表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴカイ無双―五つの戒めは、世界を自由にする―  作者: フラグメント水沢
第13章 何度でも、朝へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
132/140

第132話 覚悟、完了

 ここはレイアノーティア。


 覚悟は、


 誰かにもらうものじゃない。


 押しつけられるものでもない。


 自分で決めた時だけ、


 それは力になる。



 灰色の砂漠。


 後方では、


 サトウたちが魔物の群れを受け止めていた。


 剣戟。


 魔法。


 咆哮。


 無数の音が、


 遠くで重なっている。


 その中央には、


 四体の擬似魔王。


 さらに奥には、


 統戒の魔王ドミニオンが立っていた。



 ドミニオンが静かに告げる。


「過去の失敗は学習済みだ。同じ結果にはならない」


 紫の瞳が細くなる。


 一歩、


 前へ出た。


「今の貴様らには、この四体で十分だ」



 四体が、


 同時に動いた。


 不協和。


 災衡。


 衰退。


 虚無。


 それぞれの気配が重なり、


 灰色の空間を一つの構造へ変えていく。



 クラウスの瞳が細くなった。


 四体から伸びる糸が見える。


 別々の魔王ではない。


 互いの欠損を補い、


 一体が崩れれば、


 残る三体がその構造を縫い直す。


「四体で、一つです」


 クラウスが手を上げる。


 紫の糸が、


 指先から伸びた。


「接続を切ります。ですが長くは持ちません。倒すなら――同時に」


 糸を引く。


 四体を結んでいた黒い因果へ、


 紫の縫い目が走った。


「行ってください」



 四つの戦場が、


 一度に開いた。



 最初に空気を支配したのは、


 不協和を写した存在。


 呼吸が噛み合わない。


 足が揃わない。


 鼓動がずれる。


 自分の身体から、


 自分の拍だけが引き剥がされていく。



 ミラが前へ出た。


 ギターを構える。


 左耳は戻らない。


 左目も戻らない。


 それでも、


 右手は迷わなかった。


「また乱すの? 悪いけど、救世響鳴レゾナンス・オブ・エクソダスはもう鳴らせない。でも――だからどうした」


 ギターを握り直す。



 一音。


 二音。


 三音。


 荒い。


 完璧ではない。


 左側の空白も、


 演奏の中に残っている。


 けれど。


 誰かへ合わせるための音ではない。


 今のミラが、


 自分で決めた拍だった。



「拍は、あたしが支配する」


 藍色の波が広がった。


 押しつけられた不協和へ、


 欠けた旋律が食い込んでいく。


 整えるのではない。


 以前の音へ戻すのでもない。


 今ここで鳴っている音を、


 戦場の拍として奪い返す。


 擬似ディソナンスの身体が揺れた。


「カイセキ……フノウ……」


 藍色の亀裂が走る。



 災衡を写した存在が、


 ガルドへ迫る。


 踏み込めば、


 その力が返る。


 受ければ、


 受けた分だけ押し戻される。


 前へ進もうとする意志そのものが、


 代償へ変えられていく。



 ガルドは盾を構えた。


 かつて欠けた盾ではない。


 誰かから借りた盾でもない。


 今の自分が、


 守るために選んだ盾だった。


「受ける。守る。帰る。それが俺だ」


 赤い光が燃え上がる。



 返される衝撃を、


 一つ残らず受け止める。


 足が砂へ沈む。


 腕が軋む。


 盾の表面に、


 深紅の線が幾重にも刻まれていく。


 受け続けた記録が、


 巨大な赤い大剣となって背中へ現れた。


 痛み。


 重さ。


 守れなかった後悔。


 そのすべてを、


 憎しみではなく、


 守るために返す。


「赤い帰結クリムゾン・リコレクション


 深紅の大剣が振り下ろされた。


 擬似ディザスターの内部へ、


 蓄積された帰結が流れ込む。


 赤い亀裂が走った。



 三体目。


 衰退を写した存在が、


 周囲の時間を巻き戻す。


 踏み出した足が戻る。


 伸ばした手が戻る。


 選んだはずの瞬間が、


 選ぶ前へ引き戻されていく。


 傷も。


 涙も。


 後悔も。


 すべてを、


 なかったことにするために。



 フィーが前へ出た。


 両手を広げる。


「戻さない。傷も、涙も、後悔も。全部、生きた証だから」


