111.アイリーン対ベンガル
移民母船エム78で開かれたパーティー会場での雑談で九論が得た情報を元に戦略が立てられヘンナ副司令官の私兵艦隊が待ち構えている宙域へと向かう。
それから30日後、スターキッドはヘンナ私兵艦隊の真っ只中で集中砲火をシャワーの様に浴びている。
〈僕を囮にするって! こんな無茶苦茶な作戦があります?〉
「Aちゃんいつも言ってたじゃない『僕はこんなにチンタラチンタラ飛ぶために造られたんじゃないんです』って『たまには全速力の全力を出させて下さいよ~』って、良い機会だと思ったのよ……上に防御バリア集中して!」
〈分かってますって、かすり傷1つ付けさせませんよ〉
「愛鈴きりがないよ、そろそろじゃないかなあ」
昴くんは副操縦席で敵をモニタリングしながらタイミングが合えば撃ち落としアイリーンとスターキッドAIの補佐をしていた。
「そうね……今18機目撃墜、昴くんが10機よねAちゃん残弾はあとどの位かしら」
〈残り半分です。そろそろですね〉
「わかったわ少しは残しておきたいしね」
「ねえ愛鈴さっきから気になる事があるんだけど、まさか『あれ』をやる気なの」
「そうよアップライトキャメル連射攻撃を最後にやるわよ、花火大会でも最後が一番盛り上がってたでしょう」
「花火大会と一緒にしないほうがいいと思うんだけど」
〈何を言っても無駄ですよアイリーンは最初からこれをやるんだって決めてましたから、自分が編み出した新技を最後に披露して終らせるってね〉
スターキッドAIは既に諦めの境地にいる。
「終らせるって、僕たちが終ってしまったらお仕舞いなんだけど愛鈴本当にやるの?」
「殺るって言ってるんだからやるのよ、Aちゃんも大丈夫って言ってるわ」
「僕は愛鈴が目を回すんじゃないかと心配してるんだけど」
「大丈夫よ心配しないで、大技を決めた後でちゃんとテレポートして離脱できるわ、このためだけに苦しい特訓に耐えてきたのよ」
アイリーンは涙を流さんばかりに言う。
(僕は愛鈴が特訓? に苦しむ姿なんか見た覚えはないよ、いつも楽しんでたじゃない)
昴くんは何とか心の中だけで終わらせた。
「いい具合に小型機が密集してきてるじゃない防御シールド展開……もう少しだけ引き付けるわよ」
アイリーンによるスターキッドの最終奥義がもう直ぐ披露される。
少し前に実行されたアイリーンの戦法は九論の案を一瞬で却下しアイリーンが考え出しスターキッドAIが泣きながらOKした他の誰も絶対に思い付かないものだった。
当然、他のみんなは強硬に反対したのだけどいつも通りアイリーンは飛び出して行く。
スターキッド1機だけで敵に向かいその距離が接触15分前になった辺りからゆっくりとした速度で敵の中央部へ突き進む。
スターキッドは大きく半円を描いて待ち構えている敵の懐へ入る。
ヘンナ副司令官私兵艦隊の総指揮を取っていたのは地球防衛基地で飛行訓練主任教官を務めアイリーンをイビっていたねこ座キャット星人のベンガルだった。
単騎独行してくるスターキッドを眺めながらベンガルは鼻を鳴らす。
「目立ちたがり屋のお転婆嬢ちゃんにゃん、1人で来たということにゃ人質にでもにゃって詫びを入れるつもりだろうかにゃん生かすも殺すも俺様次第にゃ、どうしようかにゃあ~」
ベンガルが鼻を鳴らしている間にスターキッドは包囲隊形の最深部まで到達して停止する。
「スターキッドより入電『機関停止して降伏しなさい。さもないと3分後に攻撃します』だそうです。何を考えてるのでしょうかね」
通信士の言葉を聞いたベンガルの形相が化け猫の様に変化してゆく。
「全艦スターキッドにゃあ向けて一斉射撃!」
ベンガルが黄色い牙を剥き出しにして吠えた。
「待って! 同士討ちになります!」
へび座カッパ星人のグシャ参謀が忠告するがベンガルはキョトンとして動こうとしない。
「射撃中止!」
グシャが代理権限を行使して命令を発したが命令が届くまでに少し時間が掛かる。
反応が早い数艦は既に射撃開始していたがスターキッドを含め全艦が防御シールドを展開していたので誰も被弾していない。
「どうしろと言うのにゃ!」
ベンガルは地団駄を踏む。
「スターキッドが常に三角錐の頂点に位置するように艦隊運動を行えば良いのですが……」
グシャ参謀は最後まで言いきれない。
(艦隊運動を行えば良い……と言うのは容易いのだがこの無秩序の艦隊では絶対に無理だ)
