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宇宙の新星人たち【本編(3)】  作者: イプシロン
第4章 最後の戦い――女神の復讐
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第72話 禍々しき光――たぐい稀れなる救援者

 無窮の暗闇に浮かんだ軍事ステーション<アフリカ>へと、ばらばらに逃げ帰ってきた第八ニ四潜宙戦隊は一隻の損失もなく全艦収容されていた。

 軍法に従えば第八ニ四潜宙戦隊のとった行動には抗命罪が適用され、司令官のマックールが極刑になることもありえた。しかし、ムーシコフの意向はそうではなかった。貴重な戦力――といまは言えなくなっていた潜宙艦ではあったが――そこに搭乗していた者たちの価値をムーシコフは知っていたからだ。

 船は壊れればまた作ればよい。だが人間はそうはいかない。ましてやそれが何年もの歳月と予算を注ぎこんで育てられた人員であればなおさらのことだったのだ。しかし、全軍への手前を鑑みたムーシコフは、第八ニ四潜宙戦隊司令のマックールに一週間の謹慎を命じたのだった。

 おかしな謹慎であった。共に戦場離脱をはたした隊員たちが官舎の個室をつぎつぎに訪れては差し入れをしたり、土産話を持ちこんでは活況をていしていたのだから。

 一週間後、第八ニ四潜宙戦隊は<アフリカ>の防衛艦隊である第七艦隊に編入をゆるされ、マックールは第七艦隊の司令となった。再戦の準備なった地球軍は星々の海を前進しはじめた。往くてには、こちらも準備万端で各団の戦闘艦が艦首を並べたてていた聖戦団が作りだした特殊鋼のきらめきがあった。

 両軍の激突はヒドラが旧来の戦術を捨てたことで、唐突におこった。聖戦団は防備かたしとして目をつけた、トレチャコフの第六艦隊を目標にして、オルキーの「ダルウィーシュ」団、ヒドラの「アズライール」団、ヘルメスの「タルムード」団が短距離超光速航行(SRMBTC)を使って急接近して三方向から包囲殲滅にかかったのだ。

「冗談ではない! こんな話はきいていない!」

 粘り強さには定評のあったトレチャコフも、さすがに悲鳴をあげた。

 地球軍は全戦力をもって第六艦隊への救援に急行した。ミマースの第二艦隊が、ウルカヌスの第三艦隊が、セキの第五艦隊が、モイラの第八艦隊が聖戦団を逆包囲するようにノズルから青白い炎をほとばしらせながら高速で突進していったのだ。

「やるな! これではいいカモだ。全軍退避! 新手に備えよ!」

 ヒドラの反応は早かった。各団の行動も早かった。聖戦団は即座に第六艦隊を包囲環から解放すると、迫りくる地球軍へと艦首を向けたのだった。

 このときヒドラは配下の「アズライール」団とヘルメスの「タルムード」団を二つに分けて、地球軍五個艦隊、聖戦団三個戦団という不均衡を釣りあわせてみせた。

「やるな、戦力の分散は命取りだが、この場合は有効であろうな……」

 将校用の帽子が落とした影にさえぎられてミマースの表情は見えづらかった。だが、近くにいた者は中将が歯噛みする音を聞いた気がしていた。

 両軍とも統制を失ってただ眼前にいる敵に照準をつけては、あらゆる銃砲を撃って撃って撃ちまくっていた。定期的に装填された魚雷が撃ちだされ、数千のミサイルが縦横無尽に漆黒の闇に光で軌跡を描いていた。無音の世界にはあらゆる色の火炎や光球や閃光があった。無線の回線はノイズと悲鳴の洪水に襲われて地球軍とツァオベラーの見境いなどなく乗員たちの鼓膜を破っていった。無限とも思える熱波とエネルギーが次々に業火を吹き上げては百千の死を生みだしていった。

「サウラー、脱出路を確保しろ! やることはわかっているな!」

 ヒドラの枯れてかすれた声をようやく聞き取った鋼の鎧をまとった男は、迷うことなく地球軍の一番分厚い箇所を目指して突き進みはじめた。戦団の最前衛を進む奇妙な艦首の戦闘艦が見えた。その艦首にあるふたつの落ちくぼんだ骸骨の眼窩のような穿孔せんこうから細長い弾体のミサイルが撃ちだされた。

 それを確認したヒドラは声を限りに叫んでいた。

「全軍撤退せよ! すみやかに戦場より離脱せよ!」――と。

 細長いミサイルは地球軍の艦艇が作りだしていた分厚い壁に突き当たると、信じがたい巨大な閃光をはなって大爆発をおこした。核の光球だった。

「やりやがったな! 奴らめ! とうとうやりやがった……」

 指揮卓に振り下ろされたミマースの固く握られた拳が怒りで小刻みに震えていた。

 凄まじいまでの光を浴びて一瞬にして視力を失った者、何も感じることもなく蒸発した者、猛烈な熱線を浴びて溶けて床や壁と同質化していった者、大量の放射線に全身を貫かれて吐き気に襲われた者、大量に吐血した者、酸鼻を極める光景に唖然としたまま僚艦に激突してゆく船。おぞましい禍々まがまがしさに覆いつくされ傷ついた艦船群と火炎と火球を見ていたミマースでさえ、いったいどれだけの戦力が失われて、いったいどれだけの戦力が今後失われるのか、推しはかることもできないでいた。ただできたことは喉の激痛に耐えて声を張り上げることだけだった。

