40.もういい
僕は御厨の病室にきた。
「なんだ今にも死にそうな顔して」
「……そんな顔してる?」
「お前、それ、まさか殴られたのか?」
「僕から殴りかかった」
「ちゃんと話せよ」
「……あぁ」
僕は壁際のイスに腰掛けて、今日の出来事を話した。
「それで、さようならって」
「みこは?」
「僕が戻った時にはもういなかった」
「そか」
「金村に会ったんだ。廊下で」
「ん?」
「別れの挨拶はできたか? って」
「お前それって……」
「わからない」
「それでお前が殴りかかって返り討ちと」
「そう。お前と一緒」
僕はおかしくなって少し笑った。
「……なんか元気だな」
「……」
「……もういいとか思ってんじゃねぇだろうな?」
「……」
「お前っ! 一回殴らせろ!」
御厨は身体を起こそうとした。が、痛かったのか大人しくなった。
「鎖骨が折れてるんだ。安静にしとけよ」
「くそっ」
「……僕はずっと彼女のことを見てなかった。今はほんとに見えなくなった。それだけだよ」
「おい! こっちきやがれ」
御厨はまた暴れて顔を歪めていた。
ふと、春日さんの姿が重なった。
何度も僕の間違いを止めようとしてくれたのに。
彼女は動けなくて、それでも何度も何度も……。
僕はほんとに何も見てなくて……。
泣けてくる。
「達也……」
「……ごめん」
「……」
「……ごめんなさい」
何も聞こえない。暗い場所に沈んでいく。
寝ていたのか……時間が飛んだ。
僕が顔を上げると、御厨がこちらを見ていた。
「うるさくて寝れねぇよ」
「……ごめん」
「もう帰れよ」
「あぁ」
「……明日も来いよ」
「寂しいのか?」
「……あぁ。少し」
御厨はそっぽを向いていたが、冗談ではなかったように思う。
「……また明日な」
僕はそう言って病室を出た。




