幕間2 りりかとクーパー
家に戻ったのは、夜だった。
あやかと莉莉は、先にそれぞれの部屋へ入っていた。
玄関に入ると、りりかは靴を脱ぎながら言った。
「疲れた」
「りりかが集めたんだろ」
「そうだけど」
クーパーは上着を脱ぐ。
りりかはそのままリビングへ行った。
雨が窓を叩いている。
久しぶりに、にぎやかな夜だった。
クーパーが水を飲む。
少しして、
「……あやか、彼氏いたんだね」
と言った。
りりかはソファに座った。
「いたね」
「知ってたんだ」
「知ってたよ」
「僕だけ知らなかった」
「そうみたいね」
クーパーは黙った。
「何」
「別に」
りりかが笑った。
「親子だね」
「誰と?」
「あやか」
「そう?」
「莉莉も」
「それは嫌だな」
「何でよ」
クーパーも少し笑った。
「二十歳か」
「まだ言ってるの?」
「十二歳下だよ」
「計算したの?」
「するだろ」
「しないよ」
「するよ」
「三十二なんだから、あやかが決めればいいでしょ」
「分かってる」
「莉莉も十三だし」
「うん」
「もう、私たちが何でも決めてあげる歳じゃないよ」
クーパーは少し黙った。
「……早いね」
りりかは窓の外を見た。
雨が降っている。
「そうだね」
少しだけ、静かになった。
りりかが言った。
「私、年明けにはこっち戻ろうかな」
クーパーが顔を上げた。
「東京に?」
「うん」
「札幌は?」
「ことみちゃんいるし」
「あやかも莉莉も、もう大丈夫そうだし」
「うん」
「お父さんも、今は落ち着いてるから」
クーパーはしばらく何も言わなかった。
「……そっか」
りりかが見る。
「何、その反応」
「いや」
「嫌なの?」
「逆」
「逆?」
クーパーは水を一口飲んだ。
「帰ってくるんだなって」
りりかは少し笑った。
「帰ってくるよ」
「うん」
「私の家でもあるんだから」
「そうだね」
それだけだった。
クーパーは立ち上がった。
「どこ行くの」
「部屋」
「聖域ね」
「そう呼ぶなよ」
りりかは笑った。
「帰ってくるなら、片づけた方がいい?」
「死ぬまで入らないから、片付けなくていい」
「……そっか」
少し嬉しそうだった。
クーパーが廊下へ向かう。
「クーパー」
「何?」
「今日、楽しかった?」
クーパーは少し考えた。
「うん」
「ならいい」
「りりかは?」
「楽しかったよ」
「こうたに何回も死ねって言ってたけど」
「あれは別」
「そっか」
クーパーは笑って、聖域へ向かった。
りりかはソファに座ったまま、雨の音を聞いていた。
年が明けたら、ここへ戻ってくる。
東京には、クーパーがいる。
そして、ここは自分の家でもある。
それでよかった。
クーパーはイングリッシュネームで、中華圏の人です。
9話から莉莉のカエル術について、少し掘り下げた内容になっていきます。




