ドライアイスメテオ作戦 1
スターキッドは地球に向かって飛翔している1個目のドライアイスメテオを追い掛けていた。
その巨大な球体がディスプレイ上で少しずつ迫って来てるように感じられているのだけど、コクピットの内側は本来の目的を忘れてしまったように賑わっている。
「Dear my girl『親愛なる私の女の子』とはどういうことかな、おうし座のオビスという人物は堅物の地球防衛基地司令官だと思っていたのだがお前たちはそんな仲だったのか」
九論が冷やかすようにアイリーンに向かって言う。
「そんなことあるわけないでしょう、新月さんあなた宛じゃないのかしら」
アイリーンは新月さんに矛先を向けた。
「違うと思いますが何故そう思うのですか、宛先は『女の子』となってたでしょう」
「新月さんの上司の上司はオビス司令官でしょう、それにまだ40歳だし司令官の年齢からしたら女の子でもおかしくないわよね、実際まだまだ若いしね」
(新月さんより優位に立てるかも知れない数少ないチャンスは逃したくない、わ、これから先の教育で一方的に押さえつけられるのは嫌だからね)
「大きなお世話ですよ、そもそもオビス司令官なら直接私の端末へ連絡してくる筈です」
新月さんは少し顔を赤らめて否定する。
「〈アイリーン!〉」
「やめないか大人気ない」
「あら九論はいつもうちのことを子供扱いするのにこういう時は『お前はもう大人だ』なんて言うつもりなのね、卑怯だわ」
「自分を子供だと思うのなら尚更だ、年上の人に対する礼儀は誰も教えてくれなかったのかな」
(そういえば、まだアパートに住んでた頃にウオンさんが口を酸っぱくして言ってたわね…思い出してしまって懐かしいわ)
「一体、年上の人への礼儀って何なのよ、現代社会ではそんなの時代遅れもいいとこよ今は弱肉強食の時代なんだからね」
「2人とも言い争いは止めようよ、今からあの巨大な隕石?人工星?を破壊するんでしょう」
昴くんは放っておくと言い争いが限りなくエスカレートするんじゃないかと怖くなって仲裁に入った。
「そうね昴くんの言う通りだわ、さっさとこのメールを開封してゴミ箱に捨ててしまいましょう、もうウイルスチェックは済んだでしょう、Aちゃん開いてよ」
なぜ目の前のメテオをそっちのけにしてラブレターに執着しているのかと言えば、その内容が本来のような甘いものではないと誰もが信じているのだから。
(何が書いてあるのか中身が気になってしょうがないけど迂闊に開いてウイルスに侵されたりしたら末代までの恥じだものね)
アイリーンは『オビス司令官とは個人的に険悪になっていない』そう信じたい気持ちがずーっと今も続いている。
そんなオビス司令官からの助言でメテオを攻撃するとあれこれ良くない事が起きるぞとか何とか言ってきてるのかも知れない。
だから何はともあれメテオに攻撃を仕掛ける前にメールを読もうとしていた。
〈ウイルス検索には掛からなかったけど言葉の羅列による心理攻撃があるかも知れないからね、ここはひとつ僕が先に一読するよ〉
「ダメよ人の手紙を他人が開封したらいけないんだからね、それに本当に心理攻撃だったらびびりのAちゃんが最初に影響受けるでしょう」
(でも何かの間違いかなんかでメールが発信されたとして、その内容が赤裸々な愛を語ったものだったら、うちに対する効果はバツグンなものになるかも知れないわね)
〈僕はもうビビリは卒業しましたよ~、いつまでも言わないで下さいね、他の人たちはまだ何も知らないのですからお願いしますよ〉
「わかったわよ」
(もう既にびびってるじゃないの!)
