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108/117

108.辺境惑星艦隊来る 1

 アステロイドベルトにある宇宙人のための地球防衛基地から200万㎞の宇宙航路を木星方面へと並走して進んでいる戦艦マリンと輸送艦キャメロットがいる。

 光速艇スターキッドは自分の母船キャメロットの中で休んでいた。

 そのスターキッドの倉庫でスターキッドを統括する人工知能、自称スターキッドAIの音声が遠慮がちに流れている。

〈起きて、起きてアイリーン、キャプテンアイリーン起きて下さい〉

 アイリーンは倉庫のカプセルベッドの横に敷いた四角い段ボールに包まれてまだ寝息をたてていた。

(ああ歯がゆい、こういう時はバイオキッドが居てくれたらなぁとつくづく思うよ……)

〈愛鈴……おきて〉

 スターキッドAIは、少し甘い声で昴くんの声真似をする。

(う~ん、背中が痛いやっぱり倉庫の中は少し重力が強いのかもね)

「昴くんもう朝なの……まだ眠いわ」

 アイリーンは声は出すけどまだ起きない。

〈いえ、今は夜中の1時です〉

「一体何の恨みがあって一番美容と健康に悪い時間に起こすのよ、トイレなら1人で行ってよね、って、もしかしてAちゃん? 昴くんは?」

〈昴くんは寝てますそれに僕はトイレには行かないし、それどころじゃないし、じゃなくてエム78のタロウ船長から秘匿回線通信が入ってます。僕が対応してもいいですけどキャプテンに一言声を掛けてからと思いまして『また勝手なことをして』と言われるのもそろそろ飽きましたからですね〉

「う~っ、誰だって?」

〈タロウ船長!〉

「それは……目を醒まさないといけないわね、いま繋がってるの」

 アイリーンは段ボール箱からゴソゴソと抜け出して宇宙服の予圧を上げその中で身だしなみを整えながらスターキッドAIの報告を聞く。

〈連絡方法を確認し合ってから一旦切断してます。あと連絡してきた目的を少し話してくれましたから伝えます〉

「いい判断ね直ぐにコクピットに行くわ」

(タロウ船長は何て言ってきたの今更うちを捕まえに来たってことじゃないよね、こんな真夜中に連絡してきたってことは裏取引をしましょうって事かもしれないわね、でもうちは絶対に悪事には手を染めないわよ)

 アイリーンが考え事をしながらコクピットの扉の前に立った時、後に人の気配を感じて振り返った。

「どうかしたの?」

 昴くんが真後ろに立っていて、アイリーンと目が合うと問いかけてくる。

「ビ、ビックリしたなーもー居るなら居るって最初に声を掛けてよねー、それでいつから居たのよ」

「愛鈴がぶつぶつ言いながら倉庫を出ていく時には後ろについて行ってたけど、何か考え事をしてるんじゃないかと思って声を掛けなかったんだよ」

「声を掛けてくれたら良かったのに、そしたら1人で悩まずに済んだかもね」

「今掛けたじゃない、それで悩みって何なのかなあ」

「う~ん、ほら、ルナ・ターミナルでうちのポスターが貼ってあったでしょう」

「うん、指名手配のね」

(う~、心臓がドキッとするわ)

「うちは何も知らなかったのよ、その頃はエム78って宇宙船に乗っていたと思うの」

「スターキッドと一緒にでしょう」

 昴くんは確認事項のように聞く。

「キッドとは離れ離れになってたわ」

(新生児の昴くんに会った後だったわね)

「じゃあ1人で乗っていたの、寂しくなかった」

「あの時は楽しかったわよ、スターキッドをアポーツで呼び寄せるまではね」

「えっ、話が見えないよ~、スターキッドと一緒になれたんなら楽しさが増したんじゃない」

「だからその時既にうちは指名手配になっていてその事を知らないのはうちだけだったんだよ、もっと早く気付くべきだったんたわ、エム78ってね全長78km7万人乗りの超大型宇宙母船だったんだよ、それに100人程度しか乗ってなかったんだ、うちを基地まで連行するための監獄だったんじゃないかと思うのよ」

