11.友達だった
「知らない」
名前は聞いたことがあるような気がするけど。
内容は知らなかった。
「俺の友達が死んだ」
「……待ってくれ」
なんて言った?
触れない方が良かった?
なんの話だった?
なんて言えばいい?
「何も言わなくていいよ。聞いててくれ」
僕は頷いた。
「中一の春。俺に友達ができた。なんてことない普通の友達。名前だけ変わってて、雪って名前だった」
「……」
「友達だった」
御厨はしばらく黙っていた。僕は御厨が話し出すのを待っていた。
「俺たちのクラスには、林っていう危険な奴がいたんだ」
「危険?」
「そうとしか表現できない」
「そいつがいじめを?」
「そうだ。怖かった。俺も」
御厨も怖かった……か。
「体育の、サッカーの時間だった。雪の足が、林の足にぶつかった。わざとじゃなかった」
「うん。うん?」
「次の授業が始まって、林と雪がいない」
「まさか」
「人気のない校舎の端。血だらけで倒れてる雪が見つかった」
「し、死んでたの?」
「違うよ。ボコボコに殴られただけだ。折れたほうきが横に転がっていた」
「な、なぁ、腰を折って悪いんだけど……女の子、だよね?」
「冬に降る雪。漢字一文字でゆき。それが苗字の男だ」
「あー……」
納得した。
「そんな苗字あるんだ」
「いいか?」
御厨はこちらを向いて確認した。
「あ、ごめん」
もう一度下を向くと、御厨は続けた。
「それだけでは終わらなかった。なにかあるとすぐに暴力を振るった」
「お前は?」
「止められなかったよ」
「殴られたくないもんな」
「そのうちみんなが、雪をいないものとして扱うようになった」
知ってる。少しずつ変わっていく。一人になっていく感覚。
「そして雪は学校に来なくなった」
「酷い目にあって、不登校になるなんて、よくある話じゃないか」
「お前もそれで終わり。そう思うか?」
「わからないけど……」
「馬鹿がいたんだ。どうしようもない馬鹿が」
「なんだよ」
「雪がいなくなった教室は嘘みたいに平和だった」
「平和?」
「雪がいないことを気にする奴はいなかった」
「今度は自分かもしれない」
「そう。だから誰も雪の名前も出さない。教師も含めてだ」
僕がいなくなったときも、あのクラスは平和になったのかな。
「雪が不登校になって終わり。みんながそう思った。でも俺は許せなかった」
「どうしたんだよ」
「警察に行った。こんな悪い奴がいるんだって。捕まえてくれって」
「どうなった?」
「逮捕はされなかった」
「……難しいんだな」
「本人の被害届も出てなかったからな。だから警察の人と一緒に雪のところに行って話をしたんだ」
「被害届を出すようにって?」
「だって許せないだろ? クラスからいなくなるのは雪じゃなくて林のはずだ」
「まぁ……ね」
「雪は被害届を出してくれた」
御厨は少しだけ目を伏せた。
「説得できたんだ」
「それが間違いだった」
「は?」
胸の奥が、嫌な感じにざわついた。
「当然、林は警察に連れて行かれた。でも」
「でも?」
「林は雪に報復した」
「……」
「雪の家まで行って、金属バットで雪のことを痛めつけた。それを止めようとした雪のお母さんまで」
「めちゃくちゃだ」
「お母さんはその時、死んだ」
「な……」
同じ世界の出来事とは思えなかった。
「雪は俺のことを責めなかった。助けようとしてくれてありがとう。そうメッセージがきた」
結末を知っている僕は何も言えなかった。
「その次の日、雪は……」
御厨はそこで話を止め、こちらを向いた。
僕らはお互いの顔を見た。
その間を風が吹き抜けていく。




