106.キャメロット跳ぶ 1
輸送艦キャメロットは艦内で何が起きていようとも鈍足をフル稼働させ一生懸命進んでいた。
ロースさんと仲間の妖精さん達がスターキッドの倉庫から人々の心を和ませる妖精の力を発揮してアイリーンの争い事をしない宣言を補助した結果、武器を持ってスターキッドを取り巻いていた保安員達は手にした武器を下して出てきた4人を丁重に艦橋へと案内している。
「基地がまだ肉眼でも見えるわ、あまり目立つことをしてはいけないのだけど背に腹はかえられないし、お腹は空きっぱなしだし」
キャメロットへ乗船して3時間が経過しようとしてた。
昴くんはアイリーンの喋り方と足音から危機感を募らす。
(ダメだ愛鈴のお腹が空き過ぎておかしくなってる)
「愛鈴もう少しの辛抱だからねロースさん達が頑張ってるんだからもっと頑張ろうよ」
「昴くん頑張ってる人に『頑張ってね』って言うのは禁句なんだからね」
(愛鈴、僕にはとても君が頑張ってる様には見えないんだけど)
「わかったよ、ごめんね」
素直に謝る。
「そうね妖精さんのためね、わかったわそれで妖精さん達はもう十分エネルギー充填終わってるのよね」
(もうこれ以上お祈りも抱擁もキスもしないんだからね)
「ロースさんは大丈夫みたいだよ、でもキャメロットに乗船している750人の中で妖精さん達に生気を分け与えられる人が48人しかいなかったのには驚いたよ」
(うちはお腹がすいて限界なんだからロースって単語は出さないで欲しいわ)
「そうよね地球出身者で条件を満たした人しか祈れないってのは厄介だったわね、もっと多ければうちがこんな目に合わなくて済んだんでしょうけど」
(そうだよアイリーンが一番純粋な心の持ち主で生気の量も多かったから誰よりも一番長い時間妖精さん達にエネルギーを与え続けていたものね、今でも僕はとても信じられない思いだよ)
「そういう昴くんが2番手だったじゃないか」
九論が口を挟む。
「えっ、僕は口に出してましたか、危ないなあ疲れているのかなあ?」
「いいや、顔にそう書いてあったさ」
「えっ?」
そう言って昴くんは猫が顔を洗う手つきで顔を撫でる。
九論はテレパシーで盗み聞きしてたなんて絶対に言わない。
今キャメロットの艦橋ではスーちゃんを肩に乗せた昴くんを中心に置いて、その回りを比較的に元気になった5人の妖精さんたちが手を取り合い円陣を組んでいる。
妖精さん達による超能力航法シューウォッシュ・ナビを今から開始しようとしているところだ。
「準備はいいですか」
昴くんが号令を掛ける。
「戦艦マリンへ向けてーっ、シュー・ウォッシュ!」
昴くんの肩に乗ったままのスーちゃんが淡い炎に包まれ一瞬で拡大していき、次の瞬間にはキャメロット全体を覆い尽くす。
輸送艦キャメロットは暗い宇宙空間で炎に焼き尽くされたかのように掻き消えていった。
マリンの艦橋ではニハルがいつもの一人言を速効で歌っている。
「スターキッドのアイちゃんは、今日も元気に我が儘だ、自由奔放な生活で、勝手にどこかへ行っちゃって戻ってくるのか分からない、・・・何だかんだと聞かれたらあれは誰だと言ってやろ、闇夜のカラスじゃあるまいに、いきなり現れるなんてひどい、ずるい、私は悪くない。か……艦長~」
その後ろの艦長席のシートに沈み込んでアリオンは浅い微睡みの中でニハルの独唱を聞いていた。
決して子守唄に向いているとは思わないのだけど見たもの聞こえたものを全て口に出してくれるので安心感がある。
だからうっすらとした夢の中で言い返す。
(アイリーンはキャメロットまで往復してくると言ってたじゃないですか、それがガルメニ人の指示によるものかどうかは分かりませんけど、まあ何らかの考えがあるのでしょうからスターキッドで直ぐに戻ってくる事でしょう)
「艦長~、アリオン艦長! 起きて下さい」
ニハルの声が聞こえてるがまだ大丈夫、もうすぐ何が起きてるかを具体的に言う筈たからそれを聞いてからでも間に合う。
「あと3分……」
ボソリと言う。
「艦長~、起きなくてもいいからモニター見て下さいよー、キャメロットが直ぐそこに居るんですよ」
アリオンは跳ね起きた。
「いま気付いたのか? どうやって来たんだ」
「いきなりパッて感じで、本当にそうなんですよ重力センサーが後方で異常をキャッチしたんで見たら居たんです。やって来たんじゃなくていきなり現れたんです」
アリオンはニハルを信用している。
ニハルに限らず戦艦マリンの中で働く全ての人を信用している。
お喋りだったりお調子者だったり皆十人十色だけど誰一人として嘘はつかない。
アリオン自慢の部下達であった。
「アルネブ通信士! 何か言ってないか」
「まだ何もないですね。こちらから呼び掛けてみましょうか」
「そうだなあ……スターキッドがどこにいるのか探してくれないか」
「スターキッドなら最初からキャメロットの中に居ますね呼び出してみたらどうですか」
