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ゴカイ無双―五つの戒めは、世界を自由にする―  作者: フラグメント水沢
第13章 何度でも、朝へ

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第131話 選択者《パス・メーカー》

 ここはレイアノーティア。


 誰かが選んだ一歩は、


 ときどき、


 別の誰かが歩くための道になる。



 灰色の砂漠。


 裂けた大地から、


 魔物が溢れ続けていた。


 牙。


 爪。


 咆哮。


 歪んだ身体が、


 砂を覆い尽くしていく。


 その奥には、


 四体の擬似魔王が立っていた。


 不協和のディソナンス。


 災衡のディザスター。


 衰退のディクライン。


 虚無のディボイド。


 本物ではない。


 けれど。


 かつての魔王と、


 同じ構造を与えられた調整体だった。



 トンヌラたちは止まらない。


 一歩。


 また一歩。


 押し寄せる群れへ向かい、


 ただ歩き続ける。


 その時だった。



 砂漠の反対側から、


 剣戟が響いた。


 乾いた金属音。


 魔物の咆哮。


 砂を踏み込む、


 無数の足音。


「前線を押し返せ!」


 人の声が響く。



 魔物の群れが、


 横から弾け飛んだ。


 砂煙の中を、


 一筋の剣閃が走る。


「トンヌラ!」


 聞き覚えのある声だった。


 砂煙を抜け、


 一人の男が走ってくる。



 サトウだった。



 以前とは違う。


 勇者の鎧ではない。


 白い外套も、


 豪華な装備も身につけていない。


 旅人のような軽装。


 腰に一本の剣。


 それだけだった。



「来たのか」


 トンヌラが笑う。


「来るって決めた。それだけだ」


 サトウも笑った。



 その背後から、


 三人が続く。


 賢者バル・サン。


 聖女リディア。


 ホーリーガード・レオン。


 さらに。


 その後ろには、


 メルグラフの冒険者たちがいた。


 何十人。


 いや。


 百人を超えている。


 誰かに整えられた隊列ではない。


 装備も。


 歩幅も。


 立つ位置もばらばらだった。


 それでも。


 全員が、


 自分の足でここまで来ていた。



 エヴァンが目を細める。


「勇者因子……?」


 その背後に浮かぶ水晶から、


 ノインの声が返った。


「違います。数値が一致しません」



 サトウは苦笑した。


「勇者じゃない」


 剣を肩へ担ぐ。


「ここへ来る前に、職業水晶へ触れてきた」


 ミラが笑う。


「それで?」


 サトウは、


 少し照れくさそうに答えた。


選択者パス・メーカー



 誰も笑わなかった。


 その名は、


 今のサトウに妙に似合っていた。


 勇者ではない。


 誰かに決められた道を、


 先頭で歩かされる者でもない。


 自分で道を選び、


 誰かが選べる道を残す者。



 トンヌラが頷く。


「いい名前だ」


「勇者より気に入ってる」


 サトウは、


 少しだけ胸を張った。



「コムギさん!」


 冒険者の一人が叫んだ。


 コムギが振り向く。


「昨日、あなたが言ったんだ。今日は、自分で決めてくださいって!」


 若い冒険者は、


 困ったように笑った。


「正直、困りましたよ。でも、初めて自分で依頼を選びました!」


「俺もだ!」


「私も!」


「誰かに割り振られたんじゃない。自分で、ここへ来るって決めた!」



 いくつもの声が重なる。


 コムギは、


 目を潤ませた。


「そうですか」


 それだけしか、


 言えなかった。


 けれど。


 その顔は、


 誰かの代わりに正解を選んでいた頃より、


 ずっと嬉しそうだった。



 別の冒険者が、


 ガルドの前へ走ってくる。


「ガルドさん! 今日は守ってください!」


 ガルドは首を振った。


「違います」


 盾を構える。


「今日は、一緒に守りましょう」


 冒険者は目を見開き、


 すぐに笑った。


「はい!」



 フィーの前へ、


 傷を負った冒険者が運ばれてくる。


「お願いします!」


 フィーは傷へ手を触れた。


 緑の波が、


 裂けた皮膚と乱れた命を包み込む。


「治します。でも、治すまでを私だけに任せないでください」


 冒険者をまっすぐ見る。


「あなたも、生きてください」


「……はい」



 ミラのそばへ、


 昨日の演奏を聴いていた子どもが駆け寄る。


「歌って!」


 ミラが目を丸くした。


「今?」


「今!」


 押し寄せる魔物を見る。


 それから、


 小さく笑った。


「しょうがないな」


 弦へ指を置く。


 一音。


 欠けた旋律が、


 灰色の戦場へ響いた。



 クラウスは、


 その光景を静かに見渡していた。


 命令されずに集まった冒険者たち。


 自分で役割を選び直す者たち。


 誰かの選択を受け取り、


 次の選択へ変えていく人々。


「なるほど」


 クラウスが小さく笑う。


「これは、名称干渉ではありません」



 エヴァンが振り向いた。


「では、何だというのです」


「選択です」


 クラウスは答えた。


「自分で決めた人間は、その先も自分で選び続ける」


 エヴァンの表情が曇る。


「ありえません」


「ありえています」


 クラウスは、


 目の前の者たちへ視線を向けた。


「今、ここで」



 サトウが剣を構える。


 迫る魔物の群れを見据え、


 大きく息を吸った。


「トンヌラ!」


「なんだ」


「こっちは任せろ。お前たちは、魔王だけを見ろ!」



 バル・サンが杖を掲げる。


「群れを分断する!」


 魔力の壁が、


 砂漠を大きく切り分けた。



 リディアが両手を広げる。


「前線を維持します!」


 白い光が、


 傷ついた冒険者たちを包む。



 レオンが盾を打ち鳴らした。


「誰も通させるな!」



 無数の冒険者が走り出す。


 誰か一人の命令ではない。


 世界に与えられた役割でもない。


 怖くない者などいない。


 勝てると確信している者もいない。


 それでも。


 自分で選んだから、


 走る。



 トンヌラは、


 その背中を見た。


「変わったな」


 サトウも笑う。


「お互いな」



 トンヌラは前を向く。


 統戒の魔王ドミニオン。


 その背後に立つエヴァン。


 整えられた灰色の空。


 そこまで続く道は、


 まだ魔物に塞がれている。


 けれど。


 道を作る者がいる。


 その道を選び、


 歩く者たちがいる。



 トンヌラは、


 一歩を踏み出した。



 ここはレイアノーティア。


 一人が選んだ道を、


 次の誰かが選び直す。


 役割でも。


 命令でもない。


 選択だけが、


 次の選択を生む。


 第131話 了

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