89.トンネルを抜けるとそこは2
〈アイリーン、ネットミサイルなら2発ありますよ、あと外壁緊急補修用の2液混合型リキッドメタルがありましたよね、硬化促進剤の量を調整してネットミサイルと一緒に撃ち出せばフタになるんじゃないですか〉
今こそ使おうと考えた緩衝ネットを手放していたことに傷心しているアイリーンを元気付けようとスターキッドAIが代替案を提示する。
「さすがのAちゃん賢いことを言うわねその案でいきましょう、直ぐ準備に入って九論と昴くんでリキッドメタル弾を作ってもらえるかしら、新月さんとピエロでトンネルに放り込める適当な大きさの隕石をこの近くで探してから教えてね、準備出来次第アポーツでトンネルへ放り込むわ、だからあまり大きいのはよしてよね1個放り込んだだけでヘトヘトにはなりたくないの、小さめを幾つもなら大丈夫だと思うわ、やった事はないけどね」
スターキッドが手頃な大きさの隕石を求めて戻っている途中でアステロイドベルトの方向から結構な数の隕石群が飛んで来てるのに気づく。
〈流星群です接触まで120秒、最初の方に手頃な大きさの隕石が幾つかありますねこれを使いましょうか〉
「当たり前だの……じゃなくて分かったわありがとう、Aちゃん九論の準備は整ったかしら」
〈スタンバイ完了です。1発だけですけどね〉
「OK! 昴くんが戻って来たら作戦開始よAちゃんはトンネルへ向かって飛んで、うちはあの隕石群から目を離せないから、新月さん流星群に巻き込まれないように指示を昴くんに出してね、Aちゃんに任せると小さな傷もつけないようにジグザグに飛ぶから軌道が乱れてうまく狙えないのよね」
〈むう、酷い言われようですね、その通りですけど〉
「今戻ったよ、遅くなってないよね頑張って急いで作ってきたんだから」
「ありがとう丁度いいタイミングよ、急で悪いんだけど操縦任せるわよろしくね」
「えっ?!」
〈カウントダウン始めます。準備は良いですか〉
「オッケーよ始めて!」
アイリーンが隕石をトンネルの中へ放り込んでしばらくすると中が光ったように思えた。
続けて他の隕石も幾つか放り込み、硬化促進剤の量を調整したリキッドメタル弾をネットミサイルと一緒に撃ち込んでトンネルの入り口を塞ぎ作戦は成功した様に見える。
「あとはドライアイスメテオが飛び出てくるのを待てばいいのよね、どのくらい待つのかしら」
〈直ぐのはずです、この作戦のことを基地のアシュラへ秘匿回線で連絡して防衛艦隊にも伝えてますから、大……〉
『大丈夫』と言いかけたスターキッドAIは青ざめた。
〈緊急回避! 全速力! って僕か……〉
スターキッドが地球防衛基地目掛けて全加速を行う。
今回は昴くんだけでなく新月さんまでが加速Gに耐えられず悲鳴を上げる。
宇宙服を着込んでいるアイリーンとピエロは顔をしかめる程度で済んでいた。
九論はまだ戻って来てない。
「エ、Aちゃん正気なの?」
〈う、後ろを見て! あっ、自分の後ろじゃなくて後方モニターです!〉
リキッドメタル弾によって塞がれたトンネルの入り口が光り輝き膨張していく様子が見える。
〈どうも吸い込んだドライアイスメテオがトンネルの中で弾けたみたいですよ〉
「あり得ない事とは言わないが、考えたくないことが起きているのは間違いないな」
九論がいつもの調子でのんびり言いながら入って来てピエロと挨拶を交わす。
「普通に飛び出してくるんじゃなかったの」
アイリーンが聞く。
「爆発するのかな」
昴くんはすごく不安そうな面持ちで副操縦席のアームレストを握りしめている。
「あの様子からすると蓋が計算より頑丈だったのではないでしょうか、ドライアイスメテオはまだ破壊してないと思いますよ、月面側からの吸引が止まらずに内部圧力が上昇し続けているのでしょう。トンネルが破壊するのではなく蓋が飛んで加熱中の圧力鍋を開けた時みたいに内容物が一気に噴き出す光景が目に浮かびます……フフフ」
(新月さんが何か変よ、ストレス溜め過ぎなんじゃないかしら)
それを聞いていた昴くんの顔面が青ざめていく。
「ごめんなさい僕のせいかも、先に謝っておくから許して下さい。ねえ九論あの時もらったリキッドメタル調合表に書かれていた硬化促進剤の量ってもしかして1.050kgだった? 僕は1,050kgで調合したんだ主剤より量が多いので不思議に思ったんだけど、ごめんなさい」
(でもあの時『これでいい』って頭の中で声がしたんだけどなあ)
「まあ間違いは誰にでもあるから、謝って反省したなら今回の原因と防止策を学習ノートに書いて忘れなければいい。しかし不可解なことが1つあるのだがAIは弁明してもいいぞ」
〈べ、弁明だなんて大袈裟だなぁ『硬化促進剤の在庫量は1,000kgも無かったはずだが』って言いたいんでしょう。多少の許容誤差はあってもいいんじゃないですか〉
「お前も同罪だな、昴くんは悪くないチェックしたのに見逃したAIの方が罪が重い」
〈いやだなぁ、昴くんが1000倍の量を入れようとしたとき僕の頭脳が閃いたんですよ、ピピってな感じで、この威力なら僕たち何もせずに全てが終わるんじゃないかって〉