「アルネブお願いする。あっ、わかってるとは思うけどスターキッドAIと話をしたい」
アルネブが機器を操作し初めると直ぐに通信回線が開く。
そしてあろうことか艦橋内のスピーカーから音声が聞こえてきた。
〈呼ばれて飛び出てラン、ラーララ、ランランラン、私はー元気ー〉
アリオンはあんぐりと開けた口が塞がらない。
(これは一体何だ……音楽? 歌なのか)
アリオンはスターキッドのクルー達に同情した。
「それは元気で何よりだった、君たちはガルメニ人に乗っ取られてるんじゃなかったのかい」
アリオンは自分の顔が青ざめてないか心配になる。
〈それはあれですよ、コクピットで大きな顔をしてるガルメニ人の姿を見たあなた方がどう判断されるのか僕たちには関係ないですからね、それにあのガルメニ人は驚いたことにガルメニ人じゃなかったのですよ〉
アリオンはニハルとアルネブを交互に見てしまう。
この2人をスターキッドAIと喋らせたら即席の漫才トリオが出来上がるんじゃないかと思った。
「そうかい実は僕もいま大変驚いている最中なんだ、AIの君とならもう少し建設的な話し合いが出来ると思ったのだけど間違っていたようだよ、他に誰か僕にも理解出来る話し方をしてくれる人が居たら嬉しいのだけどなあ」
〈最初の1行を読んで『こいつはつまらないや』みたいに思わないで欲しいものですよ。でもオビスさんとならどんなバカ話でも楽しくするんじゃないですか〉
「オビス司令官と話が出きるのかい、だったら直ぐにでも話しをしたいな代わってもらう事はできるかなあ」
アリオンは驚きそして希望の光が射し込むのを感じる。
〈今はキャメロットの艦橋に居ます。アイリーンが1人で戦艦マリンにテレポートするのを防ぐためにもスターキッドでの着艦許可が出たと伝えたいのですが了承してもらえますか〉
(なんだ、まともな会話も出来るじゃないか)
「もちろんだとも、ただ申し訳ないのだが外来者用のハンガースペースが無いので、外部ハッチにドッキングをお願いすることになるのだけど大丈夫だろうか」
〈スペースオペラのドンキホーテとは僕のことですよ、そんなの目を瞑ってでも出来ますって〉
アリオンは目頭を押さえた。
(スターキッドAIは他人の期待をことごとく裏切るのに生き甲斐? を感じているのに違いない)
「いや、絶対ドッキングと言いながらぶつかって止まるでしょうからやめてね」
〈イヤだなあ~ちょっと場を和ませようとしただけですよ、それでどこにドッキングすればいいのですかあ〉
「うん、艦橋に一番近いハッチにお願いするよビーコンを出しますからお手柔らかに頼みますね」
〈僕を誰だと思ってるのですか……〉
「十分偉大なスターキッドAI様だと理解してます、それで到着はいつ頃になりそうですか」
〈キャプテンアイリーンに『アリオン艦長がご馳走を用意して待っている』と言えば直ぐにでも飛んで行くでしょうから30分以内には御膳に居るでしょうね、ご馳走は用意して頂けますよね〉
(よし、これで物資が少し浮くな)
スターキッドAIは素早くそろばんを弾いた。
「それでは軽食を用意しておきます。ガルメニ人……でない方の分も含めて私たちと同じものを用意すれば良いですね」
〈ロースさんの分はいいですよ、何せカツ丼を食べなかった妖精さんですから詳しくはお会いした時に直接お確かめ下さい〉
(妖精さんって……何だ? まあ会えば分かるかな)
「よくわからないけどまあいいでしょう、お待ちしてます」
アステロイドにある地球防衛基地から200万Km、木星まで4億3百万Kmの宇宙の真っ只中を戦艦マリンと輸送艦キャメロットは足並みを揃えて進んでいる。
アリオンは自分の個室でオビス司令官と話をしていた。
「この前、君と会ってからもう3年も経つのだねお酒を飲みながら基地から出たいとか言ってたけどこんな形で反旗を翻すなんて想像もしなかったよ」
「あれから地球人排斥派が勢力を拡大させてね、僕はあの部屋に軟禁状態だったのさ、声を大きくして改善を試みたけど部屋の中で反響するだけで効果が上がらない、外の人達に届かないし本当の声が聞こえてこない、聞こえるのは排斥派の言葉だけになってると感じたんだ。そこへやって来たアイリーンが救いの女神に見えたんだ」
オビス司令官は両手を前に差し出し大仰なジェスチャーをする。
「アイリーンを女神と見間違える様になってたのなら末期症状だったんだね、そうなる前にお忍び行脚でもすれば良かったんだよ」
アリオンが半分冗談みたいに言う。
「君は外へ出られる隠し通路がどこにあるか知ってるのかい」
オビス司令官が意地悪そうに聞く。
「僕が知るわけないでしょう」
アリオンは負けた気分になる。
「誰も教えてはくれなかった、だから私1人で出て行くのが夢…憧れだったんだ」
「しかしなあ、このタイミングでこの状況ってのは最悪なんじゃないかなあ」
アリオンは言った後で思う。
(しかし外に出るのならこのタイミングしかなかったのかも知れないな)




