50.いいの
春日さんの家の呼び鈴を鳴らした。反応はない。
僕は門前に座り込んだ。誰か帰ってくるかもしれないと、そのまま待った。
いつの間にか夜になり、人通りも少なくなっていた。
「町田くん?」
僕が顔を上げると一人のおばさんがこちらを見ていた。
「まさか美琴に会いに来てくれたの?」
「あ、はい……」
どうやら春日さんのお母さんのようだ。
「美琴と話してくるわ。少し待ってて」
少ししてドアが開いた。僕はハッと顔を上げるが、お母さんだけだった。
「やっぱり、あなたには会えないって」
「春日さん、なんて言ってました?」
「いいの。だけよ」
「……そうですか」
わかってたこととはいえ、キツい。春日さんはすぐそこにいるのに……。
「もう遅いから、今日は帰った方がいいわ」
「……はい」
「町田くん。あの子、頑固だから大変よ?」
「知ってます。また来ますね」
「それでノコノコ帰ってきたのかよ」
御厨は呆れながら言った。
「なんだよ」
「そんなもんドアをぶち破って入れよ」
「お前じゃあるまいし、そんなこと出来ねぇよ」
「じゃあどうすんだ?」
「毎日行く」
「ドアをぶち破るより迷惑だろ」
「でも、こっちが無理矢理行ってもダメだと思うんだよね」
「そりゃそうだ」
「ところでさ、なんで席順こうなったの?」
教室では、御厨と席が前後ろになっていた。以前より話しやすい。
「あー、模試が増えるから。名簿順に戻ったんだよ」
「……ここ。間に誰かいなかった?」
「お前マジかよ。真鍋だよ」
「あいつか……辞めてったの?」
「何言ってんだよ。あいつも加害者グループだったんだ」
「御厨」
「あ?」
「いじめって何なんだろうな……」
「達也……」
ちょっと嫌な奴だった。僕にとってはそれだけ。あいつは僕のことをどう思っていたんだろう。
「普通はもっと喜ぶんじゃないか?」
「え?」
「お前をいじめてた奴がいなくなったんだぞ? 喜べよ」
「嬉しくない」
「ははっ」
御厨が笑った。
「やっぱり面白いよお前は」
「お前は、嫌な奴だよ」
僕は前を向いて、頬杖をついた。




