23.編入試験
それから一ヶ月。
年末にある特進クラスの編入試験に向けて、僕は勉強をしていた。
放課後に春日さんと御厨と一緒に自習室にいる時間が増えた。
相変わらず、投票制転校プログラムの話題が出ることもあったが、今の僕はそれどころではない。
「どうしてわからないの?」
「ぐっ……」
「お前思ったより出来ないな」
「……うぅ」
何だこの二人。出来ない人の気持ちがわからないのか。
「ここはこうなるのよ」
「どこがどうなるのよ」
「ここ」
「ここ」
「こう」
「そうはならないって」
「これはこういうものとして覚えるしか」
「それが一番面白くない」
「じゃあ俺が公式の中身を教えてやってもいいけど」
「……やめとく」
頭が爆発しそうだ。普段、適当に授業を聞いてるツケが回ってきた。
「勉強の仕方がわかってないのよ」
「……うぅ」
「一回聞いたら分かるだろ」
「お前はほんとに黙っててくれ」
「私がまとめてきてあげるから、そこだけは覚えてきて」
「……はい」
二人に鍛えられたおかげで、僕も勉強の仕方というのが分かってきた。
それに、この二人はもっと上に行くんだろう。僕が足を引っ張るのは嫌だ。
帰宅してからも勉強をする時間が増えた。分からないままなのが、どうにもムカつく。しんどくなってベッドに寝転ぶこともあった。
どうして特進に入りたいんだろう。春日さんと御厨がいるから?
二人と一緒にいる時間が増えて、今までより勉強するようになった。
分からないことがあるとムカつくし、二人が簡単そうに解いている問題を、自分だけ解けないのが何より嫌だった。
特進に入れたからといって、二人に追いつけるわけじゃない。それでも、同じ教室にいられるくらいにはなりたいな。
「春日さんはどうして勉強するの?」
昼休み、二人で中庭にいた。御厨が休みだったのでたまには中庭に行こうと誘ったのだ。
「考えたこともないわ」
「あ、そう」
「ただ親から私に与えられた娯楽は少なかったと思う」
「娯楽?」
「例えばあなたが好きなゲーム」
「うん」
「私はほとんど知らない」
「まぁ知らなくても困らないしねぇ」
「んーん。勉強が出来るから優れているとか、ゲームしているからダメだとかそんなことで決まらないわ」
いや、この話をずっと、自分の方が劣っていると思いながら聞いてるんだけど……。
そんなこと、ゲームだけしてる奴は考えもしない。
「お医者さんになるの?」
「いいえ」
「お父さんに憧れたりしないんだ?」
「私は目の前にいる人だけでなく、もっとたくさんの人を救いたいの」
「……」
「なんて思ったの?」
「……」
「今、私に気を使ったでしょ?」
「……崇高なご意識で」
「ありがと」
たくさんの人を救いたいか。進路……考えたことなかったな。
「あなたは?」
「え?」
「お父さん、何してる人?」
「サラリーマンだよ」
「そうなのね」
「自分も行ける大学行って、就活して、父さんみたいに普通に生きていくんじゃないかな」
「嫌?」
春日さんは真剣な顔でこちらを見ている。嫌か? 嫌ではない。もっといい仕事がしたいか? そんな風にも思えなかった。
「わからない」
「そう。また夢ができたら教えて」
「夢……か」
「達也!」
御厨の声がした。あいつ休みだって言ってたのに。声がした方を向くと、クリアファイルを持った御厨が歩いてきた。
「こっちだったか。屋上にいないから探したぜ」
「なんだよ。今日は休みじゃないのか」
「朝から親父に呼ばれててな」
「それで?」
「去年と一昨年の特進の過去問貰ったんだ」
「へぇ、ありがたい」
「見せて」
春日さんが横から過去問を取り上げた。
「大学入試レベルね」
「え?」
「そうだな」
「え、そんなの解けないよ」
「達也、特進の奴らでも、半分ぐらいは解けない問題だよ」
「……半分」
これを半分。不安だ。
「まだ1ヶ月あるから。これを参考にがんばりましょ?」
「う、うん」
目標が決まったことで、より勉強に身が入った。それから約一ヶ月。自習室や時には教室や屋上で、過去問を解いたり、二人が作った問題を解いたりした。
「二人は自分の勉強はいいの?」と聞くと、教えることも勉強と言われた。
そして冬休みまであと一週間という日に特進編入試験が行われた。
「頑張ってこいよ」
「任せろ」
そんな風にカッコ良く送り出されて、受験に来た。が、全然出来なかったな。とにかく疲れた。
僕が足取り重く、校門から出ると、私服の御厨と春日さんが待っていた。
「よぉ」
「お疲れ様」
なんだか二人の顔を見るとようやく気が抜けた。
「どうしたの二人して」
「お疲れ様会しよって御厨くんが」
「なんか食いに行こうぜ」
「あぁ」
後日、学校から書類が届いた。
四月から僕は特進クラスになるらしい。
見たか、御厨。




