18.待ち合わせ
月曜日。春日さんの住んでいる街に来た。
祝日の繁華街。目の前を次々と人が横切っていく。北口の前で待っててと言われたが、春日さんはまだいないみたいだ。とりあえずメッセージだけして待つか。
『きたよ』
どこか、わかりやすい所はないかなと、辺りを見回した。やっぱり、あの時計台がいいかな。
『出てすぐの時計台で待ってる』
追加でメッセージを送った。
返事がないが大丈夫だろうか。どっちから来るのかな。
右の方にある大きな建物に人が吸い込まれていく。何があるんだろう。
「町田くん」
顔を上げると、そこには春日さんがいた。少し照れくさそうに笑っている。
「春日さん」
「もっとかくれんぼみたいな所にいるかと思ったのに」
「え?」
「いいの。行きましょ」
「ああ」
「それで、買い物って?」
真横を歩く春日さんが、ちらりとこちらを見た。
「あー、まだ決めてないんだけどね」
「決めてない?」
「御厨に渡すんだよ。誕生日プレゼント……言ってなかったっけ?」
春日さんは立ち止まって、しっかりとこっちを見た。
「あなたたち、喧嘩してるんじゃないの?」
「そういえば……」
「……町田くんらしいわ」
春日さんは小さくため息を吐いて、また歩き出した。
目的地は、あの人を吸い込む大きな建物のようだ。
「あそこ?」
「私もこの辺り、まだ詳しいわけじゃないから」
「僕は初めてだよ」
「……あなた、服はどこで買ってるの?」
「近所のスーパーの二階」
春日さんは目をまんまるにして僕を見ている。そして僕を上から下まで見た。
「それでか……」
「なんだよ」
「いいの。行きましょ」
なんだ? 怒ってないか春日さん。
「あそこならなんでもあるはず」
「へぇ」
近付いてきたら、その大きさに驚いた。たしかに、なんでもある大きさだ。
「広ーっ」
一歩足を踏み入れると別世界だ。吹き抜けがどこまでも続き、その両側に人で賑わうお店が並んでいる。
「特に決めてないなら、一通り見てみましょう」
「う、うん」
「メンズは上の階かな」
春日さんは頼もしかった。こういうところは、やっぱり女の子なんだな。
「予算は?」
エスカレーターに、先に乗った春日さんが振り返った。
「何も考えてない」
少し見上げて答えた。
「あまり高い物だと、御厨くんも気を使っちゃうわよ」
「金銭感覚がかなり違うと思うけど」
「季節を考えても、手袋とかマフラーがいいんじゃないかしら」
「マフラーかいいね」
メンズ、レディース、キッズ。春日さんはそう書かれたフロアで止まった。
春日さんはきょろきょろとお店を探しているようだった。
「五千円ぐらいまでよね」
「う、うん。まぁ」
あいつに五千円か。まぁ世話になってるしな。それに春日さんがそういうなら、プレゼントってのはそれぐらいなんだろう。
「じゃあ、あのお店かな」
春日さんは館内図を見て迷うことなく歩いていく。そこに書かれた店名を見ても、僕にはそれがどんな店なのか、そもそも、どう読むのかもわからない。なんでメンズもわかるんだ。
「これは?」
春日さんは店頭に置かれていたマフラーを手に取って広げた。
「いいんじゃない?」
「あ、でもウールか……チクチクするから嫌いなのよね」
何を言ってるんだ? わからない。タグを見て買い物なんてしたことがない。
でも、母さんもよく見ている気がする。
「なんでもいいんじゃない?」
「良くないわ。私、自分が欲しくないものを人にあげるの嫌いなの」
「は、はぁ」
「五千円でマフラーだとウールかアクリルしかないわね」
「……」
春日さんはマフラーをあきらめて手袋を見始めた。
「御厨くんって手は大きい方?」
「いやー……」
「マフラーはサイズを気にしなくっていいから楽なのよね。上着ならМサイズでいいと思うけど手袋はピッタリじゃないと……」
「……」
また次の店か。
「あ、この階にあるんだ」
「ん?」
「私がよく買うブランド」
「ブランド?」
「あ、ハイブランドじゃないわよ」
「ハイブランド?」
「ちょっと見ていい?」
春日さんはキラキラした店に入っていく。
「ね、ねぇ、外で待ってていい?」
「いいけど?」
「女の子のお店、入りにくい」
「ああ、気にしなくていいのに。じゃあ、どこかで座って待ってて」
「いいよ。ここで待ってるから」
春日さんが服を手に取ったり、店員さんと話しているのを眺めていた。
しばらくして、春日さんは店から出てきた。
「あれ? 何も買わなかったの?」
「えぇ。あとで通販で買うから」
「通販」
「サイズ感だけ実物が見たかったの。それにもうすぐセールだし」
「……」
「なに?」
「なんでもない」
これ……。一日やってたら……。
考えない。
「お昼」
「え?」
「もう十一時」
「まだ早いよ?」
「祝日だし、混んだら入れなくなる。もう探しましょう」
「うん」
お母さんみたいだ……。
「ここで食べる?」
エスカレーターの前まで来ると、春日さんは立ち止った。
「オムライスはどうかな」
「いいわね。たしかこの上にもあるわ」
「いや、すぐそこにあるみたい」
春日さんはいたずらに笑った。
「ふふっ、ちゃんと調べてきたんだ」
「なんだよ」
「んーん。行きましょ?」
僕たちはショッピングモールを出て、すぐのところにある洋食屋さんに向かった。
少し歩くと、三角形の大きな屋根が見えてきた。木でできた家のような外観だ。
「ここ?」
「そうだよ。なんかかわいいでしょ?」
「そうね」
春日さんが先にドアを開けて入った。店内も外観のイメージそのまま。壁も天井も木がそのままで別荘に来たみたいだ。
「お二人ですか? こちらにどうぞ」
僕たちは壁際の二人席に案内された。




