48.申告
学校に行かなきゃ。あれから三日が経ったが、頭が働かない。
ショックが大きくて、二日間学校を休んだ。
ほとんど関係のない生徒にまで被害が及んだ。それが胸を締めつけていた。
こんなことがあっても、学校に行かなきゃと思うんだから、学校ってすごい。
「町田さん」
ミミちゃんが迎えに来ていた。二日休んだことが気になったらしい。
「ミミちゃん。ありがと。でも……」
言葉に詰まった。こんなこと言いたくなかった。
「なんですか?」
「……離れて歩こう」
僕は先に歩き出した。ミミちゃんも少し離れて後ろを付いてくる。
言葉も交わさない。信号待ちになって、僕が振り返ると、ミミちゃんは俯いていた。
僕は何をやっているんだ。また繰り返してる。また大切な人を傷つけてる。
そのまま学校に着いてしまった。玄関口を抜けると、階段が目に入った。落ちてくる女子生徒の姿を思い出す。それがミミちゃんと重なって見えた。
僕はミミちゃんの方を見ることもなく、そのまま階段を上がった。
嫌な幻想は授業中も続いた。血まみれの御厨と、さようならと言った春日さん。そして階段から落ちてくるミミちゃん。
昼休みになっても、僕は教室にいた。机に突っ伏して、どこかで何かが起こるのが怖かった。
「これから小ホールに移動します。まずは男子から全員立って」
七限が始まる時間だった。
この空気……投票制転校プログラム?
でも、違う。
いつもなら教室で……。
小ホールのロビー部分で待たされていた。
やっぱり思い過ごしか。
僕が俯いていると突然、肩を掴まれ、ぐいっと引っ張られた。
「全部お前のせいだ。お前が悪い」
誰かがそう、僕に耳打ちした。
金村だった。
「金村、早く来い!」
「はいはい」
金村はそれで行ってしまった。なんだ……?
「次、じゃあ一組、男子、中に入れ」
なんだ? 選挙みたいな。
いくつか衝立で区切られ、机にプリントが置かれている。
でも、よく見えない。
「お前ら、もうしゃべるなよ」
まさか……。そんな。
全部、僕が悪い?
全部、僕のせい?
「投票制転校プログラムへの申告があった。お前たちには今から投票してもらう」
あ……。
そんな……。
息が上手く吸えない。
……苦しい。
意識が──
「はっ」
どこだ。ベッド? 医務室か。
僕はベッドを出て、カーテンを開けた。
そこには御厨の親父さんが壁にもたれて腕組みして立っていた。
「え、どうしたんですか?」
「君が投票の直前に倒れたと連絡があった。過呼吸だそうだ」
「……」
「君はこれから投票するんだ」
僕が時計に目をやると、もう十八時を回っていた。
「これから?」
数票欠けても、投票制転校プログラムは問題なく行われる。
現に、御厨や春日さんがいなくても投票が進んでいる。
僕の投票を待っている理由は一つしかない。
僕が、被害者だと言うことだろう。
「これから言うことは全部、独り言だ」
親父さんはそう言った。
「君が入院した時、ミミが泣きついてきた」
ミミちゃんが……。
「君を助けてくれ。金村を退学させて、と」
「……はい」
「私は学校中のカメラの映像を調べた。金村という生徒はあらゆる手段で君に嫌がらせをしていた」
やっぱり金村が。
「特に春日美琴は執拗に脅迫していたようだ」
「脅迫?」
「君と接触した後に誰かが近付く。彼女の顔色が悪くなる。何度も映っていた」
「そんな……」
「被害者は彼女だと言うものもいるだろう」
「春日さん……」
「直接、危害を加えたわけではなかった。あの一度を除けば」
「……はい」
「ミミを守るためとはいえ、無茶なことをする。ただ……あれがなければ金村を加害者と認定できなかった」
何も言えない。
「彼がいなくなれば全て解決するのか」
あんな奴。いなくなればいい。
「果たして君が救われたと言えるのか」
僕が……。
「もう君へのいじめは金村の手を離れている」
「え?」
「三日前の事件。金村の指示ではなかった」
「じゃあ誰が?」
「金村の仲間には違いないが、一年の男子が自主的にやったらしい」
「なっ……」
「その男子生徒は今回の投票には含めていない。もう別の事件として警察に任せることになった」
……怖い。みんなが、怖い。
「金村と数人。加害者と認定した」
数人。僕からすれば全員が加害者に思えた。
「龍之介が言った。今の投票制転校プログラムなら、みんなを救えると」
御厨……。
「退学にするのは容易い。だが加害者がいなくなった後、君がこの学校に残って本当に救われたと言えるのか」
「……」
「君がこの学校を出て、新たな道を歩くのか」
「……」
「君自身が選びなさい」
出て行け。そう言われているような気がした。
心臓の音が聞こえる。
怖い。
お前が春日美琴を追い込んだ。
そう……聞こえた。
「君が……」
何か言ってる。でもわからない。
「…………失礼するよ」
出て行く親父さんの背中を見つめていた。入れ替わるように担任が入ってきた。
「小ホールに行くよ」
「……」
「町田くん?」
「少しだけ……」
涙が止まらなかった。
春日さん……。御厨……。
しんどいよ
誰か
僕を
助けて……。




