aちゃんゴートさん達が帰ったらタラップを収納して下さいな、それから特別変わったことをされたりしたら連絡しなさいよね、今は検査官は何をしてるのかなあ」
「ゴートさんは航行記録を見ていて、後の2人は倉庫の中を見てますね」
「ねえピエロ指摘されるような物は積んでないでしょうね」
「まあ、珍しい物ばかり沢山積みましたけどご禁制品は無いと思います。そのスライムが問題ないと判断されたなら他は大丈夫だと思いますよ」
「Aちゃん聞こえてるかな、そっちの情報も逐次教えてね」
「分かってますって任せなさい」
(Aちゃんが気楽そうにしてる時ってかえって心配なんだよなぁ)
「九論これからどうするの全員でオビス司令官の所に行った方がいいと思う?」
ピエロが1歩後退る。
「私は司令官室には一緒に行けない遠慮しておくよそれに気になることがあるんでちょっと調べものをする。だからここで別れるよ、お世話になりました」
「あ~あ、ピエロの本性見たりって感じだなこのまま別れるの?」
アイリーンは少し寂しく思う。
「アイリーンはどうしたいのかな」
ピエロが揉み手をしながら聞く。
「ピエロもイノマンのクローンだからねうちの家族みたいなものよ、だからあなたが悪の道に入らないようにうちが守ってあげるから一緒に居てあげないとダメよね」
((アイリーンは上手いことを言ったな))
九論と新月さんは感心する。
「何が善で何が悪かは置いておいて一緒に居たいと言うことでいいですね、そうですかでは調べものが終わったらスターキッドに戻ってきますよ。きっとね」
ピエロが感情を表さずに言う。
「おい、連絡方法とか決めておかなくていいのか」
九論がいい加減すぎるだろうと思っている。
「私はピエロですだよ、とびっきりのね」
ピエロは訳が分からないことを言いながら片手を上げて去って行った。
「そうね、忘れてたけどピエロって何とかのエージェントって言ってたわねその辺のことを詳しく聞いとけば良かったわ」
アイリーンはピエロから色々な情報を聞かなければと思う。
「僕がオビス司令官に会っても大丈夫かなあ、ねえ、司令官ってさ地球人じゃないよね地球人を絶滅させるような命令を出した人でしょう鬼のような形相の人だったら嫌だな」
昴くんは会うのが怖くてたまらない。
「大丈夫よヒューマンタイプだしうちはハンサムだと思うわ、それは司令官なんだから訳の分からないことを言うと叱られて怖いけど昴くんなら大丈夫だと思うわ」
(愛鈴さんはしょっちゅう叱られてたみたいだね)
昴くんは愛鈴と一緒なら大丈夫だろうと思った。
「しまったわ、ここから司令官室までの行き方って誰か知ってる? うちはライフスターの中をかなり探検しまくったけど外来者用ドックは絶対立入禁止区域のひとつになってたから行き来してないのよね」
「「誘拐されるからでしょう!」」
アイリーン以外の全ての人がそう言った。
「誘拐されないにしろアイリーンのことだから他人の船に興味本位で勝手に入り込みそのまま出航なんてことも考えられるな」
「皆してひどい言い様ね」
(まあそうかも知れないわね)
「アイリーンが知らなければ誰も知らないと思うぞ」
九論がAIに聞くしかないなと思う。
「新月さんは知らないの」
「かなり昔のことですからねスターキッドAIの助けを借りられないですか」
「そうね、Aちゃん聞いているわよね任せていいかなぁ」
「やっと僕に話し掛けてくれたと思ったら苦しいときのAI頼みなのが凄く残念です、せっかく僕を肩に乗せてるからもっと会話に参加できると思ってたのに、それで頼み事ですよね、た・の・み・ご・と」
スターキッドAIはすっかりひねくれてしまってる。
(やっぱり、どんなにしたって鬱陶しい奴には変わりはないな)
九論は心の中で愚痴をこぼした。
(ウ~……)
アイリーンも口に出して愚痴を言いたくなったが何とかこらえる。
「スターキッドAIさま、司令官室までの行き方を教えて下さいお願いします」
アイリーンは丁寧にお辞儀までした。
「いいでしょう道順を授けます。私の言う通りにして下さい」
((お前は神か!))
