110.まだ知らない方がいい
アイン星人所有の超大型最新鋭母船エム78のお茶会と言う名前を騙ったパーティ会場では飲みながら食べながらの自己紹介が始まっていた。
「アイリーンはこういうのが好きだと聞いたから喜んでもらえるだろうと思って用意したんだ」
レッド隊長がニコニコしながら言う。
(一体誰の情報よ失礼しちゃうわ)
「ここにはホーク艦長やアリオン艦長それにオビスさんも来てるんだよ、うちのために用意したなんて知れたらとても恥ずかしいわ」
昴くんは今さら何を言いいだすのかと思ったがアイリーンは真剣だった。
「伴侶のお方とイノマン先生が傍でフォローしてくれますよ」
レッド隊長の横に立っている冥王星駐屯地のアンバ隊長が言う。
アイリーンは『伴侶のお方』の意味が頭の中でグルグルしてもう一つの名前を聞き逃す。
(伴侶のお方ってもしかして昴くんなの、本当に一体全体誰がそんなことを言いふらしてるのかしら)
アイリーンは左肩に乗せていたロボちゃんの頬を指でつつく。
「あんたじゃないわよね」
「何の事だか理解不能です」
スターキッドAIにダイレクトリンクしているカメラロボットは小刻みに震えだす。
「分かったわ」
アイリーンは全てを理解したと思う。
以前もスターキッドAIは情報を得るため基地のメインコンピューターアシュラにアイリーンの個人情報を流している。
物々交換というやつらしい。
(今回も同じことをやったんだ、本当に乙女のプライバシーを何だと……)
アイリーンの思考はアンバ隊長によって中断される。
「キャプテンアイリーン、イノマン先生に挨拶したいのですが宜しいですか」
アイリーンは思考が追い付かずにキョトンとした。
「アンバ隊長? どうかされましたのイノマンは来てないわ冥王星の地下室で研究に没頭してるはずですわよ、ねえ九論あんたも知ってるわよね」
(あれ九論がいないどこに行ったのかしら、さっきまで後ろに居たと思ってたのだけど……)
「九論さんは1人で行っちゃったりして大丈夫かなぁ迷子にならなければいいけど」
昴くんが心配してる。
「そうなのよね~、最初はあんなんじゃなかったのに最近はピエロに似てきたんじゃないかしら」
「僕はアイリーンに似てきたんじゃないかと思うよ」
昴くんがまたしても余計なことを言ってアイリーンに睨まれてしまう。
「ああ、アイリーンさん達は知らされてないのですね……それじゃあ仕方ないです。何か食べませんか」
アンバ隊長が無理くりに話題を変えた。
「お腹一杯なのよね、でもアイスクリームなら入るわ昴くんも食べようよ食べ方教えてあげるから」
(食べ方に注意が必要な食べ物なのかなあ、確かアイン星人のおもてなし料理って聞いたけど)
昴くんは意味が分からないけど用心に越したことはないと思う。
「いきなり襲ってきたりなんかしないよね」
昴くんは例のアレを思い出したらしく少したじろぐ。
「違うのよ、ここの料理を食べるにはコツがいるの……精神力が必要なのよ」
アイリーンはそう言いながら昴くんの手を取って料理が載ったテーブルの方へ歩いて行く。
2人が話の途中で去って行ってしまう。
後に残されたアンバ隊長は身長と胴長が2mのケンタウロス族レッド隊長の陰から出て来た九論に挨拶をした。
「イノマン先生におかれましてはお元気そうで何よりです。言ってなかったのですね」
アンバ隊長は言葉少なくそれでも周囲を気にしながら言う。
「何となく説明が面倒になって、泣かれるのも嫌だしな」
九論の雰囲気が少し老けたように感じられる。
「そんなに優しいお方だとは思ってませんでしたよ」
アンバ隊長は仲が良い友達に対するような口調で話す。
「話し出すタイミングを待っていたら今になってる次第だ」
「今まで誰も気付かないってどうやってたんですか」
「最初から私のクローンにバイオロイドの記憶と精神体をコピーすると説明していたしな、最初の頃はバイオロイドの意思があったんだが時間の経過と共に薄くなって最近は完全に消えようとしていてな、仕方なく私が出てきたわけだ」
(嘘は言ってない、オリジナルもコピーすると言わなかっただけだ、あの時バイオロイドの精神体は限界、オリジナルの肉体も限界、あそこで起こせるクローンは最後の1体、何もかもがこの結果を導いていたのさ)
「そうでしたか、しかし先生は研究もせず日がな一日凡庸と過ごされていて飽きてるんじゃないですかね」
「そうでもないぞ1人で研究所に居ては決して味わえない馬鹿みたいに騒がしい雰囲気もそんなに悪くない、理論やロジックを全く無視したぶっつけ本番の実践で成果が得られたりするのを見られるのならこのままでも有意義ではないかとさえ思えるんだな」
「私には理解できませんね、それより大分雰囲気が柔らかくなられましたね」