「愛鈴はその頃既にオビス司令官とは仲良しだったんだよね、保護するのが目的だったと思うよ」

「結果的にはそうだったかもね、でもあの時はそんな事を考える余裕なんてなかったし、ここで逃げ出さないと基地での裁判で死刑になるんじゃないかとまで思ったわ」

「じゃあスターキッドに乗って逃げたんだね」

「そうよ必死だったわ、もう10年も前の事なんだけどその時のタロウ船長が通信して来てるのよ」

「何て言ってきてるの」

「Aちゃんが言うには協力しませんかって申し出てるらしいのよ、怪しいわ」

「反乱軍の陰謀かも知れないね」

「そう思いたくはないのだけどエム78は冥王星からやって来てるのよ、辺境惑星の人達は基地との仲があまり良くないって言ってたの、だから……そうなのよ」

「えっ? 辺境惑星ってなに」

「基地で天王星、海王星、冥王星をそう呼んでいたのを聞いたことがあるのよねー」

「そんな差別用語みたいに言ってるからだと思うよ」

「皆じゃないんだけどね、でも辺境惑星艦隊ってかっこ良くないかしら」

「それはそうだけどさあ」

 昴くんがアイリーンをじっと見てる。

「あの時はうちのことを逃がしてくれたんだって今でも思ってるわ、だからタロウ船長を信じてみようと思うの」

「僕も賛成だよ最初から疑っていたらいけないと思うよ」

 アイリーンと昴くんが目を合わせたまま微笑む。

「そんなことがあったとは初耳だな」

 後ろから九論に突然話し掛けられて2人共ビクッとした。

〈そうなんだよアイン星のエム型移民船とアシュラは繋がってないし、聞いてもあまり教えてくれないのでそこのところの情報が空白で困ってたんだよねー〉

「あら九論さん、いつの間においでになられてましたの、Aちゃんまで監視の目を輝かせて…」

〈僕は24時間、年中無休で働かされていますって〉

「Aちゃん、うちのことをブラック企業の悪役上司にしたいわけ? お願いだから言葉は選んでね」

〈ブ……ラジャー!〉

「何がブラジャーなのよ」

〈飛び込みましょう!〉

「どこに飛び込むつもりなのかしら?このスケベ!」

〈エム78の懐の中にに決まってるでしょう〉

(誰もアイリーンの無い胸の中にとか思いませんよ)

「Aちゃんはいつから行動派に趣旨変更したのかしら」

〈たまにはキャプテンの行動指針に従わないと僕まで反逆者にされそうですからね〉

「そうね考えないで行動した方が解決が早いかもね」

〈そうですね、そろそろタロウ船長がしびれを切らしている頃でしょうから通信回線を開きますよ〉

(そうよ、最初からAちゃんに任せとけば良かったのよ。幾つもの事を同時に考えられるようにならないとダメね)

「アリオン艦長とオビスさんに言っておいた方がいいと思う?」

 アイリーンは自分がやっている事に自信がなくなってきた。

「今は真夜中だからな、どちらにも事後報告でいいと思うぞ」

 九論が何気に支えてくる。

「愛鈴は何か最近気弱になってない、体調でも悪いの?」

 昴くんも何か励ましの言葉を掛けようと焦って余計なことを言ってしまう。

「昴くん噛みつかれたくなかったら女の子に『体の調子が悪いの』なんて聞くもんじゃないわよ」

「悪かったよ、ごめんなさい」

 昴くんは直ちに謝った。

(はあ~、宇宙服を着といてよかったわ)

 3人を黙らせてから通信を始める。

「・・・、では、善処を望む、以上通信終わり」

 タロウ船長から最後の言葉が入り通信が切断された。

「ねえ愛鈴、なんだかおおごとになってきたね」

「そうね、でも全ては朝からにしましょう3時間しか寝てないんじゃ頭も回らないわ、昴くん07時に起床よ……起こしてね」

〈ああ~、僕の朝イチの楽しみが無くなるよー〉

 スターキッドAIがぼやく。

「私は3時間も休めば十分なのでな、さてと妖精達の様子でも見てくるとするか」

(九論ったら本当に自由気ままで羨ましいわ、でもちゃんと報告はするのね)

 船内時間07時30分になってアイリーンと昴くん、九論の3人がスターキッドの休憩室で朝食を取りながら今日の予定を話してる。

「ホーク艦長とアリオン艦長に何て切り出したら良いのかしら……」

 アイリーンは朝から調子がでない。

「ねえ、エム78って全長78キロメートルって言ってたよねもうマリンとかキャメロットの索敵でバレてるんじゃないかなあ」

〈エム78には最新鋭のステルス機能が装備されてまして羨ましいです……まだ感知されてないですよ〉

「Aちゃんよだれ落とさないでよ」

 いつぞやの仕返し とばかりにアイリーンが言う。

「まあ当たって砕けろだよね艦橋に行ってくるわホーク艦長とオビスさんが揃っているといいなあ」

「心細いなら皆で行こうよ」

 昴くんが提案してきた。

「私は留守番で残らないとな、あいつらを放っては行けないだろう」

「そうよね50人もの妖精さん達を残して行けないわよね、九論お願いねAちゃんも宜しくね、ロボちゃん連れて行くから何かあったら連絡してね」

(今度はロボちゃんか、でもまあカメちゃんよりはましかな~)

〈行ってらっしゃい気を付けて……って僕も一緒だったね、じゃあね九論、行ってくるからお留守番宜しくね〉

(出掛ける時のこのセリフ、一度は言ってみたかったんだよな)

「お前が行くわけではなかろう、まあいいそっちに付いて行くのならここで私のする事に口出しするなよ」

 九論はニヤリとした。

「あまり無茶な事はしないでよね、特に妖精さんの機嫌を損ねることは絶対にしてはダメよ」

 九論は何も言わずに早く行けとばかりに手を振っている。

「おい!」

 九論に声を掛けられて振り返る。

 フレア族の妖精ロースさんが後ろに居た。

「えっ、ロースさんも行くの?」

「私はこれから先、常にホースと共にある」

 ロースさんの言葉と態度から絶対に譲らないと思う。

(え~っ、これはこれでとんでもなく頭が痛くなりそうだわ)

「ついてくるの、どうしても」

 ロースさんは黙って肯定する。

「仕方ないわね、それじゃあ何か服よね九論あんたの上下1着よこしなさいよ」

「今着ている服以外には新品しかないのだが」

「誰も今着てる服を脱げなんて言ってないでしょ、追い剥ぎと一緒にしないでよね」

「新品を取るのは追い剥ぎ以上の仕打ちとは思わないのかね」

 九論はニヤニヤと笑う。

「思わないわよ、ほらさっさと持ってくる! 今度もっといいやつ買ってやるから」

(全く子供かっての)

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