「全てを終わらせたらダメでしょう、連盟艦隊まで終ってしまうんですよ」
新月さんが呆れてしまう。
〈だから僕はアシュラにこちらの意図を伝えてますって、それでどう戦略を立てるかはアシュラの腕の見せどころです。アリオン艦長にも伝わってると信じてますよ〉
スターキッドAIは開き直っているのか何なのか分からない言い訳をしてきた。
「もう限界みたいだな蓋が弾け飛ぶぞ」
九論が言い終わったのを合図にしたようなタイミングでコスモトンネルから光の束が奔流となって押し寄せて来る。
トンネルから人工惑星までは60万kmあるのだが光の奔流はものともせず円錐状に裾野を広げながら突き進み人工惑星に到達する頃には敵艦隊全てを包み込む。
その光の中で敵艦隊(だけと信じたい)が線香花火の様に弾けて消えていくのが見えた。
「すごかったねー!」
アイリーンは嬉々として昴くんは青ざめたまま震えながら同じ言葉を口にする。
「九論あの光の束はどこまで行くんでしょう」
ピエロが興味深そうに聞く。
「もうだいぶ威力が衰えてるからなアステロイドベルトは抜け切れないと思うぞ、ほら見通しが良くなって人工惑星が丸見えだな」
九論が冗談半分に返事した。
光の束が通った後はかなり早いスピードで航行できてスターキッドAIに言わせると〈滑り台を滑ってるみたいだよ! 経験したことはないけどね〉なんて言って皆を笑わせようとする。
そんな感じで人工惑星にたどり着いた頃に惑星の裏側へ避難していた連盟艦隊が次々と現れてくる。
「敵だと思われて攻撃されないかなあ」
昴くんが怯えていく。
〈敵味方識別信号を出してます。ただ20年前のものですけどね〉
スターキッドAIが不安材料にしかならない発言をした。
「たとえ古かろうが受信さえできていればいきなり攻撃はしないだろうよ、いや古い方が信頼度が高いかもしれんな」
九論が少しはましな言い方をする。
「アイリーン一般回線での通信を受信しました。スピーカ出力します」
新月さんが通信機を操作しながら報告してきたけど『さっきの光の影響で通信障害が起きてますわ、これって何回目の呼び掛けか分かりませんわね』と独り言みたいに言ったことの方が気になってしまう。
「こちらは戦艦マリン艦長アリオン、スターキッドキャプテンアイリーン応答されたし、更に告げる応答されたし」
アイリーンはバタバタと通信機をセットする。
「こちらアイリーン、アリオン艦長へ用件どうぞ」
「キャプテンアイリーン無事で良かった。光の奔流に飲み込まれた様に見えたので心配してました……直ぐの応答もしなかったからですね」
アリオン艦長が心配してくれたのは嬉しかったけど最後の一言に恐いものを感じてしまう。
「ごめんなさい、光のせいで通信障害が起きてしまったみたいなんです。こちら側だけの問題だったのかも知れませんけど、アリオン艦長の方は被害なかったですか」
「ああ、間一髪……とまでは言わないけど基地の裏側へ回避して先に居た敵を追い払わないといけなかったからね、ヘタすればこっちが追い出されるんじゃないかとヒヤヒヤだったよ」
(アリオン艦長は絶対ヒヤヒヤなんかしてないと思うな、だって声が笑ってるよ)
「でも良かったです。敵艦隊も排除出来た様ですし結果オッケーと言うことで、うち達はライフスターに入っても大丈夫ですか」
「ライフスター? それってどこのことでしょうかアイリーンさんには僕たちが見えない所が見えてるのですね」
「あっ、ごめんなさい東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地のことです」
「ああ基地のことですか、名前長いですものねあだ名を付けたくなる気持ちは分かりますよ僕たちは基地とだけ言ってます」
「うちはニックネームで呼んでました」
「そうでしたかライフスターってなかなか良い呼び名ですね。それから堅苦しい言葉はお互い使わないようにしませんかストレスが貯まっちゃいますからね、気軽にいきましょうよ」
「た、助かったわ、もう限界だったのよ言葉遣いひとつでこんなにもストレスが溜まるのね、それとさっきも言いたかったのだけどうち達が基地に入っても捕まって牢屋に入れられたりしないわよね」
「それは大丈夫ですよ僕が保証します。だけどアイリーンさんが住んでた頃とは変わっている事が多いと思いますので気を付けて下さいね」
「分かったわ、進入コースは昔のままで良かったわよね」
「そうですけど誘導ビーコン出すように言いましょうか」
「それなら大丈夫このまま管制官に連絡して入らせてもらうわ、直ぐにオビス司令官の所へ行きたいのだけど連絡しといてもらえると嬉しいわ」
「お安いご用です、それでは中でお会いしましょう」
「わかったー、ありがとー」
(ちょっと気軽すぎたかしら……大丈夫よね)
光の奔流を分厚い外壁で防いだとはいえ、まだ周囲にはその影響が残りうっすらと光る帯の中に浮かぶ漆黒の人工惑星ライフ・スターにアイリーンたちは今入港しようとしている。




