43.宝石
「あの時、金村が言ってたこと?」
「そうだ」
御厨はいつもと違う、真剣な顔で僕を見た。
「無理に、とは言わないけど?」
「俺の口から話したい」
僕は小さく頷いた。
「まだ高一の頃だ。俺は友達のことを馬鹿にしたんだ」
「え……」
「高校に入って、初めてできた友達だった」
「友達……か」
「ああ。テストの点が悪いことをいじった。笑いながら」
「……」
「いつしか、それがいじめに変わっていった」
僕の中をいろいろな記憶が駆け巡った。
「俺とそいつの間だけの冗談だったのに。みんなを扇動した奴がいた。それが金村だ」
「あいつが……」
「金村とはその前に因縁があったんだよ」
「因縁?」
「そうだ。こないだみたいな殴り合いだよ」
あれを前にも……。
「あいつ、俺の力と金に擦り寄ってきたんだ」
「くだらないな」
御厨は少し笑った。
「あいつは俺が相手にしないでいると、暴力で支配しようとした」
「最低だな……」
「でも、その時は俺が勝ったんだ」
「お前……喧嘩も強いのか?」
「親父がな。まさにそういうことになるから、鍛えとけって空手とか、ボクシングとか」
「なるほど」
「だからミミも強いんだぜ」
「あー。あぁ」
僕はお腹をさすった。
「それでな、力で敵わないとなると、あいつは俺を悪者にしようと」
「今も……だな」
「そうだな」
「でも、お前はいじめに参加してないんだろ」
「もちろん止めたよ。でも、俺がいないところでやるようになっただけだ」
「……それでか」
「それで?」
「お前がいなくなってから、僕への嫌がらせも酷くなってる」
「あいつらクソなんだ。自分より下見つけると攻撃しやがる」
「お前も辛かったんだな」
「まだ続きがあるんだ」
「続き?」
「俺は、金村さえいなくなれば、と考えた」
「まさか……」
「そうだ。俺は投票制転校プログラムに申告したんだ」
春日さんの顔が頭をよぎった。
「そして友達がいなくなった」
「え?」
「あいつは金村ではなく自分自身に投票したんだ」
「僕と……同じ?」
「そうだ」
「そっか……そりゃ話しにくいよな」
でも、それだけなら誰にでも一つや二つは身に覚えがあることだ。金村たちが悪いのであって、今は後悔してる。で済みそうな話だと思った。
「それが偶然、僕と重なって言い出せなかったってことか」
「偶然じゃない……全部繋がってる」
「は?」
「俺はお前を守りたかった」
「守る?」
「あの制度で転校してきたお前が、いつも一人だったから……声をかけた」
「僕がいじめられてるんじゃないかって?」
「……」
「一人で寂しそうだなって?」
「……」
「僕が可哀想だったから声をかけた?」
「違う! 信じてくれ!」
御厨は泣きそうな顔で僕を見つめていた。
「……信じて欲しいのはこっちの方だ」
「え?」
「そんなくだらない秘密を守るために、金村相手にムキになって、怪我して」
「達也……」
「春日さんが、前に僕に言ったんだ」
「……」
「信じてもらえないことが悲しいって。その気持ちがやっとわかったよ」
「……」
「こんなとこに並んで座って、昔話して……僕を信じてくれよ」
「あぁ……。今まで言えなかった。怖かった……」
「……あぁ」
「達也なら信じてくれるはずだってここまで連れてきた」
「……」
「後悔してる。ずっと。そいつのことを守ろうとして、傷つけた。始めたのは俺だけどね」
「ずっと……一人で抱えてたのか?」
「……あぁ」
御厨は星空を見上げて、悲しそうに笑った。
僕は何も言えなかった。
こいつも迷って、ずっと苦しんでいたんだ。
僕は守られていたんだ。御厨に。春日さんに。ミミちゃんにも。
「町田さーん。見てー」
ミミちゃんが走って戻ってくる。と、御厨は立ち上がって、ズボンに付いた砂をはたいた。
「また、ちゃんと話すよ」
「あぁ」
「お前、みこが好きなんだろ?」
「え? あ、あぁ」
「ミミとは、キスまでにしとけよ」
「…………へ?」
「じゃあな。先に戻ってるわ」
御厨は背中を向けて手を振りながら先に帰ってしまった。
「何話してたんですか?」
「あ、いや……」
ミミちゃんが僕の横に腰掛けた。
「ねぇ……御厨に話した?」
「何をですか?」
「……部屋でのこと」
「えへへ、話しちゃいました」
僕は頭を抱えて、小さくため息を吐いた。
「町田さんはダメだって、お兄ちゃんに怒られました」
「え?」
「あいつはみこを迎えに行くんだって」
「……」
「それでね。これ」
ミミちゃんは僕に丸い宝石のような物を二つ渡した。
「シーグラスです。けっこう探したのに二つしかなかった」
ミミちゃんは残念そうに言った。
「へぇ……綺麗だ」
「知ってますか? 海に落ちたガラスの破片が、何年も何年もかけて削られて、こんなに綺麗になるんですよ」
「……そうなんだ」
「町田さんにあげます」
「あ、ありがと」
ミミちゃんは僕の肩に頭を乗せて寄りかかった。
「今はひび割れた心も、またきっと綺麗になりますよ」
えらく達観した子だな。
人間の心は、綺麗になるまでにまた傷ついたり、割れたりするんだ。
でも、こうして親友の妹にまで支えられて……。
僕はミミちゃんにもらった宝石を握りしめて、黙ったまま波の音を聴いていた。




