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35.これでいいのに

「達也、ミミが中庭で飯食おうって」

「わかった。春日さんも行く?」


 翌日、僕は春日さんに声をかけたが、こちらを見ることもなく、立ち上がって廊下に出て行った。

 そうだ。僕が追い詰めたんだった。本当にもう話さないつもりなんだろうか。


「おい、達也」

「あぁ」


 六月だというのに気持ちのいい天気だった。


「町田さーん」


 ミミちゃんはいつも元気だ。落ち込んでいた気分が少し明るくなる。


「こんにちはミミちゃん」

「遅いですよ」


 僕と御厨と、春日さんだった場所はミミちゃんになった。

 二人でいて傷つけるぐらいなら離れていた方がいい。


「何考えてます?」

「いや。いい天気だなって」

「何言ってるんですか、この後はずっと雨ですよ」

「え?」


 僕は空を見上げた。雲はあるけど雨が降るようには思えなかった。


「ねぇ、お兄ちゃん」

「ああ。そんなこと言ってたぞ」

「ふーん」


 二人の言うように、それから何日もずっと雨の日が続いた。

 雨の日は屋上に行けない。学食に行ったり、教室で食べたり。でも教室は居心地のいい場所ではなかった。まわりの目が気になる。


「御厨、今日は上行こう」

「あー俺、今日これで帰るわ」

「サボり?」

「あぁ、ちょっとな。ミミに声掛けろよ」

「あぁ」


 僕は一人で屋上に続く階段に上がっていった。ミミちゃんにメッセージを送って、踊り場に腰を下ろした。

 ミミちゃん来るかな。一年生だし、同級生とも仲良くしておいた方がいいと思うけど。

 僕といたら……ミミちゃんまで。いや考えすぎか。


「町田さん」

「あ、来たんだ」

「来ました」


 ミミちゃんがニコッと笑った。それだけで、少し気持ちが軽くなる。


 妹って……いいな。


 二人でお弁当を食べた。他愛もない話をしているうちに昼休みが終わった。


「じゃあまた」

「はい」


 三階の廊下で別れた。ミミちゃんは下の階へと降りていった。


 ちょうど春日さんが通りがかって、目が合った。

 何か言おうとしたけど言葉が出てこない。春日さんも何も言わない。

 先に目線を逸らせたのは春日さんだった。そのまま僕の横を通り過ぎて行く。

 これでいいんだ。僕と離れていた方が彼女は無事に過ごせる。

 僕は少し間を空けて、その後を歩いた。


 自分の机に戻ってお弁当を仕舞おうとリュックを机に置いた。揺れる小さなクマが目に入る。

 それだけで急に悲しくなって、僕は机に突っ伏して寝たフリをした。

 涙が止まらない。

 これでいいのに。

 声を殺して……静かに泣いていた。


挿絵(By みてみん)

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