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カエル天気予報  作者: ミノ ヨウスケ
カエル天気予報 第一部 カエル天気予報編
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第2章「雨の世界の人々」 第8話 家族が集まる日

「来ないの?」


莉莉が訊いた。


「誰が?」


あやかが答えた。


「……別に」


「別に、で誰か分かるわけないでしょ」


車の窓を雨が流れている。

神楽坂を出て、横浜へ向かっていた。

今日の食事会は、みなとみらい。

横須賀から来る、かいとおじさんたちとの、だいたい中間。

店はじいじ――クーパーが予約したらしい。

もっとも、店を決めたのはクーパーでも、家族を集めたのは別の人だった。

りりかだ。

莉莉とあやかが一年半ぶりに東京へ帰ってくる。

だから集まる。

以上。

ほぼ命令だった。


昨日、莉莉たちより一日遅れて東京へ戻ってきたりりかは、


『せっかく二人が帰ってきてるんだから、みんな来なさい』


と弟たちに連絡したらしい。


こうたは、


『俺に予定がある可能性は?』


と返した。


りりかは、


『ないでしょ』


と返した。


実際、来るらしい。

かいとも来る。

奥さんも来る。

かえでも来る。


「全員来るの?」


莉莉が訊いた。


「うん?」


「かいとおじさんのところ」


「ああ」


あやかが莉莉を見る。


「かいとおじさんと、奥さんと、かえでちゃん」


「……それだけ?」


「それだけって?」


莉莉は窓を見る。

雨の向こうに横浜の街が流れていく。


「あやとくんは来ないよ」


あやかが言った。

莉莉は振り返った。


「何で?」


思ったより早く声が出た。

あやかの口元が少し動く。


「大学のゼミ。フィールドワークで今、関東にいないんだって」


「……そうなんだ」


「残念?」


「別に」


「そう?」


「聞いただけ」


「はいはい」


莉莉はスマートフォンを見る。

何かを見るわけでもなく、画面を上へ動かす。

下へ戻す。


あやとお兄ちゃんが来ない。

別に会いたかったわけではない。

ただ、来ると思っていた人が来ない。

それだけだ。


「りーりー」


「何」


「分かりやすいね」


「何が」


「何でもない」


「じゃあ言わないで」


あやかが笑った。

少し腹が立った。


~~~


みなとみらいに着く頃には、雨が少し強くなっていた。

海と街の境目は、昔よりずっと近い。

水位上昇に合わせて造り直された護岸と人工基盤。

雨の向こうに高層建築が並び、その間から海が見える。

遠くには、観覧車も見えた。

昔からあるものと、

新しく造られたもの。


莉莉には、どちらがどちらなのかよく分からない。

でも、横浜だった。

店は高層階にあった。

大きな窓から、雨に濡れたみなとみらいが見渡せる。

少し暗めの照明。

白いテーブルクロス。

料理の名前は、莉莉には半分くらい分からなかった。


「じいじ、ここ高い?」


莉莉が訊いた。


「最初にそれ聞く?」


クーパーが笑う。


「高い?」


「普通」


「じいじの普通、信用できない」


「失礼だな」


「パパの普通は信用しない方がいいよ」


あやかが言った。


「何であやかまで」


りりかは窓際の席を確認している。


「こうた、端でいいよね」


「何で端なの」


まだ来ていない本人の代わりに、あやかが訊いた。


「変なことするから」


「五十五だよ?」


「五十五歳でも変なものは変」


クーパーが笑った。


「りりか、こうた君に厳しくない?」


「甘いよ」


「どこが」


「来いって言ったら来るんだから」


莉莉は思った。

それは甘いとは言わない気がする。


