第131話 選択者《パス・メーカー》
ここはレイアノーティア。
誰かが選んだ一歩は、
ときどき、
別の誰かが歩くための道になる。
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灰色の砂漠。
裂けた大地から、
魔物が溢れ続けていた。
牙。
爪。
咆哮。
歪んだ身体が、
砂を覆い尽くしていく。
その奥には、
四体の擬似魔王が立っていた。
不協和のディソナンス。
災衡のディザスター。
衰退のディクライン。
虚無のディボイド。
本物ではない。
けれど。
かつての魔王と、
同じ構造を与えられた調整体だった。
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トンヌラたちは止まらない。
一歩。
また一歩。
押し寄せる群れへ向かい、
ただ歩き続ける。
その時だった。
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砂漠の反対側から、
剣戟が響いた。
乾いた金属音。
魔物の咆哮。
砂を踏み込む、
無数の足音。
「前線を押し返せ!」
人の声が響く。
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魔物の群れが、
横から弾け飛んだ。
砂煙の中を、
一筋の剣閃が走る。
「トンヌラ!」
聞き覚えのある声だった。
砂煙を抜け、
一人の男が走ってくる。
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サトウだった。
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以前とは違う。
勇者の鎧ではない。
白い外套も、
豪華な装備も身につけていない。
旅人のような軽装。
腰に一本の剣。
それだけだった。
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「来たのか」
トンヌラが笑う。
「来るって決めた。それだけだ」
サトウも笑った。
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その背後から、
三人が続く。
賢者バル・サン。
聖女リディア。
ホーリーガード・レオン。
さらに。
その後ろには、
メルグラフの冒険者たちがいた。
何十人。
いや。
百人を超えている。
誰かに整えられた隊列ではない。
装備も。
歩幅も。
立つ位置もばらばらだった。
それでも。
全員が、
自分の足でここまで来ていた。
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エヴァンが目を細める。
「勇者因子……?」
その背後に浮かぶ水晶から、
ノインの声が返った。
「違います。数値が一致しません」
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サトウは苦笑した。
「勇者じゃない」
剣を肩へ担ぐ。
「ここへ来る前に、職業水晶へ触れてきた」
ミラが笑う。
「それで?」
サトウは、
少し照れくさそうに答えた。
「選択者」
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誰も笑わなかった。
その名は、
今のサトウに妙に似合っていた。
勇者ではない。
誰かに決められた道を、
先頭で歩かされる者でもない。
自分で道を選び、
誰かが選べる道を残す者。
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トンヌラが頷く。
「いい名前だ」
「勇者より気に入ってる」
サトウは、
少しだけ胸を張った。
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「コムギさん!」
冒険者の一人が叫んだ。
コムギが振り向く。
「昨日、あなたが言ったんだ。今日は、自分で決めてくださいって!」
若い冒険者は、
困ったように笑った。
「正直、困りましたよ。でも、初めて自分で依頼を選びました!」
「俺もだ!」
「私も!」
「誰かに割り振られたんじゃない。自分で、ここへ来るって決めた!」
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いくつもの声が重なる。
コムギは、
目を潤ませた。
「そうですか」
それだけしか、
言えなかった。
けれど。
その顔は、
誰かの代わりに正解を選んでいた頃より、
ずっと嬉しそうだった。
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別の冒険者が、
ガルドの前へ走ってくる。
「ガルドさん! 今日は守ってください!」
ガルドは首を振った。
「違います」
盾を構える。
「今日は、一緒に守りましょう」
冒険者は目を見開き、
すぐに笑った。
「はい!」
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フィーの前へ、
傷を負った冒険者が運ばれてくる。
「お願いします!」
フィーは傷へ手を触れた。
緑の波が、
裂けた皮膚と乱れた命を包み込む。
「治します。でも、治すまでを私だけに任せないでください」
冒険者をまっすぐ見る。
「あなたも、生きてください」
「……はい」
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ミラのそばへ、
昨日の演奏を聴いていた子どもが駆け寄る。
「歌って!」
ミラが目を丸くした。
「今?」
「今!」
押し寄せる魔物を見る。
それから、
小さく笑った。
「しょうがないな」
弦へ指を置く。
一音。
欠けた旋律が、
灰色の戦場へ響いた。
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クラウスは、
その光景を静かに見渡していた。
命令されずに集まった冒険者たち。
自分で役割を選び直す者たち。
誰かの選択を受け取り、
次の選択へ変えていく人々。
「なるほど」
クラウスが小さく笑う。
「これは、名称干渉ではありません」
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エヴァンが振り向いた。
「では、何だというのです」
「選択です」
クラウスは答えた。
「自分で決めた人間は、その先も自分で選び続ける」
エヴァンの表情が曇る。
「ありえません」
「ありえています」
クラウスは、
目の前の者たちへ視線を向けた。
「今、ここで」
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サトウが剣を構える。
迫る魔物の群れを見据え、
大きく息を吸った。
「トンヌラ!」
「なんだ」
「こっちは任せろ。お前たちは、魔王だけを見ろ!」
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バル・サンが杖を掲げる。
「群れを分断する!」
魔力の壁が、
砂漠を大きく切り分けた。
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リディアが両手を広げる。
「前線を維持します!」
白い光が、
傷ついた冒険者たちを包む。
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レオンが盾を打ち鳴らした。
「誰も通させるな!」
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無数の冒険者が走り出す。
誰か一人の命令ではない。
世界に与えられた役割でもない。
怖くない者などいない。
勝てると確信している者もいない。
それでも。
自分で選んだから、
走る。
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トンヌラは、
その背中を見た。
「変わったな」
サトウも笑う。
「お互いな」
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トンヌラは前を向く。
統戒の魔王ドミニオン。
その背後に立つエヴァン。
整えられた灰色の空。
そこまで続く道は、
まだ魔物に塞がれている。
けれど。
道を作る者がいる。
その道を選び、
歩く者たちがいる。
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トンヌラは、
一歩を踏み出した。
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ここはレイアノーティア。
一人が選んだ道を、
次の誰かが選び直す。
役割でも。
命令でもない。
選択だけが、
次の選択を生む。
第131話 了




