47.赤色
授業の途中で教室に戻ったため、ゆっくり話せなかった。僕たちは放課後、屋上で話をしていた。
「親父、なんだって?」
「四日前の暴力事件について」
「あー、それで?」
「処分なし」
「ふーん」
「なんだよ」
「……いや」
御厨は何かを考えているようだったが、僕にはわからなかった。
「金村は七日間の謹慎だって」
「あと三、四日で出てくるってことか」
「それであの子、声掛けてくれたのかな?」
「さぁな。なんにもわからねぇよ」
御厨はベンチから立ち上がり、フェンスにもたれながら続けた。
「俺、明日から一週間、アメリカなんだよ」
「そっか」
「不安か?」
「……不安だよ」
「お前しかミミを守れないからな」
「……あぁ」
御厨がいるのといないのでは大違いだ。
「なんでこんな時にアメリカなんて?」
「親父がさ、いじめの国際フォーラムがあるから行ってこいって」
「そっか」
「お前を一人にはしたくないんだけどな」
「僕はお前の足を引っ張りたくない」
「ほんとに大丈夫か?」
「あぁ」
「じゃあ行ってくる」
僕らは学校を後にして、駅の方と僕の家との分かれ道まで来た。
「達也。逃げてもいいんだぞ?」
「なんだよ、急に」
「いや、お前、しばらく会わないと、いつもメソメソ泣いてるからな」
「うるさい」
「泣くほどツラいなら逃げろ。俺以外は誰も笑わないよ」
「……わかったよ」
「じゃあなー」
なんだあいつ。もうすぐ死ぬのか?
変なこと言いやがって。
昔は逃げてばっかりだった僕が、ようやく変わってこれたのに。逃げろだなんて簡単に言うよな。
そして、御厨がアメリカに飛び立った二日後。僕の目の前でそれは起きた。
朝の学校。玄関口。僕が校舎内に入って階段まで来たときだった。
目の前で、鈍い音がした。
人が落ちてきた。
廊下に赤いものが広がっていった。
僕はその赤色を見つめていた。
「きゃあああ」
悲鳴のような声がした。僕は慌ててしゃがんで、落ちてきた女子生徒の様子を伺った。早く何とかしないと。
「おい! 大丈夫か!」
動かなかった。この子、クラスメイトの……あの時、ノートを貸してくれた子だ。
「救急車!」
「誰か先生呼んできて!」
傷を押さえないと。でもタオルも何もない。
「どいて!」
先生が数人、職員室から飛び出してきて、あっという間に応急処置をした。
そのうち救急車が来て、女子生徒は運ばれて行った。
「町田、見てたんだろ? どうなったんだ?」
「いや、落ちたところは見てません。目の前に突然、ドサッて……」
先生に聞かれたが、僕は何も分からなかった。
「誰かが突き落としたんです」
「上の階に走っていくのが見えました」
そんなことを証言する生徒がいた。
突き落とした。
事故じゃない。
一体、誰が……。
あの女子生徒がそんなことをされる子には思えない。
僕のせいだ──