〈じゃあ開きますよ、中身がアツアツの内容だったら速攻で焼却しますからね、覚悟しといて下さいよ〉
みんなの視線がディスプレイに集中する。
〈前略、光速宇宙艇スターキッドキャプテン・アイリーン殿。あなたがこれから予定している全ての行動をキャンセルして欲しい、さもないと地球上に更なる犠牲者を生むことになる…〉
スターキッドAIはディスプレイ上にメールを開示した上で朗読を始めた。
「何よこれ、宛先の『Dear my girl』が単なる飾り文句になってるじゃないの」
アイリーンはそう言うと憮然とした表情になる。
「さっさとあのドライアイスメテオを潰すわよ」
(何よ人の気持ちを弄んで)
「まあまて焦るな少し考えよう」
九論が制止してきた。
「駄目よ時間がないじゃない」
アイリーンは既に臨戦態勢に入っている。
「時間がない時に焦って決断するとろくでもない結果しか生まないわよ」
新月さんが落ち着きなさいと片手でアイリーンを扇ぐ仕草をしながら言う。
「僕たちがあの巨大隕石を破壊するとより多くの人が死ぬと言っているんだよね、最初から地球上の人類を絶滅させるって言ってるのに変なことを言ってるね何でだろう」
膝の上から昴くんが聞いてきた。
(それもそうよね)
アイリーンも考えたが答えは出ないように思う。
「だいたい何でうち達がドライアイスメテオを破壊するって知ってるのよ、ピエロは何か隠し事してるんじゃないかしら、素直に言わないと放り出すわよ」
アイリーンは時間に追われている気がして理性が利かない。
「隠し事は一杯してますけど、後ろめたいことはしてませんよ」
ピエロが楽しそうに口を開く。
「アイリーンさん落ち着いて下さい。ピエロさんに酷いことを言ってますよ」
新月さんはアイリーンに対しての精神攻撃だったのなら成功してるのではないかと思ってしまう。
(ピエロさんと九論さんはさっきからニヤついているけど、私と同じことを思っているんでしょうね)
「大丈夫ですって気にしてませんから。しかしアイリーンさんにはもう少し冷静になってもらいたいですね、メールの中では具体的な行動について触れられてないですよ、差出人は私たちが何をするのかは知らないのです。だから何もするなと言ってるのですね、私たちが何かをすれば地球人の犠牲者が増えるぞと脅してるのですよ」
アイリーンは今操縦パネルから目を離せないので後の方から話し掛けているピエロの表情が見れない。
「なかなかの推理ね上手いわ、この際だから隠し事も今ここで全部話しなさいな」
「そうですね、隠し事については聞かれないから言ってないだけのことですけど…聞かれてもないのにベラベラ喋ってたら真っ白な人間になって面白くないでしょう。だから私がジャーナリスト情報として得た事を今からベラベラ喋ろうと思いましたが、時間がないことに気付きましたので…」
ピエロはそこまで話すと言葉を切って続きを話し出そうとしない。
「どうしたの急に黙り込んで、トイレに行きたいとか言い出さないでよね、あと一言で終わるんでしょう」
アイリーンはピエロが何を言おうとしているのかテレパシーを使わなくても分かってしまった。
(どうせ攻撃を止めろって言うんでしょうよ)
「キャプテンのおっしゃる通り一言で済ませますと『攻撃は中止して下さい』です。連盟は人類絶滅作戦にあたりいくつかの案の中からドライアイスメテオ作戦に決定しました。その理由が他の案は過去に実施して、ある程度の評価が出ているので今回は新しい事の実証実験を兼ねて実施するらしいです。私たちが得た過去に実施された作戦名はですね、地球自転停止作戦、火山噴火作戦、マントル移動大作戦らしいです。ドライアイスメテオ作戦が失敗に終わった場合は地球自転停止作戦を再び実行するようです」
ピエロはここまで一気に喋るとポケットから小瓶を取り出し一口だけ口に含んだ。
アイリーンはそれは何かなと問い質したかったけど別の質問をしなければと思い立つ。
「地球の自転なんか止まらないわよ」
「高質量の星を地球が公転している直ぐ後ろを通過させるだけで急ブレーキを掛けたように止まりますよ。今回は木星の公転軌道をずらし地球と交差させるらしいです。時間が掛かり過ぎるのが欠点ですね、この方法は地球誕生初期の火球だった頃に早く冷却させる目的で行われていて、その後遺症で地軸が23.4度傾いたらしいです。今のアステロイドベルトはその時に地球と交差させた惑星の成れの果てらしいです。負荷に耐え切れず粉々になってしまったみたいですね、まあ、地球の方が粉々にならなくて良かったですよ。ついでに言いますとマントル移動は、中生代白亜紀をタイムトラベルで訪れていたカシオペア座アルファ星の皇太子一行がいたのですけど、比較的大人しい草食恐竜のブロントザウルスを手懐けてマンガの主人公みたいに頭に乗ろうとしたらしいのですが、踏み潰されて全滅したらしいです。その腹いせ…報復でしょうね、地殻変動ミサイルを撃ち込んで恐竜を絶滅させた事になっています。その影響でそれまで1つだった巨大大陸が8つに割れたと報告されてますね。火山噴火は海王族のリバイヤサンが1人で行ったらしいんですけど噂話程度しか情報が得られませんでした。何でも神の力を思い知れとか言って、ムー大陸とアトランティスの火山を噴火させて一晩で海に沈めたとかがおとぎ話になってますね」
ピエロは話しながらアイリーンの側まで歩いてきて、最後は昴くんの頭を撫でている。




