104. 妖精さんたち 1
スターキッドの後方を映し出しているコクピット正面の大型モニターの真ん中がコンパスで丸く切り取られた様な状態になっていてそこだけ明るくなって拡大されていた。
その中にあって更に輝く2つの光はアイリーンの期待の的になっている。
「あの2つの点がアリオン艦長のマリンとドロンパ号でいいのよね、後どのくらいで追い付いてくるのかしら」
アイリーンがさりげなく聞いてきた。
〈マリンは30分後、ドロンパ号ではなくてキャメロットは7時間後ですね〉
スターキッドAIが恐る恐る返事をしてる。
アイリーンは停止していることについてはあえて追求していない。
それより今は更に気になることがあるのだから。
(さっき見た倉庫にあるカプセルベッドの光景は一体何なのかしら、裸のロースさんがいきなり増殖したとは思いたくないのだけど……キスの影響じゃないよね……絶対に)
〈それより倉庫のあれはどうします〉
スターキッドAIが恐る恐る聞いてくる。
「どうしますったって、どうしようもないでしょう『1匹見たら30匹いると思え』のあれとは違ってどうにかしないといけないものでもないでしょう。そもそもロースさん妖精さんなんだし」
アイリーンは見なかったことにすればいなくならないかなと思う。
「見に行こうよ何かさスーちゃんが行きたがってるみたいなんだよ、何も言わないけどね」
昴くんが精霊獣フレアホースの気持ちを代弁してるようだ。
(九論かオビスさんが助けてくれないかしら)
怯える子猫のようなアイリーンの眼差しにオビスさんが答える。
「コクピットのことはスターキッドAIに任せて皆で一緒に倉庫へ見に行こうか」
「た、助かったわ、うちは……多分昴くんもさっきの『あれ』から十分には立ち直ってないのよね、今から直ぐに裸……何も身に着けていないロースさんの群れの中へ行くのはちょっと精神衛生上良くないと思うのよオビスさんと九論が一緒に来てくれるなら大丈夫ね、それじゃあ行ってくるからAちゃん後は任せたわ出来ないとは言わせないわよ今まで自分勝手に好き放題やってきたでしょう。たまにはうちの役に立ってもらうわよ」
〈嫌だなあ、今までアイリーンの役に立てなかった事ってなかったでしょう〉
「いつもAちゃんの誤魔化し方が一枚上手なだけよオセロゲームの時なんかは、最後の一枚で逆転するのはさぞ気持ち良かったでしょうね」
「愛鈴言い過ぎだよ、今まで負け知らずのゲームだったとしても相手がAIでは絶対に勝てないと思うよ」
昴くんがなだめに入る。
「勝つ人は勝ってるじゃない、九論もそうよ」
「まあ、私はAIが何を考えてるのか少しは分かるからな」
九論がニヒルに笑う。
(テレパシーってAIの頭の中? も覗けるのかしら)
アイリーンは興味深い眼差しを九論に向けた。
〈あっひどーい、九論はズルしてたんだあ〉
スターキッドAIが抗議してきた。
4人はスターキッドの中をコクピットから倉庫へ向けて少しの距離を移動しているのだけどAIは1番近いスピーカーへその都度切り替えて話し掛けてくる。
「この扉の向こう側が倉庫なのだろう」
オビスさんが『もうお喋りは終りにしませんか』
そんな風に言いたげな表情をしながら言う。
「開けるぞ」
九論がそう言いい扉を開ける。
スターキッドの外、暗い宇宙空間では戦艦マリンが20分後に接触する距離にまで迫っていた。
この時の20分後接触距離はスターキッドが停止していたらの場合である。
確かにスターキッドはさっきまで停止して到着を待っていた。
でも戦艦マリンが近付いて来ると、その有効射程距離に安全率を乗じた距離を取って前進している。
「こちらは地球防衛艦隊所属戦艦マリン、スターキッドキャプテンアイリーン応答願います。どうぞ!」
通信士のアルネブが少し苛立ちながらマイクに向かって言う。
スターキッドにもう少しの所まで迫って来た戦艦マリンが公用無線で問い掛けているけど一定の距離を置いて遠ざかって行くので一向に捕まらない。
「相変わらず1回や2回の問いかけには返事しないですね、威嚇射撃でもすれば慌てて返事すると思いますが……やりますか?」
戦艦マリンの艦橋で指揮卓に立ったまま副艦長のブランガスが物騒な事を言う。
「いつもの事じゃないかもう少し粘ってみよう。うんそうだちょっと待って、いい考えが浮かんだぞ」
アリオン艦長はそう言うとシートから立ち上り通信補助席へ座りインカムをセットした。
「ちょっと喋ってもいいかな」
「どうぞ」
艦長には逆らえないアルネブはマイク回線を切り換える。
「こちらは戦艦マリンの艦長アリオンです、親愛なるスターキッドAI様どうか私にその英知溢れるお言葉をお聞かせ下さいませ」
