105. 妖精さんたち 2
「悪かったわ、もう少しうちにも分かるように説明してもらえるかしら」
アイリーンが珍しくお願い口調になって昴くんに言う。
「意地悪なことを言ってごめんなさい、さっきも言ったようにこっちの言葉に言い表せないのが多いんだけどさ僕が感じたことをそのまま言うとね、ロースさんが僕にキスをしたのは僕の中に居るスーちゃん、フレアホースさんとコンタクトを取るためだったんだって、アイリーンとしたのは騒ぎ出しそうになったから口封じだって、スーちゃんから情報を得たロースさんは仲間を呼び寄せられる場所を探してカプセルベッドを見つけてテレパシーみたいなのを外で待っている仲間に送ってシューウォッシュ・ナビで呼び寄せたそうなんだ、だからしばらくはカプセルベッドが使えなくなったね、それとまだまだ疑問点が多いと思うけど話すのは後からでいいかなあ、先にアリオン艦長の事を済ませようよ」
「そうねアリオン艦長が先ね、でもムズムズするのよ、それでねえロースさんは増えたんじゃなくて仲間が他所からやって来たのよね、どこからかしらガルメニ艦って言ったけど破壊されちゃってるでしょう、生き残った艦がそんなにあったとは思えないのだけど」
アイリーンが昴くんの脇腹を肘で小突く、その目が知ってるんでしょうと言っている。
昴くんは脇腹を気にしながら答えた。
「イメージとして伝わって来てるのだけど少し過去からだよ、光の奔流とか戦艦が爆発する様な膨大なエネルギーが発生する場所は時空間の歪みが発生しやすいのでそれを利用して呼び寄せたんだって、凄く生気を消費するので僕たちにキスをした時に少しづつ分けてもらったんだって、だから必ず恩返しするって言ってたよ」
「生命力を吸い取られたんなら年を取るはずなんだけど若返っちゃったね」
アイリーンは首をかしげる。
「ヒールって魔法があるでしょう……」
昴くんが説明を始めようとした。
「うちはオタクじゃないから知らないわ」
アイリーンにより中断される。
「愛鈴の目がかまぼこ型になって笑ってるよ、ヒールはね傷口とか修復したい所だけを時間遡行させてるんだよ傷が出来る前の状態にね、それの応用みたいなものだって」
「ふーん、そうなんだ」
(理屈はどうあれ若返りの魔法よね、やり方を覚えれば商売できるかしらね)
「アイリーン、先が尖った尻尾が生えてるぞ良からぬ事を考えてるだろう」
九論が『お前はまたか』とか言いたげに見つめてきた。
アイリーンはそんなことあるはずないでしょうと思いながらおしりを触る。
〈ねえ、そろそろアリオン艦長に連絡してもらえますかスターキッドAIは仕事が遅いと思われたくないですよー〉
アイリーンが居る所の一番近いスピーカーから声が聞こえた。
「わかったわ、うんそうねドロンパ号がどうとかって言ってたわよね」
九論にどうやって仕返ししてやろうかと考えながら言ってしまったものだから言い間違いをしてしまう。
「だいぶん前から正式名称がキャメロットに戻っているのですけどね、ドロンパ号って言うのは特定の人が付けた……あだ名みたいなものです」
オビスさんが呆れ笑顔で正しい名前に訂正してきた。
「そうなのね……もうだいぶん前になるんだ」
アイリーンは少しだけ感傷に耽ったけど直ぐに立ち直る。
「Aちゃんアリオン艦長に通信と伝言『そっちの高速艇で行くよりこっちのスターキッドで行った方が手間が省けるしとても早いわ』って、それと『距離を少しでも稼ぎたいから先に進んでいて』を追加しといてね」
〈アイリーンが直接すればいいじゃないですか〉
「こことコクピットを往復したくないのよ、分かるでしょ」
〈ダイエットになっていいと思うのだけど〉
「うだうだ言ってる暇があったら通信してよ、Aちゃんは仕事が早いんでしょう」
〈了解……〉
「さてと昴くん、この妖精さん達にキャメロットへ引っ越してもらいたいのだけど、どんな間取りだったらオッケーしてもらえるのか聞いてくれないかなあ」
「このままカプセルベッドと一緒に引っ越してもらったら良いと思うよ」
「妖精さんの希望がそれならかまわないけど、ちゃんと聞いてからにしてよね後で悪い評判が立つのは嫌よ」
「わかったよ」
「Aちゃんアリオン艦長には言ってくれたかなあ、直ぐにキャメロットへ向けて出発よ全速力でよ」
〈了解、キャメロットに向けて出発しますけど全速力に移行するのは皆さんがコクピットに座ってからにしますね、通路を歩いている時に加速したら昴くんが最後尾まで飛んで行っちゃいそうですからね〉
「そうねありがとう、うち達も全速力でコクピットに戻るわ」
「愛鈴、僕はここに残るよ」
「加速するのはコクピットに戻ってからになったから大丈夫よ」
アイリーンは昴くんがひねくれてしまったのではないだろうかと少し不安になった。