~~~


最初に来たのは、こうただった。


「おー」


個室へ入ってくるなり、莉莉を見つけた。


「いた」


「いるよ」


「一年半ぶり?」


「こうたとは会ってる」


「そうだっけ」


「東京来たとき」


「ああ。下で飯食ったな」


あやかがすぐ反応した。


「こうちゃん、その話!」


「何?」


「莉莉連れて下の地区行ったでしょ」


「行ったよ」


「普通に言わないで」


「普通に飯食っただけだって」


「そういう問題じゃないの!」


こうたは莉莉を見る。


「まだ怒ってる?」


「昨日も怒ってた」


「長いな」


「あやかだから」


「昔からだよ」


「こうちゃん!」


こうたが笑う。


「元気そうだな、あやか」


「元気だよ」


「三十二歳の大学二年生」


「その言い方やめて」


「頑張ってるなあ」


「絶対馬鹿にしてるでしょ」


「可愛い姪を応援してるんだよ」


「嘘」


「半分本当」


「半分なんだ」


「もう半分は面白い」


あやかが睨む。

こうたは楽しそうだった。


「相変わらずだな」


りりかが言った。


「何が」


「馬鹿」


「久しぶりに会った弟に最初に言うことがそれ?」


「昨日連絡した」


「会ってないだろ」


「同じ」


「違う」


「同じ」


「相変わらず可愛くないな、りりか」


「死ね」


「はい、これも相変わらず」


こうたは笑いながら席に座った。


「クーパー、久しぶり」


「久しぶり」


「りりかの相手、疲れない?」


「こうた」


「何だよ」


クーパーは少し考えた。


「慣れた」


「パパ」


あやかが笑う。

りりかはクーパーを見る。


「何に?」


「何でもない」


「何に慣れたの?」


「こうた、余計なこと言わないで」


「俺?」


莉莉は笑った。

この二人は昔からこうだった。

りりかとこうた。

姉と弟なのに、

友達みたいに喧嘩する。


~~~


少し遅れて、かいとたちが来た。


「姉さん、お待たせ」


かいとが入ってくる。


「遅い」


りりかが言った。


「まだ時間前だよ」


「こうたより遅い」


「兄さんと競ってないから」


「俺を基準にするなよ」


その後ろから、カイトの奥さんが入ってきた。

派手な人ではない。

淡い色の服がよく似合う、静かな人だった。


「お兄さん、お姉さん、お久しぶりです」


クーパーとりりかに笑いかける。


「久しぶり」


「元気だった?」


「はい。お姉さんもお元気そうで」


「あやかちゃんも久しぶり」


「お久しぶりです」


「莉莉ちゃん、大きくなったね」


「うん」


そして

その後ろから顔を出した人を見て、莉莉の声が少しだけ変わった。


「かえでお姉ちゃん」


「莉莉」


かえでが笑った。


「久しぶり」


「……久しぶり」


大学で看護を学んでいる。

前に会ったときより髪が少し長くなっていた。

服もきれいだった。

耳元に小さな飾りが揺れている。

爪も薄い色で整えられている。

なんとなく、全部きれいだった。


「莉莉、中学生になったんだよね」


「うん」


「大人っぽくなった」


「そう?」


「うん。その髪型もかわいい」


莉莉は少し黙った。


「……ありがと」


少し離れたところで、あやかが振り返った。

莉莉は気づかないふりをする。


「かえでお姉ちゃんも」


「ん?」


「その服、かわいい」


「ほんと?」


「うん。似合ってる」


「ありがとう」


かえでが嬉しそうに笑う。


「莉莉に褒められた」


「嬉しい」


そこへあやかが入ってきた。


「りーりー」


「何」


「私がその髪型かわいいって言ったとき、そんな素直にありがとうって言わなかったよね」


「言った」


「言ってない」


「言った」


「『分かってる』って言った」


「同じ」


「全然違うよ」


かえでが笑った。


「私にはちょっと優しいかも」


莉莉はかえでを見る。


「……そんなことないよ」


あやかが目を丸くした。


「ほら!」


「何」


「今の言い方!」


「何が」


「私には『うるさい』なのに」


「うるさい」


「ほら!」


こうたが横から笑う。


「あやか、負けてるぞ」


「こうちゃんは黙ってて!」


「お前、昔から自分が一番可愛がられないと嫌だったもんな」


「いつの話!」


「五歳くらい」


「覚えてない!」


「俺は覚えてる。りりかにそっくりだった」


「何で私が出てくるのよ」


「そういうところ」


「死ね」


「今日二回目」


莉莉はかえでを見る。

かえでも笑っていた。

莉莉も笑った。


