12.今
「なんか言えよ」
御厨が言った。
「聞きたかったんだろ? なんで警察じゃダメか」
「……」
「どいつもこいつも自分だけが不幸みたいな顔しやがって」
僕は御厨を睨みつけた。
「お前が……」
御厨の声は震えていた。
「……ありがとうなんて言うから」
また風が吹き抜ける。
「雪のことはもう終わったのに……」
終わってない──
「……終わってない」
ふざけるな──
「ふざけるな」
「……達也」
「まだ、途中だろ?」
涙が止まらなかった。震えも止まらない。
「うっ……う、……っく」
声を上げて泣いた。何を言ってるのか自分でもわからない。
何度も息を整えようとしたが、そのたびに、また涙が出た。
いつの間にか、崩れ落ちて地面に座っていた。
「……ずっ」
僕は鼻を啜った。涙はもう出ていなかった。袖で目の周りをぐしぐしと拭いた。
「泣き止んだか?」
御厨の声に顔を上げる。
「彼女に言ってやる。ぎゃんぎゃん泣いてたって」
はぁ。やってしまった。
僕は何も言わず立ち上がり、ニヤニヤしている御厨の隣に座った。
「……いいよ。ほんとだし」
「達也」
御厨は内ポケットに手を入れるとカードキーを取り出した。
「誕生日プレゼントだ」
「は? 僕の誕生日は六月……」
「いいから」
インディーズバンドのステッカーが貼られたいつものカードキー。
「明日もここで彼女と会うんだろ?」
「でも……」
「俺はそのうち、またもらうからさ。持っとけよ」
僕はカードキーを受け取ると、少し眺めてから、内ポケットにしまった。
「お前は……」
「ん?」
「誕生日、いつなんだよ?」
「んー? 十月十日だよ」
「ふふっ……」
「あ?」
「あはははっ」
笑いが止まらない。お腹が痛い。息が吸えない。
「なんだよ」
「今日じゃねぇか」
こんなに泣いて、笑って。また涙が溢れてくる。
「御厨」
「あ?」
お前と出会えて本当に良かった──
「……ありがと」
真っ直ぐ、御厨の顔を見た。御厨も僕の目を真っ直ぐに見ていたが、舌打ちしながら遠くに目をやった。
「チッ。良い奴だよ。お前は……」
しばらく二人で並んで景色を眺めていた。空の高いところにはまだ昼の青が残っているが、街は夕陽に照らされて金色に輝いて見えた。
「綺麗だな」
「なんだよ気持ち悪い」
「……春日さんのこと」
「あぁ」
「やっぱり山野さんが仕組んだのかな」
「そうだな……。何人か協力する奴がいれば、そんな状況が作れると思う」
「加担してそうな奴が五人はパッと思い浮かぶんだけど」
「十分だろ。全員があの子の敵でなくてもいいからな」
「春日さんにはなんて言えば……」
そもそも、僕たちは春日さんが加害者だ、っていう資料を見たって言っていいのか? 口止めもされてないけど。
「お前はお前の気持ちを言えばいい。後は俺が上手く言っとくから」
「僕の気持ち?」
「好きですって」
今回ばかりは手が出そうになった。
でも。
「好きですは……今じゃないよ」
「向こうから好きって言ってくるかもよ?」
「そん時は……」
想像した。
「春日さんが僕のことを好きなわけがないだろ」
「はぁ〜〜~」
僕の返事を聞いた御厨は、これ以上ないくらい大きなため息をついた。




