77.ドライアイスメテオ作戦 2
「ピエロの言いたい事は分かったわ解り易く解説してくれてありがとう。お礼は言ったからね、それじゃ攻撃を開始する。目標は前方のドライアイスメテオよ」
「ちょっと待ってアイリーン! 分かってくれたんですよね、それなのに何故攻撃するのですか」
ピエロが焦って言う。
「目の前に地球人類を絶滅させようとしている物体があるじゃない。うち達だけがそれを破壊できるのよ、ここで遣らないと一生後悔すると思うの、そんな人生うちは嫌だから遣るのよ」
アイリーンの怒りのボルテージが上がっていく。
もう誰にも止められないのではないかと思えるレベルになっている。
「全てを理解した上での判断ならこれ以上私は何も言わない。後はキャプテンに従いましょう」
ピエロはお手上げのポーズをしてみせた。
「ありがとうじゃあ集中するから、キッド目標までの距離と時間を教えて」
〈うしろから攻撃するより横で並走した方がやり易いでしょうから並びますね〉
「じゃあお願いするわ、並んだら合図してね」
〈了解、5秒後ですよ〉
(意識をさっき見たトンネル出口で作成中のドライアイスメテオの核に集中してと全部で5個だったわね1個、2個、3個……重い……に、2個が精一杯だわ、これを1個に合成して……飛んで来い!)
〈並んだ!〉
スクリーンにはドライアイスメテオの全体像が入らない。
画面はドライアイスメテオ表面で気化した高濃度ガスが白一色のまま流れていく様子が映し出されている。
白いガスの奥に硬いドライアイスの塊がありその中心にある5つ核を意識しながら、アポーツで引き寄せた核を四つ玉ビリヤードみたいなイメージでぶつける。
その瞬間アイリーンには『パカーン』と澄みきった音が聞こえた。
「離脱!」
アイリーンが叫ぶ。
スターキッドは地球の衛星軌道面を目指して矢のように飛ぶ。
「ウグッッ!」
昴くんが悲鳴にならない声を漏らす。
「みんなぁー、僕が居ることを忘れてるよーあれ?」
昴くんは、たった今まで味わっていた胸を締め付けられるような苦痛がいきなり消滅したのを不思議に思ったと同時にアイリーンが1人で操縦席に座っている姿が目に入る。
(えっ、僕はいつの間にアイリーンの側を離れたんだ)
昴くんが不思議な気持ちで横を向くと優しい目をして見下ろしているピエロさんの顔に出くわした。
「これって、どういう状況なの」
思わずピエロさんに聞いてしまう。
今まで直接ピエロさんに問い掛けたことはあまりない。
「昴くんが急加速や急減速をするたびに苦しんでいるのを見てるのが辛くなったからね、訓練は別の機会にすればいいと思ったからさ、私が作る隔離空間の中に招待したんだけど迷惑だったかな?」
「とんでもありません、ありがとうございます。こんなことなら最初からお願いすれば良かったですね」
(ピエロさんは僕が思っている以上に優しい人なのかも知れないな)
「ははは、それはどうかな」
ピエロは昴くんの心の声が聞こえてる様な返事をした。
急加速したスターキッドは瞬く間に地球の反対側へ来てそのまま大気圏へ進入してる。
「ごめんね昴くん一瞬だから耐えられると思ったのよ」
「そうですね、ダンプカーに撥ね飛ばされる時も一瞬でしょうけど耐えてみせますよ」
昴くんは珍しく皮肉を言ってみた。
「ごめんなさいドライアイスメテオが爆発する時の衝撃波からギリギリで回避したくなくて苦しい思いをさせる事になってしまったわ、今度からそんなことにならない方法を一番に考えるわね」
「そうしてもらえると助かるよ、僕としても正面の操作パネルをゲロまみれにしたくないからさ」
昴くんは口元を腕で拭く仕草をしながら脅す。
〈ウゲゲ、冗談でもそういう事は言わないで下さいよ想像するだけで気分が滅入ってしまいますから〉
スターキッドAIが普通の人間なら言いそうなことを言う。
「うん僕も努力するね」
「ドライアイスメテオが粉々になって霧散してくれたら良かったのですけど、そう都合よくはいかなかったみたいです。それに……」
外部環境監視カメラを見ていた新月さんは口ごもった様に話す。
「バラバラになった欠片が加速しながら地球に向かっていてあと30分で大気圏に突入予定です。それとこれも言いにくいことなんですけど2個目のドライアイスメテオが地球目掛けて飛んでいて更に加速を続けています。連盟艦隊が周りを取り囲んでいて何か特別な方法で加速させている様です。こちらを近づけさせない目的もあるのでしょうね。今の状態ですとあと1時間30分で地球に衝突します」
「これじゃあ近付けないな」
九論が何か他に良い方法がないか考え込むようにして言う。
「Aちゃん聞いて、連盟艦隊との接触はしたくないわ気付かれないように大回りして……できれば連盟艦隊の後に付けて欲しいんだけどできるかなぁ」