~~~


食事が始まった。

話す人が多い。

というより、一人が話している途中で別の人が入ってくる。

その途中にさらに誰かが入る。


大じじいがいたら、たぶん途中で帰る。

莉莉はそう思った。


「莉莉」


隣のかえでが呼んだ。


「何?」


「おいしい?」


「うん」


「でも、さっきからちょっと静かだね」


「そう?」


「うん」


「普通だよ」


「そっか」


かえでは少しだけ莉莉を見る。


「お兄ちゃん、来られなくて残念だったね」


莉莉の手が止まった。


「……何で?」


「会いたかったかなって」


「別に」


「そっか」


かえでは笑った。

それ以上は言わなかった。

莉莉は少しかえでを見る。

あやかなら、ここから三回くらい聞いてくる。

でも、かえでは聞かなかった。

料理を一口食べている。


「……いつ帰ってくるの?」


莉莉が訊いた。


「お兄ちゃん?」


「フィールドワーク」


「明後日だったかな」


「ふうん」


「帰ってきたら、莉莉が来てたって言っとく?」


「……うん」


言ってから、莉莉は少し考えた。


「別に、言わなくてもいいけど」


かえでが笑う。


「分かった」


「何」


「何でもないよ」


向かい側を見る。

あやかと目が合った

あやかも笑っている。


「何」


「何でもない」


「絶対何かある」


「りーりー、あやとくん来なくて――」


「あやか」


「はい」


「うるさい」


「まだ何も言ってないじゃん」


「言うこと分かる」


「すごいね」


「親子だなあ」


こうたが言った。


「こうちゃん関係ないでしょ」


「りりかも昔、都合悪くなるとすぐ『うるさい』って言ってた」


「こうた」


「何?」


「うるさい」


「ほら」


~~~


少しして、りりかがこうたに訊いた。


「そういえば、健診どうしたの」


こうたの動きが止まった。


「何の」


「とぼけるな」


「何で知ってるの」


「前に自分で言ってたでしょ。指定日に行けなかったって」


「ああ」


「もう受けた?」


「まだ」


りりかの眉が動いた。


「まだ?」


「仕事だったんだから仕方ないだろ」


「指定日に行けなかったことを言ってるんじゃないの」


「分かってるよ」


「じゃあ早く自分で受けて、結果を職場に出しなさいよ」


「出すよ」


「いつ」


「そのうち」


「いつ」


「近いうち」


「いつ」


「りりか、上司より厳しいな」


「当たり前でしょ」


「何が当たり前なんだよ」


「独りで倒れたらどうするの」


「何で倒れる前提なの」


「健康診断後回しにするからでしょ」


「一回指定日に行けなかっただけだって」


「じゃあ行きなさい」


「行くよ」


「いつ」


「だから――」


「予約した?」


「まだ」


「今しなさい」


「嫌だよ」


「何で」


「飯食ってるから」


「じゃあ食べ終わったら」


「そのうちやる」


「今決めなさい」


こうたがかいとを見る。


「かいと、りりか何とかして」


かいとは水を飲んだ。


「無理」


「即答するなよ」


「兄さんも諦めればいいのに」


「何を」


「姉さんが兄さんのこと構うこと」


こうたがりりかを見る。

りりかは普通に料理を食べている。


「俺、五十五だよ」


「知ってる」


「子どもじゃないよ」


「知ってる」


「じゃあ放っとけよ」


「嫌」


「何で」


りりかは少しだけこうたを見る。


「弟だから」


こうたが黙った。

一秒くらい。


「……気持ち悪」


「死ね」


「三回目」


莉莉は笑った。


