15.雨
御厨が学校をサボった。今まで、全くなかったわけじゃない。
「ライブに行くから」そんな理由で休んだこともある。
でも昨日のことがある。僕のせいだ。
昼休みになっても、御厨は現れず、僕は屋上に行くか迷っていた。
「町田くん?」
春日さんが教室の中まで僕を呼びに来た。春日さん……転校三日目なのに強いな。まわりの視線が痛い。
「あ、ああ。行こうか」
慌てて立ち上がると、春日さんと屋上に向かった。いつものルート。いつもとは違う気持ち。
そして──
「雨だ」
僕たちがドアを開けると、いつの間にか降り出した雨が吹き込んできた。
「ねぇ、雨の日はどうしてるの?」
「その辺に座って食べてるよ」
僕は上ってきた階段を指差した。御厨とはいつも最上段に座っていた。でも。さっき少し濡れてしまったので、今日は一つ下の踊り場まで下りた。
「階段でお弁当だなんて」
「女子はしない?」
「わからないけど、私は初めてかな」
「試してみたら癖になるかも」
「うん」
机がないのはベンチでも同じ。でも階段はスペースが広い。僕はさっさとお弁当を片付けると、その広いスペースに寝転んだ。踊り場の良さを春日さんに伝えようと思った。
それを見た春日さんはくすくすと笑いながら、ゆっくりお弁当を食べていった。
雨の音を聴いていた。サーッ。ピチョン。ポタッポタッ。チョロチョロ。色々な水の音に、遠くに聴こえる学校のガヤガヤした音。本当に寝てしまいそうだ。
「よいしょ」
「?」
いつの間にか、お弁当を食べ終えた春日さんが、隣に寝転ぼうとしている。
「ちょっ……汚れるよ」
とっさに伸ばした腕に柔らかな髪が降りてくる。その後に小さな頭の重み。そして真横の世界で僕らは目が合った。
「ちょ?!」
「これも初めてだから」
春日さんは僕の腕に頭を乗せたまま動かない。
もちろん僕も動けない。
ドクン。ドクン。心臓が破けそうだ。雨の音も聞こえない。心臓の音だけがやけに大きく聞こえる。
荒くなりそうな呼吸を抑えていた。こんな近くに春日さんがいる。
「私……」
春日さんが何か言いかけたがちょうどその時、……コツコツと階段を上がってくる足音が響いた。
僕らは同時に起き上がって、足音の行く先を伺った。こっちに来ると面倒くさい。
「御厨くんかな?」
「……」
違う。あいつは休みだし。
足音はこちらとは別の方向へ進んだみたいだ。
「ふぅ」
「御厨くんと全然話せてないなぁ」
あいつが来ないのは僕のせいだ。
「私、避けられてるのかな? クラスでも……」
「知らない」
僕は春日さんの言葉を遮った。そんな話されても知らないものは知らない。だいたいあいつが……。
「喧嘩」
「え?」
「してるの?」
春日さんの顔を見た──
「町田くん?」
「いや……」
「喧嘩してるのね。私のせいで」
「違う!」
大きな声が出てしまった。
「ごめん。でも違うよ。喧嘩はしてる。でも……」
「何があったのか教えて」
「あ、ああ」
そこでチャイムが鳴った。もう戻らないといけない。
「また……明日かな。あ、でも土曜か」
「放課後」
「え?」
「今日は私も放課後、ここに来るわ」
「それでもいいけど」
「じゃあ、戻りましょ」
春日さんがさっさと階段を降りていったので、僕も慌てて後ろを追いかけた。
午後の授業は拷問だ。夏休みも冬休みもいらないから毎日、午前中で終わらないかな。
放課後……か。
なんか毎日残ってる気がする。こうして友達と過ごすなんて、昔の僕からは想像もつかない。
ここに来てからも逃げるように帰っていたから。
昨日、御厨を待っている間。教室には何人か残っていたし、中庭も誰もいないわけじゃなかった。
みんな……学校好きなんだな。
退屈な授業は進む。僕はこんなことで特進に進めるのかな。未来をイメージする僕の頭に、ふと、春日さんの言葉が引っかかった。
今日は私も──
昨日は御厨と。その前も。なんかだんだん腹が立ってきた。




