54.最後の投票
「なんだ暗い顔して」
屋上から景色を見ていた僕に、御厨が言った。
「さっきの……」
「ん?」
「春日さんがみんなに拍手されて嬉しかった」
「私はびっくりしたわ。どんな顔をされるか心配だったから。少し安心した」
「良かったじゃねぇか」
「つい最近まで、僕をいじめていたのに」
素直に喜べなかった。まるで昔からの友達みたいに笑いかけている。
前まで悪意を向けられていた相手から、今は好意を向けられている。
「でも、悪い人たちだとは思えなくなった」
「じゃあいい人か?」
「わからない」
少し考えた。
「お前が、僕に初めて話しかけてくれた日」
「あぁ」
「僕は、何だこいつ。変な奴だ。と思って拒絶した」
「そうだったかな」
「でも、お前はずっと笑って、側にいてくれた」
「……」
「せっかく自分がかまってるのに、拒絶されてむかついた。いじめてやろうって、なったとしても、おかしくなかったんだ」
「でも、そうはならなかった」
「うん。僕もお前には嫌だって言えるんだ」
「私には言えないのにね」
僕は春日さんの方を見て、少し笑った。
「今、僕が感じてる嫌な気持ちを吐き出したら、またクラスで邪魔者にされる」
「空気を読むってやつか」
「最初から仲良くしたかったのかな……やり方を間違えただけで」
「達也……」
「次に誰かがいじめられたら、僕は間違ってるって言えるのかな」
「知るかよ」
「天才だろ?」
「人の心なんて、俺にはわかんねぇよ」
僕も御厨の心の中すらわからない。
クラスメイトがどう思ってるかなんて、もっとわからない。
たぶん、春日さんのことだって、僕が思っているほどわかっていない。
わからないことは考えてもわからない。
わからないなら、聞いてみればいい。
ちゃんと話してみればいい。
それでも、間違えることはあるだろう。
「なぁ。投票しようぜ」
「は?」
「屋上から出て行くやつを一人決める。せーのでそいつに指をさす」
「なんだよそれ」
そんなのやるまでもなく結果が見えてるじゃないか。
「せーの!」
僕は御厨を指さした。御厨は御厨を。
春日さんも春日さん自身を指さしていた。
「ふふっ、龍之介君に決定」
「じゃあな、俺も恋人作ってやる!」
御厨はそう言い残して走っていった。
おかしくて仕方なかった。
容赦なく御厨を指さしてしまう自分。
僕と春日さんを二人きりにするために、馬鹿な茶番を始める御厨。
そして……。
笑っていたのに、涙が溢れてくる。僕は……。
ふと、頭を撫でられた。
「よく頑張りました」
溢れてくる想いも、涙も、止められそうになかった……。