~~~


そのあと、こうたの端末が震えた。

こうたが画面を見る。

ほんの一瞬だけ、顔が変わった。

笑ったというほどではない。


でも、りりかと馬鹿な言い合いをしていたときとは違う。

少し柔らかい。

莉莉は見ていた。


「誰?」


こうたが顔を上げる。


「何が」


「今の」


「今のって?」


「連絡」


「秘密」


「怪しい」


「警察官に怪しいって言うな」


りりかが横から画面を覗こうとする。

こうたが端末を伏せた。


「何よ」


「見るなよ」


「誰?」


「何でりりかに言わなきゃならないんだよ」


「どうせ変な相手でしょ」


「りりかよりはまとも」


「死ね」


「ほら、それだよ」


「何がよ」


かいとがため息をつく。


「姉さんも兄さんも、いい加減にしなよ」


「かいとは黙ってて」


「俺まで?」


莉莉はかえでを見る。

かえでも莉莉を見る。

二人で少し笑った。


~~~


問題が起きたのは、デザートが来る少し前だった。

本当に、何でもない会話だった。

こうたがあやかに訊いた。


「そういえば、あやかの彼氏、今日は来ないの?」


止まった。

全員ではない。

りりかは止まらなかった。

莉莉も止まらなかった。

かいとの妻とかえでは、意味が分からず顔を上げた。


かいとは、あ、という顔をした。

そして、クーパーが止まった。


「…………彼氏?」


静かになった。

あやかがゆっくりこうたを見る。


「こうちゃん」


「何?」


「何じゃない」


「え?」


「クーパー知らないの?」


こうたが言った。

クーパーがあやかを見る。


「あやか」


「……はい」


「彼氏?」


「はい」


「いるの?」


「います」


こうたが笑った。


「あやか、何で急に敬語なんだよ」


「こうちゃんのせいでしょ!」


「俺、知らないと思わなかったんだよ」


りりかが言う。


「私も知ってると思ってた」


クーパーがりりかを見る。


「知ってたの?」


「知ってるよ」


「かいとは?」


「俺も姉さんから聞いた」


「お兄さん、私も聞いてました」


かいとの妻が申し訳なさそうに言った。

クーパーが少し傷ついた顔をする。


「僕だけ?」


あやかが慌てた。


「パパ、違うの。隠してたわけじゃなくて」


「言ってないなら似たようなものじゃない?」


「タイミングがなくて」


こうたが楽しそうに訊く。


「クーパー、年齢聞いた?」


「こうちゃん!」


「何歳?」


クーパーが訊いた。

あやかが黙る。

莉莉は言った。


「二十歳」


「りーりー!」


「二十歳?」


クーパーの声が少し大きくなった。


「莉莉!」


「本当じゃん」


「そうだけど!」


こうたが笑う。


「あやか、やるな」


「こうちゃん!」


「褒めてるんだよ」


「褒めなくていい!」


「りりかの娘だからなあ」


「何で私が出てくるのよ」


「血だろ」


「死ね」


「ほら、それだよ」


「何がよ!」


クーパーはまだ考えている。


「二十歳……」


「パパ、そこから離れて」


「大学生?」


「うん」


「同じ大学?」


「うん」


「同級生?」


「そう」


「同級生?」


「学年が!」


「ああ」


クーパーは少し安心した。

そしてまた考える。


「でも、あやか三十二だよね?」


「知ってるよ!」


「十二歳――」


「計算しない!」


莉莉が言った。


「じいじ、さっきから同じところ回ってる」


「だって」


「パパ、落ち着いて」


こうたは完全に楽しんでいる。


「いやあ、あのあやかに二十歳の彼氏か」


「『あの』って何!」


「昔、俺と結婚するって言ってたのにな」


「いつの話!」


「四歳」


「知らないよ!」


「俺は覚えてる」


「忘れて!」


「可愛かったなあ、あやか」


「今言うな!」


「今も可愛いよ」


「それも今言うな!」


こうたが笑う。

りりかも笑っていた。

莉莉も笑った。

あやかは真っ赤になっている。

クーパーだけは、

まだ少し複雑そうだった。

莉莉は思い出した。


「札幌の家にも来たよ」


「りーりー!」


クーパーが莉莉を見る。


「家にも?」


「来た」


「莉莉、もう何も言わなくていいから!」


「泊まってないよ」


「そこは聞いてない!」


「じゃあ言わなくてよかった」


「当たり前でしょ!」


かえでが口元を押さえて笑っている。

かいとも笑っている。

かいとの妻も困ったように笑っていた。

こうたは普通に笑っている。


りりかだけは平然としていた。


「別にいいじゃない」


りりかが言う。


「何が?」


「彼氏くらい」


「駄目とは言ってないよ」


「じゃあいいでしょ」


「そういう問題じゃなくて」


クーパーがあやかを見る。


「どんな人?」


あやかの表情が少し変わった。


「優しいよ」


「それだけ?」


「一緒にいて楽しい」


「ちゃんとしてる?」


「してる」


「勉強は?」


「してる」


「将来は?」


「パパ」


「何」


「面接じゃないから」


莉莉が言った。


クーパーが黙る。


「……そうだね」


あやかが少し笑った。


「今度会ってよ」


「いいの?」


「いいよ」


クーパーは考える。


「じゃあ会う」


「怖い顔しないでね」


「しないよ」


「会社の話しないでね」


「しない」


「将来設計聞かないでね」


「……努力する」


「聞く気じゃん」


莉莉が言った。


「聞かないよ」


「今、間があった」


「莉莉はどっちの味方なの?」


クーパーが訊いた。

莉莉は考えなかった。


「あやか」


「即答?」


「お母さんだから」


あやかが莉莉を見る。

少し嬉しそうだった。


「りーりー」


「何」


「好き」


「急に何」


「娘が可愛い」


「やめて」


こうたが笑った。


「そこもりりかに似たな」


「こうちゃん!」


「何だよ。褒めてるって」


「絶対違う!」