 緑の光が脈打った。


 失ったものがある。


 治せなかったものがある。


 どれほど願っても、


 戻らない時間がある。


 だからこそ。


 今ここにある命を、


 過去へ渡さない。


代命猶予ハート・モラトリアム


 緑の波が、


 現在の命を繋ぎ止める。


 巻き戻しが止まった。


 擬似ディクラインの表面へ、


 緑の亀裂が走る。



 最後は、


 虚無。


 存在を削る。


 意味を削る。


 輪郭を削る。


 食料も。


 水も。


 温度も。


 生きるために積み重ねたものを、


 初めからなかったことにしていく。



 コムギが前へ出た。


 鍋を持つ。


 おたまを握る。


 削られていく戦線を見て、


 少しだけ笑った。


「削るなら、私は足します」


 金色の光が広がる。


 食べる。


 飲む。


 眠る。


 立つ。


 生きる。


 どれも派手ではない。


 けれど、


 一つでも欠ければ、


 人は戦い続けられない。


 だから、


 最後まで途切れさせない。


終糧配給ラスト・レイション


 削られた場所へ、


 金色の光が流れ込む。


 失われるより早く。


 消されるより先に。


 人と人とを、


 生きるための線で繋ぎ直していく。


 擬似ディボイドの処理が追いつかない。


 黒い表面へ、


 金色の亀裂が走った。



 クラウスの指が震える。


 四体を切り離していた紫の糸が、


 限界を迎えようとしていた。


「今です!」



 藍。


 赤。


 緑。


 金。


 四つの亀裂が、


 同時に弾けた。



 擬似ディソナンス。


 擬似ディザスター。


 擬似ディクライン。


 擬似ディボイド。


 四体の身体が、


 同じ瞬間に崩れ落ちる。


 再接続する前に。


 互いを縫い直す前に。


 灰色の砂へ還っていった。



 静寂。



 ドミニオンが、


 初めて眉を動かした。


「……ありえない」


 エヴァンも、


 水晶へ視線を落とす。


 数値が合わない。


「出力が上昇している。誤差中心は存在しないはずだ」



 クラウスが、


 紫の糸を消しながら前へ出た。


「当然です。あなた方は、まだ勘違いしています」


 ドミニオンを見上げる。



 コムギが続けた。


「私は、団長がいるから支えているんじゃない」



 ガルドが盾を下ろす。


「俺が、守ると決めた」



 フィーは、


 胸の前で両手を重ねた。


「私は、命を抱える」



 ミラが弦へ触れる。


「私は、鳴らす」



 クラウスが、


 トンヌラの隣へ並んだ。


「私は、並ぶ」



 五人が、


 静かにトンヌラを見る。



 クラウスが、


 少しだけ笑った。


「団長。もう全員、覚悟は完了しています」



 トンヌラは目を瞬いた。


 それから、


 苦笑する。


「まさか、また先に言われるとはな」



 クラウスは頷いた。


 一本の紫の糸が、


 静かに指先から現れる。


 世界から伸びてきた糸ではない。


 クラウス自身が呼び、


 自分の意志で差し出した糸だった。


「私たち全員の名を預けます。もう、あなたが呼ばなくても、私たちは自分で預けると決めました」


クラウスはいつものように、目を細めた。


「あなたに役割がなくても、それが私たちの選択です」



 トンヌラは、


 差し出された糸を見つめた。


 昔なら、


 名前を叫んでいた。


 根拠もなく。


 大げさに。


 世界へ向かって、


 そういう存在なのだと言い張っていた。


 けれど。


 今は違う。


 名前を与える必要はない。


 もう全員が、


 自分の名を知っている。



 トンヌラは、


 仲間たちを見渡した。


 ガルド。


 コムギ。


 フィー。


 ミラ。


 クラウス。


 誰一人、


 トンヌラに立たされてはいない。


 全員が、


 自分の足で立っていた。


 だから。


 初めて、


 仲間の選択へ応える。


「覚悟……完了」



 砂漠に、


 風が戻った。


 静かだった。


 けれど。


 もう誰も、


 迷ってはいなかった。



 ここはレイアノーティア。


 役割は、


 与えられるものではない。


 覚悟が、


 人を立たせる。


 そして。


 選択が、


 人を歩かせる。


 第132話 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