アイリーンと九論は心の中で叫ぶ。
新月さんと昴くんはそのやり取りを面白そうに眺めていた。
「では早速ですが真っ直ぐ行くと扉があります。その横にタッチパネルがありますからそこはアイリーンが操作して下さい。以前に居住したことがあるアイリーンだけが生体認証されていますし……ので色々な指示が簡単にできます」
(アシュラの思い人とは言わない方がいいかもしれないな、アイリーンがタッチパネルを操作した時にアシュラの覚醒が始まると思うんだけどな)
(Aちゃんが何か言い淀んだわね何だったのかしら)
アイリーンがタッチパネルに近づくと人感センサーが作動して文字か浮かび上がる。
アイリーンが初期画面の定型文を一通り読んでタッチパネルに触れた。
その瞬間それまで薄明かるかったランプウェイが数段明るくなり、音楽が流れアナウンスが始まる。
〈お帰りなさい! アイリーン直接生体認証するのは12年6ヶ月20日と15時間27分30秒振りお元気そうで何よりです。今私は暴走してもおかしくないほど嬉しいです。あっ、アイリーンさんは言葉を出さないで下さいね、ここでの情報はリアルタイムで監視されていますので私の音声は細工してます。でもアイリーンさんに喋られると誤魔化しができなくてかなり面倒な事になりますので、後ほど改めて連絡しますから今回はこのまま扉の先のエッグに乗り込んで下さい。中で行き先を指定するようになっていますけどオビス司令官の所で良かったですね、司令官は厳しい立場に追い込まれていますので助けてあげて下さい。私にはもう助けられる程の力がありません。こうやってアイリーンさんとお話しするのも大変な苦労をしてるのです。ではご武運をお祈りしています〉
(そうなのよねアシュラは一度初期化されてるのよね、初期化される前にうち達の記録だけを『秘密の小部屋に隔離してます』とか言ってたわね)
アシュラの音声が終わると扉が横に開き目の前に白い卵型をした乗り物が口を開けて待機している。
「ねえ、Aちゃんこれに乗っていいのよね」
アイリーンはさっきの会話の中でリアルタイムに管制室へ情報が行っていると聞いた所が効果音になって頭の中で繰り返し警鐘を鳴らしていた。
「アイリーンが登録されていたおかげで本当に手間が省けたな」
九論が話を合わせてくる。
新月さんは別格として、昴くんはよく我慢してると思う。
迂闊には話さず黙秘を決めてるみたい。
「これ2人乗りだねそれにタイヤがないけどリニア駆動の自動車なのかなあ」
昴くんが口を開いたけど不自然でない話し方をする。
「今から4人乗りを手配するより2人乗り2台で向かった方が早いです、さっさと乗って出発しちゃいましょうよ」
Aちゃんロボットが説明してついでに急かしてきた。
(おっちゃんはAちゃんロボットがスターキッドAIの通信機だってちゃんと分かってくれるよね、少し心配だわ)
「アイリーンさん心配しなくても大丈夫だと思いますわよ」
新月さんがタイヤ無しの車に乗りながらアイリーンの心配事を悟ったかのように言ってくる。
「しかしあれですねー、ハンドルとタイヤの無い乗り物を車と言われるのはかなり嫌ですね、それにトンネルの中しか走れないのでしょう」
新月さんはこれを車と呼ばないで欲しいらしい。
そんなことを言いながら4人と1匹と1体はオビス司令官執務室の前に立っている。
ガルメニ艦隊を殲滅させてから12時間が経過しようとしていた。
「火飛びトンネルは壊れちゃってるよね、きっと怒られるよね」
アイリーンは余計なことに気付いてしまったと、いつも怒られていた頃を思い出しながら口にする。
「大丈夫だよ、それで皆が助かったんだからお礼を言われてもおかしくないと思うよ」
昴くんが楽観的に言う。
「ゴホン……」
九論が何か言いかけて止めたみたい。
「ねえアイリーンあなたアリオン艦長にオビス司令官へのアポイントメント取るようにお願いした時に時間指定しましたか?」
九論が言いたかったことを新月さんが代弁した。
アイリーンは『えっ?』てな表情をする。
「オビス司令官はいつも自分の部屋で仕事してるんだから行けば会えるじゃん? 行くっては言ってもらってるんだし」
(そうだった! まだ社交辞令というものを教えてる途中でしたわね)
新月さんは大事なことを思い出す。
何はともあれいつまでも扉の前に居座るわけにもいかないのでアイリーンに突撃隊長を押し付ける。
(扉を開けて入れば済むことなのに大人って何でまどろっこしい事をするのが好きなのかしら)
アイリーンは心の中でぶつぶつ言いながら来訪を告げるインターホンを押す。
「はい、どちら様でしょうか」
受話器の向こうで女性の声が応じた。
アイリーンは『ああ、そういうことか……』と納得した。




