13.邪魔者
ダルい。しんどい。ズキズキする頭を押さえていると、昨日のことが頭を過ぎる。まさかあれで筋肉痛? なんか色々あった気がするけど、いいや。
朝。学校の玄関。まだしんどい。廊下まで来ると昨日、ここで春日さんと出会ったことを思い出した。
「あっ」
これは僕じゃない。担任の先生の声だ。
「お前! 昨日どこ行ってたんだ」
愛想笑いで乗り切ろうとするが、しっかりと肩を掴まれてそのまま職員室だ。
先生に怒られている間、考えるのは今日の昼休みのこと。
授業をサボって何をしていたのか? なんて聞くから思い出してしまった。
春日さんに会う予定だったんだ。御厨は僕の気持ちを伝えればいいって言うけど、難しい。
「もう行っていいぞ」
「気をつけます」
一応、担任に頭を下げ、「失礼しました」と、廊下に出た。全然、話を聞いてなかったけど、大丈夫だよな。
教室に向かう途中、再度、玄関を通る。
いない。
こんなにたくさん人がいるのに寂しさを感じた。たった一人、現れただけなのに、見えるもの全てが違って見えた。
教室に入っても同じ。僕におはようと挨拶してくれる生徒もいる。僕は笑顔で返事をする。でも……。
それから、長い長い授業が終わり、昼休みになった。今日は逸る気持ちもない。授業中はあんなに待ち遠しかったのに、いざとなると緊張する。
廊下に出ると、昨日と同じ場所に春日さんが待っている。今日はお弁当を持って。わざわざ僕たちに合わせてくれたんだな。
「お待たせ」
「大丈夫」
「じゃ、行こうか」
僕が前を歩く。春日さんは付いてくる。屋上へと向かう。いつもの廊下。いつもの階段。僕らは何も話さなかった。なのに、昨日とはまた違っていた。
いつもの重たい扉。そこまで来てハッとした。今日は僕が鍵を開けるんだ。内ポケットに手を伸ばすとカードキーを取り出した。
「ピピッ」
重たい扉が開いた。
「さぁ」
僕が扉を押さえていると、春日さんが先に屋上へ出た。
そして、昨日と同じようにフェンスの近くまで歩いていった。僕はベンチに腰掛けた。
「ねぇ、こっち」
春日さんは振り返って頷くと僕の隣に座った。
「お弁当、どうしたの?」
僕は袋から自分のを取り出しながら聞いた。
「お母さんは忙しいから、自分で」
「ふーん。女の子はえらいね。うちは母さんだけど、御厨のとこは親父さんが作ってるらしい」
「そういえば御厨くんは?」
「あぁ……知らない」
春日さんは少し俯いた。僕は構わずお弁当を食べ始めたが、春日さんの手は途中で止まっていた。
「どうしたの?」
「いえ……」
「……」
あまり見つめているのも悪い。僕はフェンスの向こうの景色を見ながらお弁当を食べ進めた。
「あの……」
「ん?」
「私、二人の邪魔をしてないかしら?」
「邪魔?」
「昨日も私が来たせいで……」
ああ。そうか。何て言えばいいだろう。早く何か言わないと。
「いや……」
「今も、私に気を使って御厨くんきてないんじゃ……」
「ん? そのうち来るんじゃない?」
「え?」
「御厨から今日は行かないとか聞いてないもん」
「ふふ、あなたは変わらないわね」
「?」
春日さんの言いたいことがわからない。邪魔なわけない。
そんなことより、目の前で笑ってくれたことが何よりだった。
春日さんはそれからようやくお弁当を食べ始めた。自分は早々に食べ終わってしまったので、春日さんが食べ終わるのを待つだけになった。
「なに?」
「い、いや」
目のやり場に困る。スマホは……ダメだよな。それにしても、春日さん。食べるのがゆっくりすぎる。
僕は立ち上がり、フェンスに肘をかけて遠くを見た。ふと、心が軽くなる。
「春日さん」
僕は振り返って言った。春日さんは首を傾げてこちらを見ている。
「邪魔じゃないよ」
春日さんは微笑んでいる。僕は恥ずかしくなって、またフェンスの方を向いた。




