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フローライトの君  作者: 伽耶


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第四話:危険なふたり

「お二人は仲がよろしいのですね」


思わず口をついて出た。


少し皮肉っぽく聞こえただろうか。


……まあ、いいか。


「いえ」


シンシアさんは法衣の袖で口元を隠し、上品に微笑む。


「殿下が幼い頃、家庭教師を務めていただけでございます」


「その『だけ』で片付けないでください、先生……」


アルス殿下が小さくため息をついた。


「あら、殿下。非公式の場とはいえ、『先生』とお呼びになるのはお控えくださいと申し上げましたよ」


笑顔は崩れない。


けれど、その目だけは少しも笑っていなかった。


……会社にもいたな。


部下や後輩に対しても、終始敬語を崩さない人。


ああいう人ほど、怒らせると一番怖い。


「……失礼しました」


「未来の国王たるお方が軽率では、国民も安心できませんもの」


シンシアさんは何事もなかったかのように微笑んだ。


……なるほど。


この二人の力関係は本物らしい。


そう考えると、最初に訪ねてきてくれたのがこの二人でよかったのかもしれない。


「殿下、一つお願いがございます」


アルス殿下がわずかに眉を上げる。


「申せ」


相変わらず威圧感がある。


すると、シンシアさんが無言でアルス殿下へ視線を向けた。


「……失礼しました。どういったご要件でしょうか」


……学習能力はあるらしい。


「現状を知らなければ、対策は立てられません」


「まずは、この国で何が起きているのか。皆さんが把握していることを、すべて教えてください」


国の現状を知るには、まず情報が必要だ。


国王や王太子のような為政者は、国全体を俯瞰した情報を持っている。


判断を誤ることはあっても、その立場だからこそ集まる情報まで誤っているとは限らない。


一方で、神官は民に最も近い存在だ。


祈りを捧げ、人々の悩みを聞き、不安に寄り添う。


報告書には決して残らない、生の声を知っているはずだ。


為政者の視点。


そして、民の視点。


その両方が揃って初めて、本当の現状が見えてくる。


「私たちでお答えできる範囲でしたら、いくらでもお話しいたします」


シンシアさんは穏やかに微笑んだ。


その笑顔の奥には、この国を救いたいという強い覚悟が宿っているように見えた。


「ありがとうございます」


私は小さく息を吸う。


「まず、この王国について教えてください」


──その夜、私たちは朝まで話し続けた。


ぶっ続けで質問攻めをする私に付き合っていただいた二人には感謝しかない。


この場でいくつかのことを理解することができた。


この世界の国々は、それぞれ守護鉱石の恩恵を受けて成り立っていること。


この王国の守護鉱石――セレスタイトの輝きが、少しずつ失われ始めていること。


それに伴って各地で広がる凶作。


年々痩せていく農地。


各地で頻発する暴動と反乱。


近隣諸国との緊張。


人々の暮らしと信仰。


そして、この世界――オルガルドの歴史。


一つ答えを得るたびに、新たな疑問が生まれる。


その中でも、私が最も興味を引かれたのは『結晶術』だった。


鉱物に宿る力を引き出し、人々の暮らしを支える技術。


たとえば部屋の照明は、ヘリオライト(日長石)の力を「展式(てんしき)」と呼ばれる魔法陣へ移し、起動しているという。


展式の持続時間や効果の強さは、それを描いた術者の技量によって大きく左右される。


当然、複雑な展式になるほど高度な知識と技術が求められる。


話を聞けば聞くほど、この世界が結晶術によって支えられていることがよく分かった。


だからこそ、科学技術は私の世界でいう中世程度までしか発展していない。


不思議ではない。


便利なものがあるなら、人は別の方法を探そうとはしない。


それほどまでに、結晶術は人々の生活へ深く根付いていた。


だからこそ――。


その根幹を支えるセレスタイトが衰え始めた今、この国には代わりとなる技術が存在しない。


国そのものが揺らいでいる理由が、ようやく理解できた。


気づけば、一緒に召喚されたノートは文字でびっしりと埋め尽くされていた。


私はノートを閉じ、小さく息を吐く。


情報は揃った。


……いや、正確には違う。


ようやく土俵に立てただけだ。


本当に知るべきことは、まだ何一つ分かっていない。


セレスタイトは、なぜ衰え始めたのか。


その答えを見つけなければ、この国は救えない。

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