〈了解です。ステルス状態にすれば何でもできますよ、さっきの10分の1加速で到着まで5分弱ですね〉
スターキッドAIが口笛を吹き出すんじゃないかと思われるくらいの気軽い声を出す。
『何でも出来る訳がないでしょう』と誰もが思ったけど誰も口にはしない。
「僕のことならピエロさんに守ってもらっているから気にしないで下さい」
昴くんはやっと余裕が出たみたいな声を出す。
〈じゃ、3分後の予定に変更しますね〉
「ちょっと待って下さいませんか、私のことも昴くんの次くらいには気を使って欲しいのですけど、だからその……お願いします」
新月さんが苦笑いしながらスターキッドAIに言う。
「ねえ先生、新月先生の仲間が僕たちの家族を助けてくれるって話があったじゃないですか、あれってどのタイミングで救助に向かうんですか」
昴くんは移民船の話を聞いてからずっと気になっていた事をやっと尋ねた。
(昨日のお昼に僕と兄さんがシンクロしたけど救助に行くのはドライアイスメテオが地球に落ちてからなんだろうか、だったら僕たちの両親はまだ家に帰ってないかもしれないと思うのだけど)
「それがどうも翔くんと氷室宣子さんは昨日の夕方には移民船からの迎えが来て乗船してるそうなんだよ」
副操縦席から九論が昴くんを見ながらすまなそうに答える。
「昨日の夕方って僕と翔がシンクロした後だよね」
昴くんは昨日の記憶を辿ったけど救助に向かったといった話を聞いた覚えがない。
「救助に向かうのはドライアイスメテオが地球に落下してからだと思ってたんですよ、そのタイミングで僕たちの両親が留守だったらどうするのかと聞きたかったのです、でも昨日ってまだドライアイスメテオが落ちるかどうかも分かってなかったですよね」
〈さっきの昴くんがした救助についての質問には僕から答えますね〉
「スターキッドAIさんがですか、でもまあよろしく頼みます」
〈ドライアイスメテオ計画の事は新月さんも知りませんでした。つまり地球に駐在している支部員には知らされていないということです。パニックを起こさせないためだったとアシュラが口を割りました〉
「アシュラは知っていたのね」
アイリーンの怒りが沸き上がる。
〈守秘義務があったので仕方がないことだと割り切ってください、移民船は地球人保護派がかなり以前に用意してアシュラの管轄下にあったのですが26日に投下される予定のドライアイスメテオが現場監督の勝手な判断で1日早くなったそう・・・〉
「そうよ!そう、昨日九論があと2日あるからそんなに慌てる必要はないって言ってたわよね、さっき地球に落ちる寸前のところを見て凄く驚いたんだからね、でもそんなことを言ってる場合じゃないと理性を働かせるくらいには……うちは大人なのよ」
アイリーンが話に割って入りひとしきり憤慨した。
〈アシュラも予定が早まったのを知った段階で移民船の起動準備を始めたのですけど、丁度その時って高良山のミステリーサークル上空でアイリーン達を回収していたのですよね〉
「それを知った、いや見た……かなアシュラが避難が始まったと誤解したんだ。だから更に準備を急がせて翌日、つまり昨日の夕方に昴くんの家族を迎えに行ったのだけどそこには翔くんと信子さんしか居なかったとなっている」
〈九論ずるーい、一番最後の重要なところだけ喋ったあー〉
「ありがとうございます、でも僕の頭じゃあ理解が追い付かないです、それじゃあ結局のところ僕と宣子さんの両親はまだ家に居るのですね」
昴くんは落胆しながらお礼を述べる。
「ドライアイスメテオが地球に落下して人々がパニックに陥った時は連盟の地区担当職員が人々を避難誘導を開始すると思います。そういった訓練は受けていますから、移民船も何らかの合図を出しているでしょうから上手いこと連携できると思います。ただ残っている支部員の数に限りがありますから全員救助できるとは限らないのが残念でなりません」
新月さんは地球に残っている支部員が連盟によって切り捨てられていないことを切実に願った。
その頃、月の裏側で生成され拡大していた3個目のドライアイスメテオはアイリーンが核の一部をアポーツで引き寄せたので縮小を始めている。
その引き寄せた核によって地球に衝突寸前だった1個目のドライアイスメテオがバラバラに砕かれそのひとつ一つの欠片は煌めきながら地球の大気に溶け込んでいく。
その光景を見た人々が何らかの異変を感じ支部員の誘導に従い整然と移民船へ乗り込んでもらうことを期待したいと新月さんは思う。
連盟艦隊に守られながら地球に向かっている2個目のドライアイスメテオはあと1時間で地球に衝突しようとしている。
地上に居るどれ程の人類が自分たちの危機を知っているのだろうか。
スターキッドに乗っているアイリーンは不安な気持ちを持ったまま地球の大気圏を抜け連盟艦隊の最後尾を目指して飛んで行く。