~~~


デザートが来た。

莉莉はプリンだった。


「りーりー、結局それ?」


あやかが言う。


「何が」


「横浜まで来てもプリン」


「横浜だからって変える必要ないじゃん」


「確かに」


かえではケーキだった。

莉莉は少し見る。


「食べる?」


かえでが訊いた。


「いいの?」


「いいよ」


莉莉は少しだけもらった。


「おいしい」


「でしょ」


「かえでお姉ちゃん、プリン食べる?」


「いいの?」


「うん」


かえでが一口もらう。


「おいしい」


「でしょ」


莉莉はそれで満足した。


向こうでは、りりかがまだこうたに健診の予約をしろと言っている。

こうたは聞いていない。

かいとが止めるのを諦めた。


クーパーはあやかの彼氏について聞きたいことがまだありそうだった。

あやかはそれに気づいて、わざと目を合わせない。

かいとの妻が笑っている。


かえでは莉莉の隣にいる。

一人だけ、いない。

莉莉は少しだけ思い出した。


「莉莉」


「何?」


かえでが呼ぶ。


「帰ってきたら、お兄ちゃんに連絡させようか?」


莉莉は少し迷った。


「……別に、そこまでしなくていいよ」


「そっか」


「でも」


「うん?」


「私が東京来てたって言うくらいなら、いい」


かえでが笑った。


「分かった」


「何で笑うの」


「笑ってないよ」


「笑ってる」


「じゃあ、ちょっとだけ」


莉莉はプリンを食べた。

今度会えばいい。

そう思った。


~~~


窓の外では、雨が降っている。

雨の向こうに、みなとみらいの光が浮かんでいる。


水面にも、同じ光が揺れていた。

莉莉は窓の向こうを見る。

遠くの建物に、

大きな天気表示があった。


緑のカエル。


いつもの色だった。

莉莉がプリンを口に運ぼうとしたとき、

その色が、一瞬だけ黄色く見えた。


「……?」


見直す。

緑だった。


「莉莉?」


かえでが訊いた。


「何?」


「今、外見てたから」


莉莉はもう一度窓を見る。

雨はいつも通りだった。

強くもない。

弱くもない。

緑色のカエルが、

雨の横浜を見ている。


「何でもないよ」


莉莉は言った。

そして、またプリンを食べた。

向こうでは、りりかがこうたに言っている。


「明日予約しなさいよ」


「嫌だ」


「何で」


「明日は仕事」


「じゃあ予約だけしなさい」


「分かったって」


「絶対してよ」


「はいはい」


「その返事が信用できない」


「母親かよ」


「姉」


「知ってる」


「だったら言うこと聞きなさい」


「何でだよ」


かいとが笑っている。


あやかも笑っている。


クーパーも、


かいとの妻も、


かえでも笑っている。


莉莉も笑った。


本当に、


うるさい家族だった。


でも、


今のところは、


それでよかった。


りりか、こうた、かいと3姉弟は横須賀育ち。

こうた、かいとは横須賀生まれです。


かいとは横須賀で保健行政、その妻も行政職です。

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