「そうじゃなくてさ、スーちゃんがロースさん達と一緒に居たいって言ってるんだよ、その方が体力の回復も早いからだって」
昴くんは心細そうな表情をしてる。
「じゃあ、うちも残るよ」
アイリーンが躊躇なく言う。
「アイリーン!」
「キャプテン・アイリーン!」
隣に立つ九論とオビスさんの言う口調がきつい。
「もう一度言おうか」
九論がわかっているんだろなって顔をしている。
「わ、わかったわよ……」
アイリーンに反撃のチャンスはない。
「さあ走りましょうか」
オビスさんが当然のように言う。
「廊下は走ってはいけないんでしょう」
アイリーンは反撃を試みる。
「アイリーン!」
九論に撃砕された。
「わかったわよ、せめてアンチボードを取り付けておけば良かったわ」
愚痴ってから走り始める。
「まあ得てして必要でない時には思いつかないものだがな、この次になって取り付けようと言ってもアイリーンは『いらない』と返事するだろうな」
九論が意に反して返事をしてくれた。
「は、走りながら話すのはムリ、だから」
(軍人だったオビスさんはともかく何で九論が平気なのよ、ふ、不公平じゃない……ハア、ハア)
アイリーンは走り出すと同時にへたり始める。
輸送艦キャメロットの艦橋でホーク艦長は自分の考え事がどんどん悪い方向に向かっている自覚があった。
通信士のサスケに声を掛けられて少しだけ泥沼から抜け出す。
「ホーク艦長、スターキッドから入電『10分後に着艦予定、格納スぺース用意されたし』更に要求で床面積100㎡の居住用密閉型コンテナハウス1基と4人分のご馳走をお願いしますと言ってます、どうしますか」
「スターキッドからだと? 一体どうなってるんだガルメニ人に奪取されてたんじゃないのか、アイリーン達が奪還したのか? それにしても突然だな、どうやったら追い付けるのか出ない答を引き出すのに散々苦労してたのにあちらから来てくれるのは願ったり叶ったりだ……だけど急に来られても今度はこっちの用意が追い付かないなあ、コンテナハウス以外は直ぐに手配出来ると返事してくれ……ああ最後に『くれぐれもご安全に!』を忘れずに伝えてくれたまえ」
「了解」
(出ない答えが1つだけ片付いた。うんこのままドミノ倒しみたいになってくれたら嬉しいのだけどな、次はスターキッドの中のガルメニ人か『考えないで働け』とはアイリーンがよく一人言のように歌っていたな)
「うひゃー、前回と同じ場所だよホーク艦長も粋な計らいをするね」
〈キャメロットの宇宙艇格納スペースはここしかないですからね〉
スターキッドAIの冷ややかな言葉で浮かれた気持ちが沈んでいく。
「Aちゃん水を掛けるようなことは言わないものよ」
「愛鈴『水を差す』だからね」
「それにしても前回は誰も出迎えてくれませんでしたけど、今回は大勢の人が出迎えてくれてますよ……全員武器を持ってこちらに照準を合わせてますけどね」
「当たり前だかしらね、スターキッドはガルメニ人にオビス司令官を人質に取られて基地から逃走した悪者の乗り物になっているものね。何を言っても信じてもらえそうにないからまだ訂正入れてないものねぇ~、何時何処で何を言えば効果が抜群かなあ」
アイリーンはじっと九論を見つめる。
「そんなに見詰められても何もないぞ」
九論は素っ気ない。
「そんなー、じゃあうちが一人で下に降りるよ宇宙服に着替えてから行くね」
アイリーンがハッチの方へ行こうとする。
「ちょっと待て」
九論が制止してきた。
「良い考えが出たの?」
「光学擬態の練習はしてたな」
「そうね、だいたい上手く出来るようになったと思うわ」
「応用をしてみよう、仮に失敗してもアイリーンならおおごとにはならないだろう」
「何かイラっとする言われようね、それで光学擬態の応用って何をどうするのよ」
「スターキッドの下、この真下くらいに意識を集中して自分の姿を描き出すんだ」
アイリーンは九論が喋り出した時には言葉通りに意識を集中させていた。
だから、九論が話し終わった時にはスターキッドの昇降リフトガイドレールに寄り添う様なアイリーンの姿がある。
その姿は鮮明で武器を持って取り囲んでいた人たちにはアイリーンがテレポートして来た様に見えた。
「私たちは争いをしないわ、だからあなたたちも武器をしまいなさい」
アイリーンの言葉には説得力も何もない。
しかしその言葉は直接頭の中に響き木霊して精神を支配する。
そして今、武器を構えている人は誰一人としていない。
言葉を言い終わったアイリーンの姿が掻き消えていく。
昇降リフトがスーッと降りてきてアイリーンを含めた4人の姿が現れた。
その中にガルメニ人の姿がないことを疑問視する人は1人もいない。
回りを取り囲む全員がなんだか幸せそうな表情を浮かべている。