「全軍撤退せよ! 即時戦闘を中止して撤退せよ! 撤退だ! 撤退するんだ!」と……。

 だがそのとき、聖戦団は大混乱に陥った地球軍に追い打ちをかけてきたのだ。

「ふははははは……足掻け、苦しめ、そして死んでゆけー!」

 ヒドラの虹彩異色症ヘテロクロミアの瞳には悪魔そのものの黒い極光があった。

「これで終わりなのか……これで終わってしまうのか……」

 指令や指示や命令といったものは意味を失っていた。地球軍は聖戦団がふたたび作りあげた包囲網に閉じこめられて恐怖と恐慌のダンスを踊ることしかできなかった。ステップは乱れ、味方同士で足を踏みあい、組んだ腕は捩じれてからまるばかりだった。一隻の駆逐艦が転ぶと、連鎖反応をおこして巡洋艦が倒れて近くにいた者たちをなぎ倒していった。

「やらせるものか! 急げ! 全速前進だ!」

 殺気だったムーシコフの怒号が<アフリカ>の艦橋に地鳴りをおこした。

「通常エンジン全力だ! 臨界まで出力をあげろ! 第七艦隊を救出にいかせろ! ハンニバル隊も出せ! とにかく使える戦力は出すんだ!」

「さあ行くよ、グリーク!」

「死ぬんじゃないよ、リアレス!」

 <アフリカ>は武器を搭載した機械という機械を全て吐き出しながら、最大速度で前進していった。

「超光速航行の座標の計算はまだか? まだ終わらんのか!?」

「宙域が混乱しすぎています。たとえ虚数空間に突入できても離脱時に味方を巻きこみかねません」

 予想どおり、テキストどおりの叫びを耳にしたムーシコフの顔は怒気に染まって、頭頂からは湯気すら上がっているように見えた。

「恐らくあたしたちが希望の星だよ、グリ」

「今日のための出力アップだったとでもいうの?」

 ヘルメットの中でリアレスの瞳が輝きをはなっていた。

「そうさ、それがなければ誰もこの状況を救えやしなかったんじゃないかい!?」

「わかったわ、ならニトロをかまして突進よ!」

 二人は狭いハンニバルのコクピットで身をよじって中隊の各機に視線を走らせた。

「中隊全機、聞こえたわね?」

「イエス・サー!」

 男たち女たちの声が多重奏になってグリークの耳に轟いた。

「全機ニトロを焚いて突撃よー!」

 グリークの声が終わる前にハンニバル隊、ジャンヌ中隊のパイロットたちは、人体が耐えうる限界の重力加速度に押しつぶされそうになりながら猛烈なスピードで戦場に到着した。

「一撃離脱でいくわよ! フォーメーションSであたしについてきて!」

 数秒で一本棒になったジャンヌ隊は、手近にいる戦闘艦目指して肉薄しては射撃を繰り返しはじめた。

「おのれ、こざかしい蝿どもめ……」

 ハンニバル隊の何重にもわたる肉薄で聖戦団にも混乱が波及していった。

 ――ゴルゴダ隊を出すべきか……。

 ヒドラが迷いの中にいたとき、艦橋の床が突き上げるような激しい振動を伝えてきた。

「なんだ!?」

「わかりません……」

 それは潜宙艦の長距離魚雷だった。大混戦の星雲の中に撃ち込まれた一二〇本あまりの流星が偶然に<ケイロン>号を捉えてみせたのだ。近くにいた戦闘艦が数本の魚雷を喰らって閃光と破片をばらまいていた。

「ヒドラ様、巨大な重力振をキャッチしました。何かが虚数空間から離脱してくる模様です」

 <ケイローン>号全体がどの方向に揺れているのかすらわからない振動に襲われていた。

「来ます! ワープアウトしてきます!」

「なんだと!! ……奴らあんな物を運んできていたのか……」

 星を散りばめた黒いカーテンをバックに、球形をした人工天体が浮かんでいた。軍事要塞<アフリカ>がヒドラの瞳に映りこんでいた。

「反重力フィールードを全開にして特攻をかけろ! セキのおかぶを奪うんだ!」

 地球軍参謀総長の殺気は本物だった。傍らにいたオペレーターの口が数秒間、ひらいたままになっていた。

「きいていたのか? 特攻だ!」

「は……はい、イエス・サー!」

 直径五〇キロを誇る<アフリカ>は全周からフィールド波を投げつけながら、聖戦団の鉄の壁に激突して戦闘艦を踏みつぶしていった。

「ミマース、艦隊を撤退させろ! あとは<アフリカ>に任せろ! 全艦隊撤退だ!」

「おのれー!! サウラー、二撃目をあの化け物にぶち込め! 全艦巻きぞえをくわないよう後退しろ! 後退だ! あとはサウラーに任せろ!」

 両軍の艦船が混乱を増長させながら急速に離脱してゆくなか、巨大な閃光が<アフリカ>を包み込んでゆくのが見えた。だが、<アフリカ>の反重力フィールドは核攻撃から十分にその身を守る防御力をもっていた。

 核の光のシャワーと熱線とエネルギーが消失したとき、無窮の空間には傷ひとつ受けずに佇んでいる<アフリカ>の姿があったのだった。

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