51.行ってこい
『おはよう』
メッセージを送って家を出る。毎日、続けていた。ほんとは毎朝、家まで行こうと思っていたんだけど、御厨にやっぱり迷惑だからやめろと言われた。
そんな御厨は三日ほど学校をサボっている。メッセージを送っても『ちゃんと勉強しろよ』そんな返事がくるだけで、何も教えてくれない。
三限目が始まって、ズボンのポケットに入れたスマホが震えた。
『授業を抜け出して出てこい』
御厨からのメッセージだった。勉強しろと言ったり、抜け出してこいと言ったり、自由な奴だ。
『無理だろ』
『今、来ないと一生後悔するぞ』
僕は立ち上がった。
「どうした?」
先生がびっくりした様子で尋ねた。
「御厨が今、来ないと一生後悔するって」
「は?」
「なんだと思います?」
先生は呆れたように笑うと「行ってこい」と送り出してくれた。
「行ってきます」
僕は教室を飛び出した。
『どこだよ?』
『学校の前にいるよ』
僕が校門を出ると、一台のバイクが止まっていた。
「御厨?」
「よぅ」
「お前、何して……」
「いいから早く乗れよ」
「は?」
御厨にヘルメットを渡されて、バイクの後ろに跨った。
初めてのバイクは怖くて、僕は御厨の身体をしっかりと掴んだ。
程なくして、見覚えのある建物の前を通った。春日さんと買い物をした大きなショッピングモールだ。
そこを少し通り過ぎたところで御厨はバイクを止めた。
「降りろ」
「はぁ、疲れた」
「そこの病院の前で待ってろ」
「病院?」
目の前には、こころのクリニックという看板があった。
「みこが中にいる」
「え?」
「俺はバイク置いてくるから」
「ちょっと待てよ!」
御厨は走り去っていった。
春日さんがこの中にいる。
急に心臓がうるさくなった。手が震えている。
出入り口を見つめていたが、春日さんはなかなか出てこなかった。しばらくして、御厨が戻ってきた。
「まだ出てきてない?」
「あぁ」
「ったく、苦労したぜ」
「お前もしかして、ずっと春日さんを見張ってたのか?」
「これなら迷惑でもないだろ?」
「馬鹿だろ」
「お前にはできないだろ?」
「お前にしかできねぇよ」
「ほら、ここからはお前にしかできない」
御厨は僕の肩をそっと押した。
目の前に、春日さんがいた。
「達也くん……」
「春日さん」
「美琴、この子たちは?」
「お父さん、先に帰ってて」
「わ、わかった」
僕は春日さんを見つめていた。
何か言わなきゃいけないのに、言葉が出てこなかった。