アリオンは自尊心の許せる範囲ギリギリまでへりくだってスターキッドAIに呼び掛けた。
すると返事が直ぐに返ってくる。
〈さすが戦艦マリンの艦長ともなれば礼節をもって接してこられますね感心しました。私が宇宙最速を誇るスターキッドの中枢を司るAIです。ご用件を伺いましょう〉
「それではお尋ねします。あなたの権限で機関停止することはできますか」
〈残念ながらAIには何の権限もありません。キャプテンの命令に従いそして助言を与えるだけなのです。ですが……もしこの僕が機関を停止したらあなた方はスターキッドをどうするおつもりなのですか〉
嘘はついていない本来あるべき姿は言葉通り、ただいつもはスターキッドAIが自由気ままに基本を無視してやっているだけ。
アリオンは少しも考えずにありのままを言う。
「アイリーンにお茶会の案内を出して返事をもらったんだ。その中に輸送艦キャメロットと一緒ならOKとあったのだけどおそらくはキャメロットのクルー達と一緒ならOKということだと思うんだよ、でも私たちがここら辺で立ち止まってバカンスでも始めない限りキャメロットが追い付く事はあり得ない。だから誰をお茶会に誘いたいのかを教えてもらえばこちらが搭載している高速艇で迎えに行こうと思ってるのだけど良い考えだとは思わないかい」
〈そういうことなら別に機関を停止しなくても問題は解決されるんじゃないかなあ、だから今しばらくはこのまま付いて来たらいいよ、その話はそのままキャプテンアイリーンに伝えるね彼女は今忙しいから少しまっててね、じゃあ返事はこちらからするからね通信終り、バイバイ〉
スターキッドAIが一方的に喋って一方的に通信を切った。
「噂以上のAIでしたね。あれ殆んど野良猫?いや 犬? じゃないですか、いいんですかねあんなのを野放しにしておいて」
(何か喋り方がキャプテンアイリーンに似てなかったか?)
アルネブはアイリーンがAIのふりをして喋っていたのではないかと疑っている。
スターキッドAIはふとアイリーンの口真似で会話をしたら面白いかも知れないとの衝動に駆られ実行してたのだった。
(1度やってみたかったんだ丁度いい機会だったよ)
後から『また、自分勝手な事を相談も無しにしたわね』と怒られないように今回はスピーカーでリアル配信をしてる。
「まあ仕方ないわね、Aちゃんがうちの口真似を始めちゃったから話してる途中でうちに相談しにくくなったんでしょう。おバカさんなんだからでもまあいいんじゃないかしら時間稼ぎにはなったしAちゃんにしては上出来よ」
〈お褒めの言葉として受け止めておきます、それよりロースさんが増殖してたのですかロースさんが倉庫に入った途端いきなり現れたみたいなんですけど〉
「いまはスーちゃんに協力してもらって昴くんが聞いてるところよ」
(カプセルベッドの中までは認知できないのでかなり以前から居たのかもしれないけど、今となっては……まあいいか知らないっと)
「おとなしいわねAちゃん何か隠しごとしてない?」
アイリーンの目付きが鋭い。
「愛鈴、説明できるみたいだから言うよ」
昴くんがアイリーンとスターキッドAIのお喋りがエスカレートする前に割り込む。
「そうね、そっちが先よねそれで何体……何人に増えてるのかしら」
(もう人間扱いしてもいいわよね)
「それが増えたんじゃなくて、やって来たんだって」
昴くんが訂正を試みる。
(えっ、なんてことなのかしらでもスーちゃんは外から入って来てる訳だし、この妖精さん達が別の所からやって来たとしてもおかしくないわよね)
「どちらにしても人数が増えてるのよね、それにしてもこんな大人数一体どうやって来たっていうのよ」
「それがね瞬間移動かなあテレポートって言っていいのか、僕たちがまだ知らない方法で来たらしいんだよ」
昴くんが首を傾げながら言う。
「昴くん瞬間移動でいいと思うぞ、なんにせよここで増えたのでない限り他所からAIにさえ気付かれないように入って来たのだからな」
九論は楽しみが増えたなって表情を浮かべた。
「それはいつの事よ、そしてどこから来たの、瞬間移動ってテレポートの事でしょうどうして区別するのよ中途半端のままだとムズムズするのよねー」
アイリーンが話をかき回す。
「わかったよ説明するからね、僕がロースさんにキスされた時に基地からかなり離れた所で待機していたガルメニ艦の中から瞬間移動『シューウォッシュ・ナビ』って方法でカプセルベッドの中へやって来たんだって言ってる」
昴くんが少しだけ意地悪く聞かれたことだけを簡潔に言う。




