第135話 終焉無双の、その先へ。
ここはレイアノーティア。
終わらなかった世界は、
まだ、
選べる。
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灰色の残滓が、
ゆっくりと薄れていく。
空へ色が戻る。
砂へ風が戻る。
鼓動が戻る。
呼吸が戻る。
世界は、
まだ生きていた。
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ドミニオンが、
ゆっくりと翼を広げる。
先ほどまでとは違う。
そこにあったのは、
絶対ではない。
迷いだった。
「終焉は保留された。だが、均衡はまだ崩れていない」
低い声。
紫の瞳が揺れている。
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トンヌラは、
足元のぽめを見る。
すでに丸くなり、
何事もなかったように眠っていた。
「……保留かよ」
小さく笑う。
それから、
ドミニオンへ視線を戻した。
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「貴様らは限界を越えた。世界は一度、終焉判定を受けた。それでもなお、揺らぎを選ぶか」
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トンヌラは肩を回した。
一歩、
前へ出る。
名はない。
役割もない。
それでも。
迷いはなかった。
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エヴァンが叫ぶ。
「やめろ! もう十分だ! 終焉判定を受けた世界に、これ以上の誤差は許されない!」
声が震えている。
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トンヌラは振り返らない。
「許すとか許さないとか、誰が決めるんだ」
少しだけ笑った。
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砂漠の風が吹く。
仲間たちが、
トンヌラの後ろへ並んだ。
ガルド。
コムギ。
フィー。
ミラ。
クラウス。
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トンヌラは、
両腕を大きく広げた。
「説明しよう!!」
声が、
砂漠全体へ響き渡る。
仲間たちは、
思わず笑った。
こんな状況でも、
それをやるのか。
けれど。
誰も止めない。
もう知っているからだ。
この言葉のあと、
誰かが自分自身を選ぶことを。
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「五戒とは!!」
「世界に従うための戒めではない!!」
「守るために!」
「支えるために!」
「生きるために!」
「揺らすために!」
「並ぶために!」
「そして……自分で選ぶための覚悟だ!!」
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ガルドが盾を構える。
「受ける覚悟!」
赤い光が燃え上がった。
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コムギが鍋を掲げる。
「支える覚悟!」
金色の光が広がった。
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フィーが両手を重ねる。
「命を信じる覚悟!」
緑の光が脈を打った。
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ミラが弦を鳴らす。
「揺らす覚悟!」
欠けた旋律とともに、
藍色の光が震えた。
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クラウスが糸を握る。
「選ぶ覚悟!」
紫の光が、
砂漠を走った。
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五つの光が、
トンヌラの足元へ集まる。
赤。
金。
緑。
藍。
紫。
今までとは違う。
誤解ではない。
偶然でもない。
誰かに与えられた役割でもない。
五人が、
自分で選んだ光だった。
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五重の円環が浮かび上がる。
空間が震える。
砂が宙へ浮かぶ。
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その時。
砂を踏む音がした。
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ゆっくりと。
一人の男が、
五重の円環へ近づいてくる。
勇者の鎧はない。
与えられた光もない。
一本の剣を握り、
自分で選んだ道を歩いてくる。
選択者。
勇者ではなくなった男。
サトウだった。
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サトウは、
五色の光の前へ立った。
剣を握る。
橙色の光が、
その刃へ静かに灯る。
「道を作る」
それだけだった。
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橙色の光が、
五重の円環の中心へ入っていく。
六つ目の環にはならない。
世界が用意した五戒の内側へ、
存在しないはずの道だけを作っていく。
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トンヌラは、
振り向きもせずに言った。
「制限解除……」
口元が上がる。
「第六戒」
静かに息を吸った。
「殻を破る、人間の力」
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世界が震えた。
五重の円環が、
内側から押し広げられていく。
赤。
金。
緑。
藍。
紫。
そして、
橙。
六色の光が、
ゆっくりと一つへ重なった。
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トンヌラが、
静かに息を吸う。
「五戒封環」
六つの光が、
円環の上を駆け巡る。
空が軋んだ。
「終焉無双――」
六人の呼吸が重なる。
「五戒封環・終焉無双!!!」
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六色の奔流が生まれた。
世界が沈む。
時間が止まる。
砂粒が、
空中で静止する。
今まで何度も、
無理を押し通してきた光。
仲間たちの覚悟を束ね、
世界へ誤解を刻んできた終焉無双。
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誰もが、
これで終わったと思った。
ドミニオンも。
エヴァンも。
仲間たちさえも。
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けれど。
光は消えなかった。
円環は、
なお静かに回り続けている。
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トンヌラは、
もう一度息を吸った。
深く。
静かに。
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六色の光が、
さらにその奥へ沈んでいく。
外へは放たれない。
ドミニオンへも。
空へも。
世界へも。
すべて、
トンヌラの内側へ吸い込まれていく。
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トンヌラは目を閉じた。
音が消える。
風が消える。
誰かに決められた役割も。
奪われた名前も。
何者でもないという空白も。
すべてを、
六色の光が包んでいく。
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そして――
目を見開いた。
その瞳に、
もう迷いはなかった。
「絶戒!!!」
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爆音は起きなかった。
衝撃もない。
光は、
誰も傷つけない。
誰かを倒すための力でもない。
一本道へ整えられていた世界の奥で、
閉じられていた何かが、
静かに開いていく。
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ドミニオンが、
初めて声を荒らげた。
「何をした!」
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クラウスは、
自ら呼び出した紫の糸を見つめていた。
一本だった糸が、
無数の先へ分かれ始めている。
「これは攻撃ではありません」
クラウスは、
静かに告げた。
「世界への返答です」
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六色の光だけが、
最後まで色を失わなかった。
その瞬間。
世界が、
白く反転した。
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ここはレイアノーティア。
第六戒は、
世界には存在しなかった。
だから。
人間が、
勝手に作った。
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第135話 了




