24.こたつ
僕らの高校は冬休みに入っても自習室や図書館が開放されている。家にいてもやることがないので僕は毎日、自習室に通っていた。僕が勉強するために、わざわざ学校に来るなんて。人は変わるもんだ。
『どこいんの?』
御厨からメッセージが届いた。
『自習室にいるよ』
『年末ぐらい休めよ』
『休む暇なんてない』
『話があるんだ。どっかで落ち合おう』
『学校来いよ。あとで春日さんも来る』
『わかったよ』
しばらく勉強を続けていると春日さんが来て、遅れて御厨も到着した。
「期末テストの復習してんの?」
「うるせぇよ。静かにしろ」
「やっぱりここじゃ話しにくいって」
「屋上は寒いし」
「達也んちだな」
「は?」
「興味あるわね」
なぜか春日さんも乗り気だった。
「まぁ今日は家に誰もいないからいいけど」
「よし行こうぜ」
僕の家は学校から歩いて十五分ほどだ。
途中にあるスーパーで食べ物や飲み物を買った。なんだこれ。めちゃくちゃ楽しいぞ。
「ちょっと、一瞬待ってて」
玄関の前で、二人を待たせると、靴を適当に仕舞って、部屋に駆け上がった。
変なもの置いてないよな……。
枕元のクマが一番に目に入る。どうする。片づけるか……。
「お邪魔しまーす」
「御厨くんダメだって」
「おい。勝手に入ってくんなよ」
「来ちゃった」
「私は止めたんだけど」
勝手に入ってきた御厨と、止めたと言いつつ自分も入ってくる春日さん。
犬でももう少し待てるぞ……。
「こたつあるじゃん」
「あ、あのクマ。一緒に寝てるのね」
「自由だね。君たち……」
御厨はさっさとこたつに入って温まり出すし、春日さんはベッドに腰掛けて、自分が取ったクマを抱いている。
「上着、掛けとくからちょうだい」
「気が利くな」
「ありがとう」
この二人から目を離すのが怖い。でもコップなんかは一階。どうする……。
「おいコップ」
「モラハラやめろ」
「くすくす」
まぁ見られて困るもんはないしな。大丈夫だろ。
僕は一階のキッチンからコップと氷を取ってきた。
「日記とかないかな」
「そんなタイプじゃなさそうね」
「おい。何やってんだよ」
二人はノートが並べてある棚を物色していた。
「ほんとにやめてくれ」
「見られてまずいもんでもあんのか?」
僕は御厨を睨みつけた。察しろ。
「わかったよ」
「それよりさ、話ってなんだよ」
「私が聞いてても大丈夫な話?」
春日さんはコップにコーラを注ぎながら言った。
「ああ。むしろ聞いてくれた方がいい」
「なんだよ」
「凍結されてた転校プログラムだ」
御厨はにやりと笑ったが……。
「あー」
「なぁ、リアクション薄くない?」
「だって、ねぇ」
「今は何も問題がないわ」
春日さんは僕にコーラを渡した。僕は少しだけ飲んでから話を続けた。
「いじめの被害者は転校してるみたいだし、それじゃダメなのかよ」
「本来は転校したくないのに逃げるしかなかった奴もいるはずだ。俺はそういう奴を救いたいんだ」
「それは分かるけどさ」
「加害者も転校させられるからこそ、それぞれが本来いるべき場所を守れるんだ」
「でもそれで春日さんは陥れられたわけだし」
「あれはあいつらが一枚上手だっただけで……」
春日さんがすごい顔で御厨を睨みつけている。
「私は負けてないわ。制度が悪かっただけ」
御厨にグサッと刺さってるのが見える……。
「あんな簡単に悪用されるのは制度の不備だし、調査してる委員会もまともに運営されてるとは思えない」
「あの、俺、発案者なんだけど……」
「知ってるわ」
「くくくっ」
僕は寝転がって笑いを堪えていた。面白すぎる。
「町田くんの時もそうよ。加害者を間違えたってなんなの? 加害者は複数人いることを想定できなかったの?」
「……はい」
「はははっ」
「おい、笑うなお前!」
御厨が足で僕の背中をグイグイ蹴ってくる。
「ねぇ、被害者の投票についてもちゃんと考えたの?」
「そっちは自信がある」
「自信? 被害者が全部決めてたら多数決はなんなの?」
「それは……」
「町田くんが私たちの学校から転校した時、多数決は山野さんたちを選んでいたはずよ?」
「それはわからないだろ」
「じゃあその後、何故、私が標的になったの? 全然抑止力になってないじゃない」
「はははっ、お腹痛い」
僕はうずくまったまま動けなかった。
「ちょっと町田くん」
「はっ、はい」
「あなたもあなたよ」
「……はい」
「あなたが逃げずにちゃんと投票してくれたら、こんなことには……」
「春日さん……」
「あっ……。ごめんなさ……」
一瞬、全員が黙った。何か言わなきゃ。
ごめん……が頭をよぎった。
でも違う。誰も悪くない。
「大丈夫。気にしてないよ」
「ごめんなさい……」
「こうしてさ、三人で笑えてること。それが投票制転校プログラムの、本当の力なんじゃないかな」
「達也……」
「凍結ってそういうことなんだろ? 間違っていたところを認めて再出発」
「そうだ。お前の力を貸してくれ」
僕は大きく頷いた。
「僕は何をすればいい?」