「そうだにゃ、グシャの言う通りにゃ!」
ベンガルは意欲を取り戻し叫ぶ。
「全艦隊に告ぐにゃ、スターキッドを中心に置いてリサージュ行進しながら攻撃開始にゃ」
(なんとまあ気が短い隊長だこと……フッ、まあネコ族だから仕方ないか)
普通の猫が聞いたら『シャー』と鳴いて怒られそうなことをグシャは思った。
「対面に味方艦が重ならないように位相角度を決めて下さい」
グシャが注意点を各艦長へ伝える。
砲火がスターキッドへ集中し輝く閃光で戦況が良く分からなくなった時ベンガルが再び叫ぶ。
「アタック艇、全艦より出艦だにゃ!」
(出棺だなんて縁起が悪い、せめて出撃と言ってくれないかなあ、頭……悪いんじゃないだろうか)
グシャは他の艦長も気落ちしてるのではないかと気掛かりになる。
(いや、それよりも重要なことがあった)
「ベンガル隊長、僭越ながらご進言申し上げます。スターキッドの状態が確認されてない状態でのアタック艇出撃は時期尚早かと思われます」
「ふん、よいよいあれだけの集中砲火を受けて無事であるはずがない一気に叩き潰すには好機、う~っ! GO! 行け行けGOGO! 踏み潰せ!」
ベンガルが調子に乗って踊りだす。
グシャは呆れ果ててもう見てもいない。
アタック艇が攻撃対象へ接近してもなお中心部の視界が晴れない。
「既に粉々になってるんじゃないですか」
ベンガル艦から出撃したアタック2番艇モンキー星人のヒヒがぼやく。
「気を付けろ! 煙の中に潜んでるかも知れん。爆裂弾発射! 煙幕ごと吹き飛ばしてやる」
アタック1番艇モンキー星人リーダーのマントが注視した。
爆裂弾が球状の煙の中へと吸い込まれ破裂する。
煙が拡散していくと視界が晴れていく。
その視界に入ってきたものは大小様々な大きさの隕石が自分達目掛けて突っ込んで来る様子だった。
アタック艇の何機かはこの隕石の直撃を受けて爆発飛散している。
「この隕石は何だ! それにスターキッドは何処に行った? 居ないじゃないか」
リーダーのマントは不安になった。
(オレ達、罠に嵌まったのか)
マントの憂慮を他所にコの字隊形を取っていた艦隊が包囲網を狭めようと近づく。
「ダメだ! 来るなー」
マントは必死に叫んだが重量艦がそう易々と慣性の法則に逆らえる筈もなく隕石の直撃を受ける艦が目に入る。
(た、堪らん!)
直視するに耐えかねて中心部に視線を戻すと今まさにスターキッドがテレポートで戻って来たところだった。
そう、スターキッドは最初だけ攻撃を受けたふりをしながら煙幕を張り来る途中に見繕っていた小振りの小惑星をアポーツで身代わりとして置いて自分達は絶妙のタイミングでテレポートして戦線を離脱している。
今のスターキッドにはアイリーンと昴くんだけが乗っていた。
「いい具合に小型機が密集してきてるじゃない防御シールド展開もう少しだけ引き付けるわよ」
スターキッドは敵との攻防を繰り返しながらアタック艇を自分の回りに密集させていく。
「アップライトキャメルスピン連射攻撃開始!」
アイリーンが叫ぶ。
〈内臓破裂とかしちゃったら嫌ですからね〉
スターキッドAIが本心から心配する。
スターキッドが縦横斜めに高速回転して4門の射出口より射程を短くした光子エネルギー弾を撃ちまくった。
いかにスターキッドの中で重力制御装置が働いていようと今の運動エネルギーの量には対応できない。
「ぐごぉぉぉ~」
昴くんが怪獣じみた声を漏らす。
「じゅ、15秒だけよ」
アイリーンは必死に耐えている。
(レッドアウトしそうだわ……もうちょっとの筈よね)
〈攻撃終了通常航行へ移行、陽動作戦開始〉
スターキッドAIが号令を掛け全エネルギーを停止した。
アイリーンと昴くんはまだいつもの元気な状態には復活していない。
「お腹と背中がくっつくなんて本当に起きるんだね」
昴くんが苦笑いしながら言う。
「バカね、本当にそんなことになったら生きてないわよAちゃんは何ともないでしょうね」
〈僕も本体も大丈夫です。陽動作戦もあと1分で終了ですよ〉
スターキッド目掛け距離を縮めていたベンガルは被弾を免れていてそして狂喜した。
「あのバカ娘、昔からバカだバカだと思っていたにゃん。全てのエネルギーを使い果たして機能停止するにゃんて筋金入りのバカだにゃん。全艦突撃一気に踏み潰すにゃ~」




