6.友達
いつまでも暑かった九月が終わり、季節が移り変わろうかという頃。いつも通りの屋上で僕はずっと気になっていた事を御厨に聞くことにした。
「なぁ、御厨ってさ」
「んー?」
「友達いないの?」
あはははっ、と御厨はお腹を押さえて身を捩りながら笑い出した。
「いやーお前ほんといいよ。面白い」
「なんだよ答えろよ」
御厨はいつまでもニヤニヤとしていた。そんなに変なこと言っただろうか。
「正直、友達と呼べるような奴はいないかな」
「金持ちだし変な奴だから?」
「ちげーよ。中学までは他府県だったんだよ」
「なんで親父さんはここに学校を作ったんだ?」
「あぁ、元々、親父の母校があったんだと」
「親父さんの地元なのか……」
そう言われて僕は、改めて屋上からの景色を眺めた。僕にとっては転校してきたばかりの知らない土地だけれど、御厨にとっては父親が生まれ育った場所なんだ。
「でもさ、もう二年だし同級生は?」
「たまに仲良くなる奴はいるけど……」
御厨はそこで言葉を区切った。
「なんだよ?」
「いや。面白い奴ってのがいないんだよな」
そう言って笑った御厨の笑顔はいつもと違って見えた。御厨は僕のことを「面白い奴」と言うが、自分ではそうは思わない。
御厨がよく言う「面白い」の意味が、僕にはまだわからなかった。
そんなことを考えていると、
「なぁお前さ、三年のクラス選択どうすんの?」
「え?」
御厨は突然、そんな話を始めた。
「クラス選択だよ。プリント来てただろ?」
「あ、ああ。まだ提出してないけど今のままかな」
「特進にしとけよ。そしたら俺と同じクラスになれるぜ」
「特進? お前……そんなに賢いようには……」
「なーに言ってんの。俺はIQ165の天才だぜ?」
「は?」
こいつ……。そんなに賢かったのか。話していると普通なのに。
なんだかますます嫌な奴に思えてきた。
クラス選択の提出期限は十一月の末。まだ一ヶ月も先だ。それまでこいつと仲良くできたら特進にするのも悪くないな。
今は塾に通っているけれど、この学校の特進クラスは塾など必要ないらしい。授業料は転校プログラムのおかげで免除になっているが塾は別だ。両親にはもうこれ以上、迷惑を掛けたくないし、特進クラスを目指すのもいいかもしれない。
「特進だと編入試験があるけど親父に言えば何とかなるぜ」
「そういうのはやめろよ。自分の力で通るからさ」
御厨が何も答えなかったために目をやると、口元をニヤリと歪めていた。
それから何か言うのかと思ったが御厨は何も言わず、ただ、僕の肩をぽんぽんと叩くと、「先に戻るわ」そう言い残して一人で屋上を出ていった。
僕はその背中を見送ると空を見上げた。なんだか充実している。僕はここに来れて本当に良かった。
空から降り注ぐ太陽の暖かさとは裏腹に、頬に当たる秋の風は、少しだけ冷たくなっていた。