「多少はバイオロイドの精神と融合したからな、当分は九論として生活するから宜しく頼む、本当に不都合になったら秘密の場所で培養している私のクローンがそろそろ移れる頃合いになってきたから起こすだけだ」
アンバ隊長はイノマンが言う秘密の場所とかあと何体のクローンを隠し持っているのか探りを入れたい衝動に何とか打ち勝つ。
その横で『カッ!カッ!』と乾いた音がした。
見るとレッド隊長が床を足の蹄で叩いてる。
「これからどうするのか予定をお聞かせ下さい」
彼は特にイノマンと親しい間柄ではなかったので九論がイノマンだろうとなかろうとあまり関心がなかった。
ただ2人の長話にちょっとだけイラついた表情をしてる。
「全ては彼女次第だよ私は聞かれたことに助言を与えるだけにしている。できるだけ自由にさせていると面白い事が多く起きて飽きないからな、そう言うレッド隊長こそこの先どうしたいのかお聞かせ願えないだろうか」
「ごほん……」
レッド隊長は咳払いを一つして辺りを見渡した。
そして声を少し落として話し出す。
まるで他の人には聞かれたくない様に。
「あと30日行程先、残された木星までの1/4地点でヘンナ副司令官の私兵艦隊がコの字陣形で待ち伏せしているのを私は見ています」
私的な場だけどトッブ2人と戦略の話をしだしたので九論はスパイ防止装置のスイッチを入れる。
「どれ程の規模か把握できてるのかな」
「はい、戦艦が正面に3、左右に1隻づつ、中型艦が左右に2隻づつの合計9隻高速小型艦はいません。攻撃艇はまだ出ていないので数が分からないです。私が見た時にはそれらが0.1光秒の範囲内に展開していました」
「こちらの戦力を聞かせてくれないか」
「私の艦隊ですが高速戦艦1護衛艦12高速小型艦24です」
九論に対して簡潔に報告したケンタウロス族のレッド隊長が小さく見えた。
それは天王星守備隊としては妥当な配置だけど先制攻撃をするには適していないからだろう。
九論がアンバ隊長を見る。
「確か冥王星で私が即席改造した母船があったと思うが一緒に来てるのかな」
「はい言われました通りその後も改造を続けて完成させました。母船エム68は戦艦級攻撃艦ムーヤとして同じく母船エム58は攻撃艇30と無人攻撃機を90搭載する空母ゴーヤ、最後が母船エム18を改造した高速突撃艦イーヤの3隻になります」
「処女航海で実戦になるのも不安があるな」
九論は不安そうな表情を見せた。
「大丈夫です。実戦に耐えられるまで補強改造を繰り返しました。あの時来ていたレッドフラックスの方々との模擬戦闘も2勝1敗2引分でしたからまあまあの評価をしています」
アンバ隊長が報告する。
「それは私が知る限り冥王星と天王星の殆んどの戦力が来てることになるのだが違ったかな?」
九論は少し驚き考え直す。
(そうだなこの際だから辺境警備隊を辞めて地球基地防衛隊をしてもらった方が良いのではないか)
「冥王星から残りの母船が5隻と天王星からも浮遊生活要塞がこちらに向かってきてますので全部ですね」
全てがアステロイドにたどり着くまであと10年は掛かるそうだ。
「そんなことをして大丈夫なのか」
「本星の許可は取ってます元々が冥王星駐屯地でしたから、あと今回の騒ぎで戦艦型Bシリーズの配置も決定されました。今回には間に合いませんが今後の備えになると思います」
アンバ隊長が言う。
「太陽系内での指揮権は全て私にあります」
レッド隊長が大きくなって胸を張った。
九論は考えを巡らす。
「それでこれからの行動をどう考えている」
「地球人がいなくなった地球を我が物にしようとする蛮族どもを凝らしめないといけませんね。まず手始めにヘンナ副司令官の私兵をやっつけましょう」
「やっつけると言うのは簡単だが何か作戦があるのかね」
「先生のお力をお借りしようと思ってます」
アンバ隊長たちは最初からイノマンに頼るつもりでいた。
「そうだな2艦隊合わせると優位にはなるな」
九論はまだ不安を払拭できない。
(敵の技量と能力が不明だからな……)
「味方の被害を出さずに勝つにはどうしたら良いでしょうか」
理不尽なほどの無理難題をさらりと言う。
「レッド隊長、それは戦わないと言うことと同意義だと思うのだが」
しかし九論はその気になった。
腕組みをしながら考えを纏め上げているその顔つきがにやけ顔になっている。
「何か良い作戦を思い付きましたか」
九論の表情を読み取ったアンバ隊長が声を掛けてきた。
「然るにだ、いかに綿密な計画を立ててもアイリーンに掛かったら全てが水泡と化し彼女の独断専行の場になってしまうのだろうけどな」
(それも面白いのかも知れないな)
皆の顔つきがにやけ顔になっていく。




